ノーランの街 8
―――――『ギュ! ギュウウウ!』
鳴き声と同時に、一斉に魔物が飛びかかってきた。 私は準備していた魔法を放つために、杖を構える。 落ち着いて……大丈夫だ。
「Act.3 円」
「Act.4 蔓」
私達の周りに張った円形の防護術にあたり、魔物が空中で跳ね返る。 続けて発動させた魔法が、土を蔓のように形作らせ魔物に殺到する。
―――――ギュルッ! ダンッ!
蔓は魔物を捉え、地面へと叩きつける。 蔓から逃れた一匹が、私に向かって飛びかかってきた。 しまった、躱された!
―――――『ギュウッ!』
「任せろ!」
キースが私と魔物の間に入り込む。 剣を構え迎撃の体制をとった。 こっちは彼に任せて、私は叩きつけた方にとどめを刺そう。
「Act.4 棘」
―――――『ギュッ……』
叩きつけられた魔物の下の地面が、棘のように盛り上がる。 小さな悲鳴を上げて、魔物は動きを止めた。 キースの方は……?
―――――ヒュカッ!
キースの方を見ると、丁度魔物の頭を切り落とした所だった。 うっ、断面がもろに見えた。 慣れないが、私も串刺しにしているのだ。 人のことは言えない。
「ふう……」
「これで全部だな」
警報にかかった魔物はこれで全部だろう。 無事に処理できてよかった。 納屋の方を見ると、マイアさんが此方を心配そうに眺めていた。 警報を聞いて駆けつけてきたようだ。
―――――バシャッ!
「……!」
水路の方から水音が聞こえ、私達は慌てて武器を構える。 すると先程の魔物が一匹、体を翻して水路を泳いでいってしまった。
「……やっぱり、水路から来てるみたいね」
「そのようだな。 他にも残っていないか確認しよう」
足跡の通り、この魔物は水路から来ていると見て間違いないようだ。 私達は生き残りが居ないか注意しながら調べたが、他に魔物の姿は確認できなかった。 さっきのが最後だったようだ。
「よし、とりあえず討伐は完了だ。 彼女に報告しに行こう」
キースに続いて、納屋の方へと向かう。 彼が扉に手をかけようとすると、それより早くマイアさんによって内側から開かれた。
「貴方達、すごいわね!」
突然開く扉をかわしたキースは、マイアさんに抱き締められた。 続いて私の方にも寄ってきて、同じように抱擁する。 キースが迷惑そうな顔をしていたのは、言わないでおこう。
「貴女も! こんなに可愛らしいのに、凄い魔術師ね!」
「ありがとう、マイアさん」
マイアさんは興奮気味に私を振り回す。 あまりの勢いに、足が少し浮いてしまっている。
「マイアさん、あの魔物の事なんだけど……」
『マイア!』
私がマイアさんに水路の事を説明しようとすると、道の方から大きな声がした。 私はマイアさんに抱き締められているので、顔だけを向けて確認する。
「あんた!」
「無事か、マイア。 帰り際に大きな音が聞こえて、急いできたんだ」
マイアさんに声をかけた男性は、昨日の店主さんだ。 彼はマイアさんの無事を確認した後、抱きしめられている私と、そばのキースに目をやる。
「君達は……」
「この子達が畑の魔物を退治してくれたんだよ!」
マイアさんは、私達を前に置き背中をバシバシとたたきながら紹介した。 似た者夫婦とはこの事だ。 今ならキースの気持ちがわかる気がする。 背中が赤くなってしまいそう。
「レティとキース。 昨日は美味しい料理をご馳走様」
「やっぱり昨日のお客さんか。 いやいや、依頼を受けてくれたんだろう? 此方こそ感謝しているよ。 ……おっと、私はジェムズと言うんだ、宜しく」
ジェムズさんは、やはりと言った顔で私達を見た。 昨日、お店を訪ねたのを覚えていたようだ。 自己紹介もすんだ所で、さっきの話の続きをしよう。
「それで、魔物の事なのだけど。 畑に来た魔物は一通り倒したわ。 でも、一匹水路から逃げてしまって……。 もしかすると、また水路をたどって畑に来るかもしれないから、一度ギルドに報告したほうが良いと思うの」
「何処から湧いてきてるのかと思ったが、あの水路からだったのかい。 ……そうだね、ギルドに改めて水路の調査を依頼してみるよ。 今日はありがとうね、依頼書を貸してくれるかい?」
そう言われ、私は依頼書をマイアさんに手渡した。 彼女は、その紙にサインをして返してくれる。 完全に脅威がなくなったとは言えないのに、良いのだろうか……。 私が微妙な顔をしていると、彼女がそれに気づいて笑いかけてくる。
「あはは。 今日の依頼はこれで達成さ。 ほら、あんなに魔物を倒してくれたんだ。 十分満足だよ」
「でも……」
マイアさんは畑の方を見て笑う。 確かに、魔物は倒したが代わりに畑も荒らしてしまった。 私がなおも食い下がると、今度はジェムズさんが微笑みながら話しかけてきた。
「はっはっは。 今どきの冒険者には珍しい責任感の有るいい子だね。 畑なら心配いらないさ、またすぐに耕してしまうからね。 それに、水路のドブさらいなんて綺麗なお嬢さんにはさせられない。 そういうのは、金にがめつい冒険者共にやらせれば良いのさ」
「そうだね。 もしまた何かあれば、指名させて貰うよ。 今回の報酬は大人しく受け取っときな!」
ジェムズさんに続いて、マイアさんもそう言ってくれた。 ここで駄々をこねても仕方がない。 次に何かあったら、最優先で受けることにしよう。
「ええ、ありがとう」
「それで良いんだ。 ……貴女達、今日は街に戻るだけなんだろう? 良かったら、うちに泊まっていくかい? 歓迎するよ」
この後は、街に帰って寝るだけだ。 時間も遅いので、ギルドへの報告は明日にしようと思っていた。 どうしようかと、私はキースの方を振り向いた。
「良いと思うぞ。 特にやることが有るわけでもない。 あれの解体は明日にすることにしよう」
「よし、騎士様のお許しも出た所だ。 我が家に案内しよう」
倒した魔物の方を向きながら、キースも了承する。 ジェムズさんが家まで案内してくれるようで、それは納屋から少し街の方へ進んだところにあるそうだ。 外壁の外で暮らしている人もいるのかと、私は少し驚いた。
「驚いたかい? 街の外の畑で働く俺らみたいなのは、壁の外に住んでいる者も多いんだ。 こっちのが何かと便利だからね」
「危なくないの?」
外壁の外では、何が起こるかわからない。 危険ではないのだろうか? 少なくとも今回のようなことがあると、落ち着いて住むことも出来なそうだが……。
「そうだね……安全"だった"という所かな。 以前はね。 まぁ、前も多少は魔物を見ることもあったが、ここまで多くなったのは最近からだ。 私達もそろそろ壁の中に引っ越そうかと考えていたところなんだよ」
「あたしは奇妙なものを見た事があるよ。 畑で作業をしていた時に、魔物が現れたんだ。 獣のような姿をしていたよ。 それを見てあたしは急いで逃げようとしたんだけど、何があったのかあたしには目もくれずに、一直線に街の方に向かっていってしまったのさ。 まるでなにかに吸い寄せられているみたいにね」
街に向かって吸い寄せられるように……。 ノーランの街に、魔物が狙うなにかがあるか、もしくは誰かが襲撃を指示しているか。 私の脳裏には、ウイユの村であったジェナの事が思い浮かんでいた。
話を続けながら街の方向へ進み、マイアさん達の家まで辿り着いた。 とにかく今日は休ませてもらおう。 明日起きたらギルドに達成の報告だ。




