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ノーランの街 23


「ねえ、キース」


「何処かで食べて帰るんだろう?」


 あの後、エイリオ達とも別れて、私達は宿屋に向かって進んでいた。 前を進むキースに提案しようとすると、彼は分かっていたかのように返事をした。




「よくわかったわね」


「そんな顔をしていたからな」


 思わず、自分の顔を手で確かめてしまった。 別に普段と変わらない。 そんな私を笑いながら、キースは商店街に向かって進み始めた。 私もそれに続いて隣を歩く。




「何が食べたい?」


「そうね……。 新しいのもいいけど……」


 今食べたいものは……。 考えるとジェムズさんの店の米料理が浮かんでしまう。 また店に行くと言ったことだし、彼のお店にお邪魔しよう。




「ジェムズさんの所にしましょう?」


「わかった。 向こうだったな」


 私達は、ジェムズさんの米料理店に方向を変える。 歩きながら、私はキースに一つ聞いてみることにした。




「キースはどう思う? エルヴィンの言っていた話」


「……そうだな。 適当な事を言っている可能性もあるが、あの場でそんな事をする意味がない。 何か思惑があるとは思うが……」


 キースは顎に手を置き、目を細める。 暫く悩むが、答えは一向に出てこない。 この件は私にも関係する可能性がある。 何故なら……。




「機会があれば、調べてみたいの。 私の目とも関わりがあるかもしれないわ」


「……そうだな」


 キースは渋い顔をして返事を返してくる。 彼としては、私を危険な方へと向かわせたくないのだろうか。 でも、私は自分の目について知りたい。 普通の生活を送れなくなった原因である、この赤い目。 それに、フラグメントと言った彼らは、此方が何もしなくても再び関わってきそうな予感がする。




「わかった。 その事についても、出来るだけやってみよう。 だが、自ら危険に飛び込むようなことはするなよ?」


「そうならないように、しっかり私を守ってね。 キース」


 無理をするかもしれない、私は自分の事が知りたい。 でも、そばに居てくれるキースのことも大事だ。 どっちつかずな私は、彼をからかって場を濁した。 キースは苦笑して、執事ような動作で礼をした。




「辛気臭い話は終わりだ。 せっかく美味しいものを食べるんだからな」


「そうね。 ……良い匂い」


 ジェムズさんの店に近づくと、前と同じ良い匂いが漂ってきた。 相変わらず混んでいるようだ。 私達は列の最後尾へと並ぶ。




「何を頼むの? 私は……この前のおにぎりに入っていた具はあるかしら」


「俺は肉にするとしよう」


 店先に置いてあったメニューを手に取り、何を頼むか選ぶ。 この前の黒っぽい具材は……あった。




「あったわ、私はこれにする。 キースはお肉ね?」


 キースに確認して、メニューを元の場所に戻す。 暫く並んでいると、中から店員が近づいてくるのが見えた。




「おや、貴女達」


「マイアさん!」


 奥から来たのはマイアさんだった。 彼女は笑みを浮かべながら此方へと近づいてきて、キースの肩を叩き始める。 されるがままになっている、もう諦めたようだ。




「マイアさんも、ここで働いているの?」


「たまに主人を手伝っているんだよ。 さあ、席に案内するよ。 こっちにおいで」


 マイアさんに連れられて、席へと案内される。 厨房の前を通った時に、ジェムズさんを見かけた。 忙しそうだったので、声をかけるのは止めて素通りする。




「注文は決まっているのかい?」


「ええ、私はこの具材を」


「俺は肉にしてくれ」


 私達の注文をマイアさんは紙に書き止めていく。 その途中で思い出したように動きを止め、此方に顔を向けた。 私は彼女の様子に首を傾げた。




「そうだ。 貴女達、石焼きにしてみないかい?」


「石焼き?」


 マイアさんが"石焼き"というものを勧めてくる。 石焼きとはなんだろう、新しい料理の事? 見当がつかなかったので、彼女に聞いてみることにする。




「そう、石焼きさ。 熱した石の食器に、米料理を入れて持ってくるのさ。 おいしいよ」


「……美味しそうね。 それにするわ、キースも石焼きにする?」


「ああ、俺も頼む」


 目の前で調理するということだろうか。 何にしてもマイアさんが推してくれるのだから、美味しいはずだ。 なんと行っても彼女は、普段から米料理を作っている。




「はいよ。 それじゃあ、ちょっとまっていて頂戴ね」


 そう言ってマイアさんは厨房の方へと戻っていった。 そこで私はあることに気づく。 ……デザートを頼むのを忘れてしまった。




「この前の果物。 頼むのを忘れてたわ……」


「はは、確かにあれは美味かったな。 後ででも大丈夫だろう」


 それもそうか、持ってきてくれた時に頼むとしよう。 少しの間、キースと話をして料理を待っていると、再びマイアさんが何かを持って此方へと近づいてきた。 あれが石焼き?




―――――ジュウゥゥゥ


「ほら、おまちどう。 食器は熱いから触らないようにね。 それと、米をスプーンで周りに少し押し付けると美味しくなるよ」


 マイアさんは私達の前に、石の食器に入った米料理を置いた。 うん、香ばしい良い匂いだ。 食器が熱いせいか、より一層に香りが強く感じる。 彼女の言う通り、スプーンで米を食器の内側に押し付けるようにしてみる。




―――――ジュッ……ジュゥゥ


 押し付ける度に、米から気持ちのいい音が上がる。 少しの間、押し付けて離す。 すると、米が焼けたように固まった。 いい色だ、食欲をそそる。 それを掬って口へと放り込んだ。




「んっ……。 パリパリしてて美味しい!」


「ああ、この前のおにぎりみたいだな」


 何処かで知っている気がしたが、そうだ。 屋台で食べたおにぎりの、焼いた外側がこんな食感だった。 石の食器が熱いので、常に料理は温かいままだ。 これは画期的な料理だと思う、思わず笑顔になってしまう。




「気に入ってくれたみたいだね。 あとは、これもおまけだよ」


 どさっと音を上げて置かれたのは、大量の果物だ。 いくらなんでも、こんなに貰えない。 呆気にとられた顔でマイアさんの方を見ると、彼女は笑って此方を見ていた。




「あはは。 この前の依頼以降、魔物も出なくなってね。 これはそのお礼だよ。 まぁ食べきれないだろうから、残りは持って返っていきな!」


「……でも」


「いいんだよ、気に入ってるんだろう? 主人から聞いたよ、たいそうな笑顔で頬張ってたって」


 依頼をこなしたのは私達だが、その後に魔物が出なくなったのは私達のおかげというわけではないだろう。 そう言おうとしたが、マイアさんの言葉に思わず顔が赤くなった。 そんなに食い意地がはっていたかしら……。


 マイアさんは、そのまま笑いながら厨房へと戻っていってしまった。 せっかくの好意だ。 ありがたく貰っていくことにしよう。 茶化すような笑みを浮かべているキースを睨みながら、私は食事を再開した。




 

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