ノーランの街 10
門付近に到着した私達は、詰め所の場所を探す。 ……いくつか扉があって、どれに入れば良いのかがわからない。 勝手に入るわけにも行かないし、門の警備兵に聞いてみよう。
「あの! 私達依頼を受けて来たのだけど、場所がわからなくて……」
「うん? ああ、君が治療魔法の使える魔術師かい? なら、着いてきてくれ」
そう言うと、彼は他の兵士に門を任せて此方へと向かってきた。 どうやら、話は通っているようだ。 彼に続いて詰め所の中へと入る。
詰め所は、外壁の内部に作られている。 中はそこまで広くなく、上へ向かう階段と梯子が見える。 これを登ると外壁の上へ出るのだろう。 そこかしこに備品が置かれていて、服が引っかからないようにするのに気を使った。
「この先だ。 早めに治療してやってくれ」
壁の内部を暫く進んだ後、扉から外に出た。 すぐそこに二階建ての大きな建物があり、彼はそこに向かっているようだ。
―――――ギィィ
『おやっさん! ギルドから魔術師さんがきたぞ!』
『おやっさんと呼ぶんじゃねえ! わかった、俺が引き継ぐ。 お前は警備に戻れ』
建物の扉を開けてすぐに、彼は誰かに向かって叫んだ。 奥からはそれに答えるように、叫び声が返ってきた。 この声の主が、今回の依頼主のようだ。
「じゃあ、俺はここで。 あとはおやっさん……守門長が説明してくれる」
「ええ、ありがとう」
彼はそう言って、もと来た道を戻っていった。 間もなくして、建物の奥から大柄な男が姿を現す。片目に大きな傷がある。 今回の襲撃で負った傷ではなさそうだが、そのせいで威圧感が増している。
「お前らがギルドから来た奴か?」
「ああ、正確に言えば彼女がだ。 俺はキース、彼女の護衛で来た」
雰囲気に圧されている私を見て、キースが場を繋いでくれた。 おかげで少し落ち着いた。 気を取り直して、自己紹介からだ。
「私が治療魔法を使える魔術師よ。 レティっていうの、宜しくね」
「おお、すまないな。 俺はここの守門長のギールだ。 こっちに怪我人を纏めてある、早く治してやってくれるか」
ギールさんは見た目も声も威圧感があるが、話してみると良い人だ。 この見た目で大分損をしていると思う。 実際、私は気圧されてしまった。 ……守門長としては、その方が良いのだろうか?
「ここだ。 奥が重症人、手前が軽症の奴らだ」
「任せて」
まずは重症の人から治していこう。 奥の部屋に進むと、血の匂いと呻き声が私を出迎えた。 幸い、欠損をしているような怪我人は居ない様でよかった。 私の実力では、時間のたった怪我や四肢を再生させるなんて芸当は出来ない。
ベッドに寝かされている怪我人の前に立ち、杖を構えて魔法を発動させる。 周りにいる人達は、少し離れて私の様子を窺っていた。
「Act.2 治癒!」
私の前に生まれた水泡は、怪我人に向かって進んで包み込むように張り付く。 暫くして水が霧となって消えると、うめき声は無くなり穏やかな寝息が聞こえてきた。
―――――『おおおおおっ!』
周りから歓声が上がる。 この調子で、全員治してしまおう。 私は順番にベッドを回り、片っ端から治癒魔法をかけていった。
『ありがとう!』
「ええ、どういたしまして。 まだ、無理はしないでね」
何度その言葉を聞いたことか。 一通り怪我人を治し終わった私は、用意してくれた椅子に座って休憩していた。 キースは、使った包帯や治療器具の片付けからベッドの配置換えまで、細かいところを手伝っている。
「助かった。 あいつらを代表して感謝する」
「ギールさんまで。 いいのよ、仕事だもの。 気にしないで」
巨体が近づいてきて、深々と頭を下げる。 ついにギールさんからも感謝の言葉を言われてしまった。 重症人以外は全員から貰ったのではないだろうか。 ……近づいてくる時に少し驚いたのは内緒だ。
「街の治癒魔術師さんはどうしたの?」
私は依頼を受ける時に思っていたことを彼に聞いてみた。 ギールさんの立場なら何か知っているのではないだろうか?
「ああ、本来はいるはずだったんだが……。 ここの所、近隣の村でも魔物の襲撃が多くてな。 怪我人は増えるばかりだ。 今も近くの村に治療に向かった矢筈の出来事だったんだ」
「そういうこと……」
なるほど、近隣の村に出払っていたのか。 魔物が活発になっている、良くないことだ。 何か悪い事の前兆じゃなければいいけど……。 ジェナもこれに関与しているのだろうか。
「この街にも突然魔物が現れるようになってな。 調べてみた所、水路から出現していることがわかった。 俺達は壁の警備から離れられんから、今朝に冒険者ギルドへ依頼を出した所だ。 今頃、調査している筈だ」
という事は、マイアさん達の畑に出現した魔物も一部という可能性が高い。 水路から続く場所といえば、水堀だが……。 そんな所に突然魔物が湧くのだろうか。
「水堀に魔物が住み着いてるってこと?」
「ああ、俺達の目と鼻の先だ。 信じたくはないが、掻い潜って住み着いたということなら、責任は俺にある」
壁を守る警備兵は、いつも水掘を目にしている。 それを掻い潜って住み着いてしまうなんて、にわかには信じられない事だ。
「魔物の生態は、よく分かってないわ。 もしそうだとしても、仕方のないことよ。 ギールさんが責任を感じる事はないわ」
「いや、街を守ることを任された以上は俺の責任だ。 なんとかして解決したい」
どうやら責任感の強い人らしい。 この先、街に怪我人が出ても全て自分のせいにしてしまいそうだ。 何とかしてあげたいが、今の私にはどうすることも出来ない。 水路調査に依頼を出したと、彼は言っていた。 その一団の報告次第では、続けて次の依頼が入る可能性は高い。 それに参加させて貰えないだろうか……。
「すまんな、話し込んでしまった。 ともかく、これで依頼は達成だ。 サインは書いておいた。 これをギルドに持っていって、報酬を受け取ってくれ」
「……ええ、ギールさんも無理をしないでね」
ギールさんは依頼書にサインをして渡してくれた。 とりあえず、これで今回の任務は達成だ。 私は手伝いをしているキースの方に目をやった。
「キース、そっちはどう?」
「ああ、一段落ついた所だ。 あとは安静にしていれば大丈夫だろう」
彼も落ち着いたようだ。 私達はこれで失礼することにしよう。 ギールさんや兵士の人達に見送られて、私達は詰め所を後にした。 後はギルドで待機して、あわよくば水路調査の進展を聞ければ良いのだけど。




