ノーランの街 14
―――――コンコン
部屋の扉を叩く音で私は目が覚めた。 寝ぼけ眼で目を擦りながら上半身を起こすと、隣でキースも起床しているのが見えた。 彼と同時に起きたのは初めてかもしれない。
「なんだ?」
「突然申し訳ありません。 冒険者ギルドの方から手紙を渡して欲しいとの事で……」
私に変わってキースが答える。 こんな朝早くに届いたのか……と思ったが、窓から外を見てみると太陽が登っている。 どうやら寝過ごしたようだ。
「わかった、そこに置いてくれればいい。 わざわざ、すまないな」
「いえいえ、それでは……」
宿屋の主人が階段を下っていく音がする。 キースは体を起こし、扉を開けて下にある手紙を拾い上げた。 彼が寝過ごすなんて珍しい。 体調でも悪いのだろうか?
「キース、体は平気なの?」
「ああ、少し疲れが溜まっていたみたいだな。 気を抜いてしまった。 休んだから、もう大丈夫だ」
そう言って手紙を渡してくる。 彼が言うなら大丈夫なのだろうが……。 治癒魔法でもかけてあげようかしら? 手紙を開くと、女性の文字で水路の依頼についての続報が書かれていた。 恐らく、レイラさんだ。
「なんて書いてあるんだ?」
「水路の調査の進展ね。 水掘の壁側、水門の奥の方に魔物が潜んでいたそうよ。 今日、そこを調べるから参加できるようなら来て欲しい……ってところね」
そんなところにも魔物が居たのか……。 内部に巣でも作っているのだろうか。 ともかく参加はさせて貰えるようなので、私達も準備を整えてギルドに向かうとしよう。
朝食……と言うには遅いが、宿屋で済ませる。 その後に昨日買ったばかりの装備を身につけ、準備を整えた。 キースは昨日研いでもらった剣と、いくつかの小物を点検している。
「いいわよ」
「俺も準備は終わった。 行くとしよう」
二人共準備は完了だ。 昨日買ったばかりの防具の初陣が、水路とは少々不憫だ。 終わったら魔法で、綺麗に洗ってあげることにしよう。
宿屋を出た私達は、冒険者ギルドに向かって進み出す。 もう、他は集まっているのだろうか。 少し急いだほうがいいかもしれない。 疲労がたまらない程度に、小走りでギルドへと向かった。
「中にいるのかしら?」
「かもしれないな、俺達も入ろう」
冒険者ギルド前に着いたが、他のグループは見受けられない。 中に集まっているのかも、と思った私達は扉を開けて中に入る。
「あっ。 こっちよ! これで全員ね」
入ってすぐの私達を呼んだのは、レイラさんだ。 そのすぐ前には、エイリオがいる。 ……まぁ可能性は高いと思っていたが、やはり一緒になってしまった。
「レティさん、貴女も依頼を? これは心強い」
「ええ、宜しくね」
名乗った覚えはないのだが……と思ったが、当たり障りの無いように挨拶をする。 ここぞとばかりにレイラさんが此方へ駆けてくる。 全員集まって説明をする為、というよりエイリオを振り切るためと言ったほうが正しいかもしれない。 ずっと話しかけられていたのだろう。
「それでは、今回の依頼について説明を始めます。 皆さん、此方を受け取って下さい」
レイラさんは私達に紙を配り始めた。 そこには、今回の依頼の詳細が載っている。 請け負った冒険者グループは、私達を含めて五組。 私達二人とエイリオのグループが三人。 それに初めて見る三人組が、もう三グループの計十四人だ。 中々の大所帯である。
「昨日、冒険者の皆さんに水路を調査して頂きました。 水路で数匹の魔物を討伐した後、逃げ帰る個体を追跡した所、水掘の水門を抜けていったそうです」
そこで顔を上げると、エイリオが得意げな表情をしていた。 なるほど。 昨日見かけた彼らは、この依頼に向かっていたのか。
「そのまま警備兵に確認を取り、水門から内部に入った所で巨大な個体を発見したとのことです」
「水門の奥は暗く、僕達は何も準備をしていなかった。 そこで戦うのは不味いと判断して、一度帰ってきたんだ。 暫く入り口で見張っていたが、そいつは水門の奥から出てくることはなかった。 それなりの知能はあるんだろう」
レイラさんの説明に、エイリオが補足する。 その魔物も有利な場所を捨てて、わざわざ待ち構えているであろう場所に出てくるほど簡単に行く相手では無いようだ。 ……それよりも私はエイリオの発言にびっくりした。 ちゃんとしていれば、曲がりなりにもシルバーランクのようだ。
「はい。 なので、今回は万全の準備を整えて再び水門から侵入し魔物を討伐して頂こうと思います。 今回は、領主様からの直々の依頼です。 攻略の仕方は任せると言われておりますので、何か他に意見があれば遠慮せずにおっしゃって下さい」
エイリオに続けて、レイラさんが話をつなぐ。 街の足元に魔物がいるなんて事態だ、領主直々の依頼になるのも頷ける。 すると、私の近くに居た冒険者の組の一人が、レイラさんに声を上げた。
「その水門は、そこまで広くないんでしょう? この人数全員で行くの? 他に入り口とかはないのかしら」
彼女の言うことも最もだ。 狭い内部に、この人数で行っても邪魔になるかもしれない。 中ですぐ分散するか、他に入口があれば良いのだけど……。 そうだ、一つ気になることがあった。
「ねえ、噴水広場の水は何処から来ているの?」
私の言葉に他のグループも頷いた。 あの噴水の水は、恐らく街の地下から引いているのではないだろうか。 それなら、内部で繋がっている可能性が高い。
「そうね、あれは街の地下水路から汲んでいるはず……。 確か点検用の入口があったかもしれないわ、確認してきます!」
レイラさんは受付の奥の方へと走っていってしまった。 そちらを眺めていると、エイリオが近づいて話しかけてきた。
「また、お会いしましたね。 その衣装もよく似合っていますよ」
「え、ええ。 ありがとう」
エイリオはそれだけ言って黙ってしまった。 彼はもっと周りを見たほうが良い。 現にエイリオの後頭部に、後ろに立っている同じグループの女性から鋭い視線が向けられている。
「お待たせしました。 やはり、点検用の通路がありますね。 今使いを出していますので、そちらから侵入することも可能だと思います」
私がいたたまれない気持ちになっているところに、レイラさんが戻ってきた。 助かった、話題を戻してしまおう。 彼女の方を向いて、私は話し始めた。
「それなら、二手に別れましょう? 噴水側と水門側の二組にね。 噴水側の方は少人数で良いと思うわ」
「それなら、僕らのグループとレティさん達とで噴水に行こう。 他は水門から侵入して欲しい」
私の提案に、エイリオが付け加えた。 他のグループも、それで問題ないと話が纏まる。 私は少し思う所があったが、話が纏まりそうな所に水を指すのもなんなので了承することにした。
そうして私達は話し合いを終え、それぞれ配置につくためにギルドを出る。 噴水広場には、もうすぐ点検用の通路を開けに管理員が来るらしい。 先に向かって待っていよう、噴水広場はギルドを出たら直ぐそこだ。




