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ノーランの街 13


「何を探しているんだ?」


 そう言うキースの視線は、私の持っているかごに注がれている。 そこには、先程見つけた魔力粉の瓶と溶液の入った瓶が数個ある。




「刻印用の道具よ。 装備に魔法を付与しようと思うの、キースのにもやってあげるわ」


「なるほどな。 魔道具関連は、確かあの辺りに……」


 彼に続いて道を曲がると、怪しい雰囲気の商品が多数置かれた棚が見つかった。 殆ど何に使うかわからないものだが、目的の刻印用道具は発見した。




「あったわ。 これね」


 私が手にとったのは、小さな四角いカバンの様な道具箱だ。 中を開くと、刻印用の細長い金属、溶液入りの瓶、魔力粉が入っている。 道具箱は、それ自体が魔道具で、開いたまま作業台として使う。 内部に小さなくぼみが出来ていて、そこで刻印用の魔力粉を精製する。 あの瓶の粉のままでは使えないのだ。




「俺が見ても全くわからないな」


「私もそこまで詳しいわけじゃないけどね。 誰かに頼むよりは割安よ」


 刻印も専門技術がいるので、人に頼むと高くつく。 出来るのならば、道具を買って自分でやってしまった方が安いくらいだ。




「これなら、魔術書も置いてないかしら?」


 この店は、武器の種類は少ない。 どちらかと言えば魔法道具よりのお店だ。 これなら、本もあるかもしれない。




「探してみよう」


 私達は店の棚をめぐり、本を探し始めた。 いくつか調べても見当たらなかったので、諦めようと思っていると、一番奥の角に本がいくつか置いてあるのを見つけた。




「"我が魔術理論"、"魔術師としての心得"、"魔術の謎"……どれも違うわね」


 いくつか本をめくってみたが、どれも著者の自叙伝だ。 何処へいってあれこれをした……なんてもので、新しい知識になりそうな物は見つからなかった。




「本を探しているの?」


 本を棚に戻していると、店主の女性が話しかけてきた。 丁度いい、彼女に聞いてみることにしよう。




「魔術書を探しているの。 できれば、魔法の動作や種類が詳しく載っている物がいいのだけど……」


「そうね、それなら……」


 私が詳しく説明すると、彼女は棚の下段の引き出しを探し始めた。 そして、その中から一冊の本を取り出す。 その本は魔術書にしてはあまり分厚くなく、埃を被っていた。




「これなんてどうかしら?」


 彼女は埃を払って本を手渡してくる。 表紙を見てみると、そこにはこう書いてあった。 "戦術的魔術理論"。 中を開いて軽く内容を見る。 序盤は著者の論文がずらりと載っていたが、中程あたりから実際に使用できる魔法の動作や種類、魔法の構築の仕方などが書いてある。 なるほど、これは使えそうだ。




「これ、買うわ」


「そう? 全く売れなくて困ってたのよ。 安くしといてあげる」


 奥の方で埃を被っていたのは、売れ残っていたからのようだ。 無理もない、魔法は個人のイメージによる所が強い。 同じ効果でも、人によって全く別の発動のさせ方があるのだ。 本に載せられても、他人では理解するのに凄まじい時間がかかってしまう。 最も、私はその限りではないので問題はない。




『剣が出来たぞ!』


 奥の方から男の人の声が聞こえる。 どうやら、キースの剣が研ぎ終わったようだ。 そのまま奥の机で剣を受け取り、諸々の代金を払って店を後にした。




「ここで皆揃ったわね」


「そうだな。 他に買いたい物がなければ、宿屋に戻るぞ」


 他に買いたいものは特にない。 むしろ、早く宿屋に帰って魔法を刻印したい所だ。 私達は、そのまま買ったものを抱えて宿屋へと帰った。




―――――ガチャ


 宿屋に戻り、部屋の扉を開ける。 荷物をベッドにおろし、自分もそこに腰掛けた。 ふう、少し休憩しよう。




「紅茶でも淹れてこよう」


「ありがとう」


 キースはそう言って部屋を出ていく。 私はからだを少し伸ばし、先程買ってきた本を開いてみた。 さて、何か有用そうな魔法は載っているかしら。




―――――『魔法の基本の動作 "Act"。 これは、発動した魔法に動きを与えるものだ。 基本だけあって、様々な応用が効く。 しかし、私はこれに改良を加えた。 より激しい動きを与え、攻撃的なものにする為だ。 私はこれを "Accel" と表現する。 魔力の伝達は、次にある図のように……』




「レティ」


 いつの間にかキースが戻っていたようだ。 ハッとして彼の方を見ると、紅茶の入ったコップを二つ持ってきていた。 それを受け取り、口に含む。 ……うん、美味しい。




「何か良さそうなものはあったか?」


「ええ、良いのがあったわ。 この本は当たりね」


 呼んでいたページに栞を挟み、一旦机の上に置いた。 彼も戻ってきたことだし、魔法の刻印を始めてしまおう。 私は同じく買ってきた刻印道具を取り出した。




「キース。 さっき研いでもらった剣を貸してくれる?」


 キースにそう言うと、彼は腰につけている鞘ごと剣を渡してきた。 私はそれを慎重に鞘から抜き、刀身を露わにする。




「切らないように気をつけろ。 ……刻むのか?」


「ええ、大丈夫。 ……そうよ、それ開けてくれる?」


 キースに刻印道具箱を開けてもらった。 中から魔力粉と溶液を取り出し、箱を作業台にして中にある窪みで二つを混ぜ合わせる。




―――――ヴヴ……


 作業台に魔力を込め、魔道具を発動させる。 そのまま刻印用の金属棒で混ぜ合わせると、魔力粉は段々と仄かに輝きを放つようになってきた。


 一度、棒を布で拭き、もう片方の手で剣を持って棒に魔力を込める。 そのまま集中して、刀身部分に刻印を刻んでいく。 ここが一番気を使う所だ。 私は周りの音が聞こえなくなるほど、集中して作業を進める。




―――――キ……キキキ……キ……


 刀身の中程から、手元の方に向かって描いていく。 下まで描いた所で完成だ、私はほっと息を吐く。 よし、次はここに魔力粉を流し込まないと。




 持っていた棒を反転させ、淡く輝いている魔力粉に浸す。 棒の反対側は細い筆のようになっていて、先の方に染み込ませた魔力粉を、今度は刻んだ刻印をなぞるように滑らせていく。 ここで魔力を一定量こめながらやっていかないと、上手く固定されなくなってしまう。 刻印よりかは楽だが、やはりここでも気を使う。




―――――キュウウウ……


 刻印の最後まで魔力粉を引き終わると、一瞬輝いて後に光が落ち着いた。 これで行程は全て終わりだ。 私は満足げに出来を確認して頷く。 うん、綺麗にできた。




「はい、キース」


 剣を鞘に戻して、キースに返す。 こめた魔法は土の属性による硬化と、風の属性による鋭さだ。 いつも通りに手に持って微量の魔力を込めれば発動するので、キースでも問題なく使うことが出来る。 冒険者ギルドで渡されたカードと、使い方は同じだ。




「助かる」


 キースは私に感謝をしながら剣を受け取った。 逆に私のほうが感謝したいくらいだ。 それくらい戦闘では彼に無理をさせている。 戦闘経験の無かった私に合わせるのは、簡単ではないはずだ。


 


 その後も防具や小物など、いくつかに刻印をして装備を整えた。 気づけばあっという間に夜になってしまった。 疲れて外に食べに行く体力も残っていないので、食事は宿で済ませた。 明日に備えてもう休もう。 もしかしたら、ギルドから連絡が来るかもしれない。




 

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