表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/93

ノーランの街 18


『レティ!』


 岩人形が視界に入った途端、キースが私を抱えて飛び退く。 彼は私から岩人形への視界を阻むようにして、目をじっと見つめてきた。




「どうしたの? キース」


「……なんともないか?」


 彼にしては珍しく必死だ。 別に体に異常はない、目の前の巨大な物に驚いていることを除けばだけれど。 キースは暫く私を見つめた後、ほっと息を吐いて口を開いた。




「おかしいと感じたらすぐに言うんだ。 戦わずに後ろに居ても良い」


「ありがとう。 でも、大丈夫よ。 私も戦う、何かあったらすぐに言うから」


 キースは頷いた後、私の方を掴んでいる手から力を抜いた。 近くでは心配そうに、ランが此方を見ている。 私達は再び彼らに近づいた。 岩人形は相変わらず、魔物の死骸をコアへと押し込んでいる。




「大丈夫?」


「ええ、ごめんなさい。 大丈夫よ」


 不安げなランに笑顔で返す。 何か言いたげだったが、目の前の異常事態のほうが今は先決だ。 全員が警戒しながら、それの動向を伺った。




 ふと、昔読んだ本を思い出す。 私はあれを知っているかも入れない。 呼んだ本は、戦争中に使われた魔法について書かれていたものだ。




「あれ、ゴーレムね」


「ゴーレム……とはなんだい?」


 呟く私に、エイリオが反応する。 他の皆も私の方を伺っていた。 恐らく、あの外見やコアからしてゴーレムで間違いないはず。 私は知っている知識を、皆に説明し始めた。




「戦争中に使われていた魔法なの。 岩に命を吹き込んで、攻城用の兵士を作る魔法よ。 魔物を吸収するなんて聞いたことがないけどね。 作られたゴーレムは術者の意のままに動くはずだから、あれを作った魔術師がいるはずね」


「魔物の退治のために作り出した……と信じたいけど、そうでもないみたいだね」


 私の説明に、エイリオが返す。 もしそうだったら、床を壊して人を巻き込み、とんだ迷惑だ。 残念ながら、その可能性は今なくなった。 コアに魔物を詰め終えたゴーレムは、此方に向かってゆっくりと歩き出した。 その手は途中で変形し、鋭くなっている。 どう見ても、私達も獲物だ。




「不味いわね……」


「手強いのかい?」


 ゴーレムから視線を離さずに頷く。 手強いなんてものじゃない。 私がゴーレムを知ったのは、戦争で使われた魔法の本だ。 少なくとも、こんな所でまともに戦える相手じゃないはず。




「上は……無理そうだな」


 キースは私たちが落下してきた床を見上げる。 魔法を使えば行けそうだが、宙にいるときは無防備だ。 ゴーレムが、みすみす逃してくれるとは思えない。




「なら、行く道は一つだな」


「ええ……あれの脇を通るの?」


 リグが見ているのは、ゴーレムのいるさらに奥。 先は見えないが、確かにそこには道がある。 どこに着くかはわからないが、とにかく今はゴーレムをやり過ごすことが先決だ。 ランが泣き言を言っている。 確かに、そのまま通れば叩き潰されるだろう。




「とにかく、まずは応戦しよう。 隙を見て奥の通路へ向かうんだ」


 エイリオの提案に全員が同意する。 それしかない、まずは私が先手を打ってみよう。 迫ってくるゴーレムに杖を向けて、集中する。




「Act.1 炸裂!」


 ゴーレムの肩の辺りで炎が爆発する。 それに合わせて他の皆が走り出した。 煙が晴れ直撃した箇所を確認するが、表面が焦げただけで大したダメージになっていない。




「らっ!」


 リグが反対側の腕に斧を叩きこむが、硬すぎて全く歯が立っていない。 ゴーレムは煩わしそうに腕を振るが、既の所で後ろに飛び退き回避した。 その動作の隙をついて、エイリオが潜り込む。




「ふっ!」


 腕の関節部分を狙ったようだ。 その魔力を纏った剣撃は、切り裂きこそしなかったが表面を浅く傷つけた。 ゴーレムが逆側の手を、エイリオに向かって振り下ろそうとしている。




―――――ヒュカッ……カラン


 その瞬間、ゴーレムのコア部分にキースの投げたナイフが刺さった。 それも魔力を纏っていたので刺さりはしたが、やはり表面を浅く傷つけただけで地面に落下してしまう。 しかし、ゴーレムは振り上げた腕をおろし、コア部分を守るような態勢をとった。


 ……なんだろう? コアを守らなくても、私達の攻撃はほとんど通っていない。 気にせず攻撃すれば良いはずだ。 余程の弱点……というよりは、それが術者から受けた最優先の命令という事だろうか。




「Act.1 大砲!」


 試しにコアに向かって魔法を放ってみる。 それはコアにあたること無く、ゴーレムの腕によって防がれて爆発した。 やっぱり、ゴーレムはコアを守ることを最優先に行動している。 私の魔法なんて、大してダメージが入らないのにも関わらずだ。 それなら……!




「キース達はゴーレムの動きを止めて! ラン、止まったら一緒に一撃入れるわよ!」


「わかった!」


 私の号令に、ランが此方へと引く。 続けて杖を構え、他の皆が攻撃しやすいように先制攻撃を仕掛ける。




「Act.2 凍結!」


 ゴーレムの足元を凍らせる。 先程上から水も流れてきたので、効果は遺憾なく発揮した。 ゴーレムはその場で態勢を崩しかけるが、すぐに氷を壊して動こうとしている。




―――――カッ! ……ヒュンッ! ……ギギンッ!


 エイリオとキースが執拗に関節部分を狙って剣撃を繰り返す。 ゴーレムは暫く腕で防御した後、両腕を一気に広げて、キース達を弾き飛ばした。 そして無防備になった頭部分に、上空からリグが飛びかかった。 手にしている斧が、キース達の武器より明るく輝いている。




「……っ!」


 頭部に直撃した斧は、体を大きく揺らして態勢を崩す。 ゴーレムは後ろに倒れ込みそうになるが、のけぞった状態で止まる。 今だ! 私は準備していた魔法を発動させる。 直後に私を襲うのは、"Act"よりも体から大量の魔力が失われる感触。




『Accel.3 加速!』


 私の隣にいるランから、ゴーレムのいる場所に向けて風の通り道を形成した。 何十にも重なった層は、透明なはずの風に色がついているようにも思わせるほど。 そこに瞬時に飛び込んだランの拳は、魔力を込められて光り輝いている。




『Act.4 破砕!』


 凄まじい速度で飛んでいった彼女の拳は、ゴーレムを壁まで吹き飛ばし埋め込んだ。 あまりの加速にゴーレムが元いた場所で、ランがフラフラとしている。




「ラン! 大丈夫?」


「……うん。 ちょっと酔っちゃった」


 えへへ、と笑うように彼女は話した。 流石、戦術魔法というだけはある。 土壇場で使うのは、軽率だったかと少し後悔した。




―――――ガラ……ガガン! ボコッ! ズズンッ!


 壁の方で、ゴーレムのもがく音がする。 少しぐらいダメージが入ってて欲しいけれど、今は相手にしている場合じゃない。 私は全員に通路に向かうように叫んだ。




『行くわよ!』


 一斉に奥の通路へと駆け出していく。 ランが少々不安だったが、頭を振って正気を取り戻していた。 私は彼女と一緒に通路へと走り出す。




―――――ビキッ……ビキキッ


 ちらりと後ろを見ると、コアの上部に穴が空いたゴーレムの体が見る見る内に回復していく。 ……いや。 回復していると言うよりは、新たに鎧のようなものを体に纏っていた。 まだ奥の手でもあるのだろうか……嫌気が差してくる。 しかし、鎧をまとったゴーレムは、私達を追いかける素振りを見せずに立ち尽くしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ