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ノーランの街 21


「遥かな過去、この世界に生命が誕生しました。 それは人と呼ばれ、またたく間に世界に広がっていきます」


 少し移動し、隣の壁画を見ながら言う。 その壁画には、空に大きな光の玉が浮かび、下には人が何人も描かれている。




「人は繁栄を極めました。 地上には天まで届く建物、空には船が浮かびます」


 また別の壁画を見ながら彼は言う。 しかし、その壁画には、それらしいことは描かれてはいない。




「これ以上ないほどに繁栄し、ついに行き詰まった彼らは、禁忌に手を出してしまいました。 欲を出しすぎたのです。 それを罰しに現れたのが、"魔王"。 後に、そう呼ばれる存在でした」


 どういう事? 魔王は人が自らの手で作り出したっていうの? 困惑する私を、彼は微笑みながら見ている。




「魔王は人を滅ぼさんと、その力をふるいます。 異形の力を使う魔王に、人には抗うすべがありませんでした。 間もなく、魔王が世界を掌握しようとした時、勇者は生まれました」


 そう言って彼が見ているのは、壁画に描かれた魔王と対峙する勇者の絵。 目を細めて暫く眺めた後、振り向いて話を続けた。




「勇者は魔王しか持ちえない力を使い、自らの従者を従えます。 そして魔王と、その配下を圧倒していきました。 ついには居城まで追い詰めることに成功し、最後の戦いを迎えました」


 少し、瞳が鋭くなったような気がする。 勇者が従者を従えていたなんて聞いたことがないが、旅の仲間の事だろうか。 その先は、私でもわかる。 勇者が魔王を討伐したが、滅ぼすまでには至らずに封印した……だろう。




「勇者と魔王の戦いは熾烈を極め、ついに決着を迎えます。 ……魔王の圧倒的な強さに、勇者は一歩及びませんでした。 魔王の力を削ぎ落とすことには成功しましたが、討伐には届かなかったのです」


「え……?」


 しかし、その結末は私の知っているものとは違っていた。 彼の話では勇者は魔王に敗北してしまっている。 いくつも派生する話があれど、負けてしまう結末は聞いたことがない。




「従者たちは、瀕死の勇者を抱えて魔王の元から敗走します。 そして、自らの最後の力を振り絞り、勇者の魂を封印することに成功しました。 ……未来に、その希望を託して」


 彼は話を締めくくり、暫く目を閉じた後、私の方へ視線を向けた。 どういう事だろう。 それでは魔王は討伐されず、世界は滅んだことになってしまう。 ……私を動揺させようとしている? 何のために?




「そんな適当な話、私が信じると思う? それに、私の質問と関係ないわ」


 そう、私が聞いたのは核を使って何をしているかだ。 適当な伝承を聞きたかったわけじゃない。 彼は少し笑って、此方に笑顔を向けてきた。




「そうですね。 ……この核は、魔王の魂からこぼれ落ちた一部。 私達にとっても、貴女にとっても大事なものです」


 要領の得ない答えに、私は眉をひそめる。 魔王の魂? まるで、私にも関係しているような素振りをしている。 心あたりがあるとすれば、この赤い瞳だ。 確かに、ゼイルの赤い核を見た瞬間、私は赤い瞳に意識を乗っ取られた。 しかし、大切なものというのは意味がわからない。




「私達は、これを集める事を目的として行動しているのですよ」


「集めてどうするの? 魔王でも復活させるつもり?」


 そんな事ができるのか、正直わからない。 それでも実際、人間に核が埋め込まれているのを見た。 あんな事が出来るのならば、魔王の復活も眉唾ものではないのかもしれない。 答えてくれるとは思えないが、一応問いただしてみる。




「……」


 微笑みながら黙り込んでしまった。 ならば、捕まえて無理にでも話させてやる。 体に魔力をこめた所で、後ろから叫び声が聞こえた。




『レティ!』


 背後からキースが走ってきた。 彼は、そのまま剣を男に振り下ろす。 しかし、それは黒い手に阻まれた。 ジェナがいつの間にか、私の横から男の近くへと移動している。




―――――ギ……ギギ…… ギャンッ!


 火花を散らせながら、キースが飛びのく。 次の瞬間、彼の居た場所を黒い手が引き裂いた。 私は彼に駆け寄り、ジェナと男の方を向く。




「申し遅れました、私はエルヴィス。 以後お見知りおきを」


 ようやく彼は名乗った。 エルヴィスと言うらしい、覚えておこう。 ついでに先程、聞き逃さなかった事についても聞いてみる。




「そう。 宜しくね、エルヴィス。 それとさっき、貴方は"私達"と言ったわね。 他にもいるの?」


 私の言葉に、エルヴィスは特に動揺すること無くジェナの方を見る。 ジェナはエルヴィスを見上げ、されるがままに頭を撫でられている。




「ええ、ジェナも含めて数人ほど。 私達は、"フラグメント"と名乗っております。 ……ああ、名乗るのは貴女方が初めてでした」


 からかわれているようだ、私は渋い顔をする。 "フラグメント"、欠片という意味だ。 魔王の魂の一部、核のことを指しているのだろうか。




「ふふ、それでは。 私達はこれで失礼します。 また会うこともあるでしょう、……それまでご機嫌よう」


 辺りに黒い風が吹き叫ぶ。 前を見てられなくなった私達は、手で顔の前にして凌いだ。 視界が戻ってきた時、エルヴィス達の姿は掻き消えていた。 緊張が溶けた私は、思わずその場にへたりこんだ。




「レティ」


「少し気が抜けたわ、ごめんなさい」


 キースが私の体に怪我がないか、心配そうな顔をして見ている。 エルヴィス達が居なくなるまで彼が動かなかったのは、私のことを最優先に考えていたからだろう。 考えてみれば、私はゴーレムに掴まれて誘拐されたのだ。 心配されない方がおかしいか。 ……そうだ、ゴーレム!




「キースは平気だったの? ラン達は?」


「それは……」


 そうだ、ゴーレムはもう一体いた。 それに此処にどうやって辿り着いたかもわからないし、ラン達の姿も見えない。 私がキースに聞くと、彼は後ろを振り向いた。




『レティ!』


 叫び声がして、そちらを見る。 キースが来た方向と同じ場所から、ランが私に向かって走って来ていた。 後ろにはエイリオとリグの姿も見える。 彼女は私のもとまで辿り着いて抱きついた。




「大丈夫? 怪我してない?」


「ちょっと頭を打ったけど大丈夫よ。 魔法で治したわ」


 ランは涙目で心配してくる。 よかった、彼女達も無事なようだ。 大分息があがっている、長い間走ってきたのだろうか。




「レティがゴーレムに連れ去られた後、俺達は別のゴーレムが居た方向へ走り出した。 お前を探しにな」


「そっちの道が一番可能性があったからね、空いた穴は塞がっちゃったし。 ……ものすごい勢いで走り出すから、付いていくの大変だったんだよ?」


 キースは説明し始めるが、ランの横槍に顔を歪めた。 あれは恥ずかしがっている顔だ。 ランは茶化すようにキースを見ている。




「……それで、暫く行った所で再びゴーレムと退治した。 なんとかやり過ごそうとしていた所に、黒い手がゴーレムを貫いた」


「背後から一撃だね。 コアを引き裂いて奥へと持っていってしまったよ」


 気を取り直して、キースが話を続ける。 やはり、ゴーレムと出会ってしまったようだ。 エイリオは手振りで表している。 黒い手……という事はジェナだろう。 彼女達は、コアを集めていると言っていた。 それに救われた形になるのだろうか?




「そして、その影が向かった方向を追いかけて、此処へ辿り着いた」


「あれは何だったんだ?」


 キースは後ろの通路を指差す。 なるほど、とにかく全員無事で良かった。 そして……リグの質問にはどうやって答えようか。




「もう、それは後で良いでしょ? とにかく上へ戻りましょう!」


 ランの言う通りだ。 まずは、ここから脱出しよう。 キースが私の肩を支えて立ち上がらせてくれる。 そして私達は、来た道を戻り始めた。




 帰り道では、魔物やゴーレムに襲われることはなかった。 崩れた床を魔法で登り、降りてきた階段を上へと進む。 ようやく地上の光が見えてきた。 全く、こんな大事になるとは思わなかった。




 

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