ノーランの街 15
「それでは、暫く待っていましょう」
噴水広場の脇の方。 あまり人目につかない所に通用口の扉はあった。 その扉の前で管理員が来るまで、私達は待機することになった。 レイラさんの話では、そこまでかからないそうだ。
私は少し離れた所に一人でいる、エイリオのグループの一人の女性に近づいて声をかけた。 後ろから話しかけてしまったので、彼女は少し驚いていたが、すぐに表情が戻って返事をしてくれた。
「貴女も大変ね」
「……わかる?」
エイリオの方を横目で見ながら、私は彼女に同情した。 彼女はエイリオに恋心を抱いているのだろう。 あれが相手では、これからも苦労しそうだ。
「でも、私は貴女も大変だと思うな」
「……私は……、まぁね」
そう言って彼女はキースの方を見ている。 自分から振ったくせに、切り替えされると言葉に詰まる。 困った顔をして返事をする私を、彼女は笑ってみていた。
「あはは、私はラン。 宜しくね、えっと……」
「レティよ。 此方こそ、ラン」
彼女と自己紹介をすませる。 ランは改めて見ると、小柄でショートヘアが似合う活発な雰囲気の可愛い女性だ。 エイリオも、こんな彼女に好かれているとは中々隅に置けない。
「彼とは何処で出会ったの?」
「エイリオと私は同じ村の出身なの、幼馴染ね」
なんと、という事は彼女は小さいときから彼を想っているのか。 是非、実って欲しいとは思うが、あれが相手だと前途多難だ。
「あなたは?」
「私は……出会ったのは、十一歳頃だったかしら。 よく周りの世話をしてくれたわ。 今思えば、私は彼に頼りっぱなしだったわね」
屋敷に初めてキースが来たときを思い出す。 当時は機械のような雰囲気だった彼が、今のようになるなんて誰も思わないだろう。 ……いや、変わったのは私もか。
「頼りにしているのね」
「ええ、とても」
二人で彼らの方を見る。 キースとエイリオは何やら二人で話をしていた。 地図や通用口を指しているところからすると、中にはいった後の行動を話し合っているようだ。
「あの人は?」
「彼は、リグ。 同じ村の出身よ、彼も私とエイリオと幼馴染なの。 昔からよく相談に乗ってくれるんだ」
ふぅん。 先程からリグは、チラチラとランの方を見ている。 ランと目が会い、彼女が手を振ると目を逸らした。 心配して気にしているのか、それとも……。 これは面白そうな匂いがする。
「あっ、来たみたい。 時間があったら、また今度ゆっくり話そう?」
「いいわね、楽しみにしているわ」
管理員が到着したようだ。 私達は話を切り上げて、扉の前に集まる。 そこで、エイリオとキースがこれからの事を話し始めた。
「よし、集まったかい? 扉から入ると、暫く階段が続くそうだ。 一番下まで降りたら、少し通路を歩いて地下水路へと入る。 地図は貰ったから、ここから……この方向に向かって探索しよう」
エイリオは地図を皆に見せながら説明する。 見た所、地下水路は大分広いようだ。 ここに魔物が潜んでいるとなると、大分骨が折れそう。
「見ての通り、地下は広い。 無理だと感じたら、すぐに撤退する。 それは頭に入れておけ。 エイリオ達が発見した巨大な魔物は水門側、この方向に潜んでいる可能性が高い。 突然の襲撃にも対応できるよう、気を抜かないようにするんだ。 明かりは……レティ。 頼めるか?」
「ええ、任せて」
エイリオに続けてキースが話をつなぐ。 地下には存在が確認されている大型の魔物が潜んでいる。 今回はそれの討伐が一番の目標だ。
「それと僕らの目的は、この大型の魔物を討伐することだが……。 目標が見つからなかった場合や、その他の魔物を多数討伐した場合も、消耗を確認して場合によっては撤退する。 今日だけで、すべて終わらせると考える必要はないんだ。 自分の身を最優先にしてくれ」
エイリオが話を締めくくり、各々が頷く。 私も装備の状態を確認して、静かに気合を入れる。 管理員さんが扉を開けてくれた。 いよいよ、地下へ出発だ。
「よし、僕が前を行く。 ランとレティさんは続いてくれ。 リグとキース君は、後ろを頼んでもいいかい?」
「任せろ」
エイリオを先頭に、ランと私が続き、リグとキースが後ろにつく。 エイリオはキースと同じ剣士、リグは短めの斧を持っている。 ランは私と同じ魔術師のようだが、ナックルガードを手に付けている。 自分に魔法を付与して戦うタイプのようだ。
―――――カツン……カツン……
階段を下り、地下水路へと向かっていく。 この辺りには照明があり、まだ明るい。 しかし、一番下までたどり着いた途端に真っ暗になってしまった。 私は杖を構えて、魔法を発動させる。
「Act.1 灯」
灯の魔法一つでは心もとないので、いくつか出現させて周りに浮かべた。 辺りを見渡して警戒するが、今の所は魔物がいる気配はない。
「あっちだ。 行こう」
エイリオが先を指す。 地下水路は道の中央に水が流れているが、端の方は歩くことが出来る。 前後左右、上方。 そして水の中から飛び出してくる可能性も考えながら、先へと進んでいく。
―――――ピチョン
天井から水が滴る音がする。 地下だけあって、少々肌寒い。 暫く進んでも特に何かに出くわす事もなく、それがより緊張を高める。
「……」
エイリオが無言で先を指している。 察した私は、すぐに明かりを後ろに下げた。 そして角から少しだけ顔を覗かせ先を確認する。
―――――『シュウゥゥゥ』
その先には、蛇を太く大きくしたような魔物が複数体確認できた。 光には敏感ではないのだろうか、まだ此方に気づいていない。
「レティ。 怯ませられるか?」
「任せて」
キースが武器を構えて、私に提案してくる。 私は了承し、他の皆の方を伺う。 全員が頷き、武器を構えた所で魔法を発動させる。
「Act.1 炎の波!」
―――――『シュアアアァァッ!』
放たれた炎は、波のような形を取って魔物に襲いかかった。 触れた魔物は炎上し、のたうち回っている。 ついでに燃えていて相手の場所も把握しやすくなった。
「今!」
準備をしていた皆が、魔物の方へと駆け出す。 私も炎上している一匹に狙いを定めて、杖を向けた。 炎のお蔭で視界は大分確保できているが、味方に当たらないように気をつけないと。
「Act.3 烈風!」
風の刃が魔物に直撃し、三分割される。 そのまま勢いで壁に激突して、動くのを止めた。 頭の部分だけ、暫く動いていたのだ。 やたらと生命力の高い魔物だ。
「やっ!」
ランがその場で縦に一回転し、魔物に踵落としを食らわせている。 その靴は、薄い魔力のようなもので覆われていた。 魔物は頭が地面にめり込み、ピクリとも動かなくなっている。 ……エイリオ、彼女は怒らせたら怖そうよ。
「はあっ!」
そんなエイリオは、見事な連撃で魔物を仕留めていた。 普段からそうしていれば、もっと評価は上がると思う。 でもそれだと、ランにとっては不都合かもしれない。
―――――ズンッ!
後ろを振り向くと、リグが斧で魔物を潰していた。 近くではキースがきっちりと仕留めている。 これで、全部だ。 暫く辺りを警戒し、増援が来ないことを確認して一息をついた。




