ノーランの街 7
納屋に辿り着いた私達は、入口を探して建物をぐるりと回る。 すると、納屋の前で作業をしている女性を見つけたので声をかけた。
「すまない。 ギルドから依頼を受けてきたんだが、話を聞かせて貰えるだろうか」
キースの言葉に、彼女は作業を止めて顔を上げた。 そして、私達を確認して驚いたような顔をする。
「おや、まぁ……。 随分と若いんだねぇ」
「私はレティ、彼はキース。 これでも魔物を倒した経験はあるの。 だから、大丈夫よ」
自己紹介ついでに、補足する。 私達が若すぎるせいで、本当に依頼を達成できるのか不安になったのだろうか。
「ああ! すまないね。 そんなつもりで言った訳じゃないんだよ。なにしろ、初めて依頼を出すもんでね。 年のいった怖い人がくるんじゃないかって思ってたのさ。 私はマイア、宜しくね」
マイラさんと言うらしい。 彼女は申し訳なさそうな顔をして謝ってくる。 なるほど、そういう事か。 確かに冒険者と言えば、そんなイメージだ。 気持ちはわからなくもない。
「ううん、気にしてないわ。 確かに冒険者って、そんなイメージだもの」
「あはは。 私はむしろこっちのほうが話しやすくて助かるね」
よかった、良い人そうだ。 はじめての依頼で、どんな人が相手かと身構えていたが杞憂だったようだ。 さて、早速依頼の内容について話を始めよう。
「早速だけど、依頼について聞いてもいいかしら?」
「そうだったね。 こっちへ来てくれるかい?」
そう言って案内されたのは、納屋近くの畑だった。 そこには細長い作物が、等間隔に植えられている。 ただ気になるのは、一部が斜めに倒れてしまっている所だ。
「あの稲が倒れてる所が見えるかい? 所々が齧られているんだよ。 ここ最近、被害が増えてきてね……。 一度見張ってみたんだけど、暗くなった後に四足の何かが稲を齧っていたんだ。 急いで納屋に逃げ込んだから怪我はなかったけどね……。 これは手に負えないと思って、ギルドに依頼を出したのさ」
なるほど、あれは齧られた跡か。 近寄って跡を見てみると、随分と大きな口で齧ったような形跡があった。 これで噛みつかれたら痛そうだ。
「その生き物は、夜に来るの?」
「そうだね……。 明るい時は見たことがないから、夜に来てると思うんだけど……。 ごめんね、はっきりとした事はわからないんだよ」
まずは、その生き物を発見しないことには進展がない。 さてどうするか……。 考えていると、畑周りを確認していたキースが、此方に向かって歩いてきた。
「その生き物は、水路から来ているようだな。 足跡が残っている」
私も確認しに行くと、確かに水路から畑の方に向かって足跡が残っている。 水棲の生物なのだろうか……。 これを退治するのに、ずっと見張っているわけにも行かない。 ……そうだ、あれがあった。
「ねえ、キース。 あれを持ってきてるかしら? ほら、大きな音を出す……」
「ああ、あの魔道具か。 持ってきている」
さすが、キース。 私は彼から、三角形の魔道具を受け取った。 この街に来る前の野宿で使ったものだ。 あれから少し改良をして、感度をいじれるようにしてある。 音も爆音ではなく、丁度いい警報音に調整した。
「マイアさん。 この魔道具を畑の周りに仕掛けたいのだけど、良いかしら? 畑になにかが入ってくれば反応するようにしてあるわ」
「はぁ……。 便利なものだねぇ。 どんどんやって構わないよ」
マイアさんにも許可をもらえたので、畑の周りに魔道具を設置していく。 キースには反対周りに置いていって貰った。 これで何か侵入すれば、警報がなってすぐに気づけるだろう。
待機場所には、納屋を使わせて貰えることになった。 まだお昼だ、マイアさんの言う通り夜に来るのならば、だいぶ時間が有る。
「稲って、どんな作物なの?」
「うん? 稲を知らないのかい? あの穂先から、街の名物の米が取れるのさ。 私の旦那は、街で米料理の店を出しているよ」
驚いた、あれから米が取れるのか……。 随分と想像していた物と違う。 それにしても、街で米料理という事は、もしかして……。
「そのお店って、噴水広場近くの?」
「よく知ってるね。 その店さ」
やっぱり、昨日のお昼に入った店だ。 という事は、あの店主さんが旦那さんだ。 キースもそれに気づき、微妙な顔をする。 どうやら彼は、あの店主さんが苦手らしい。
「そのお店、昨日入ったの。 とても美味しかったわ」
「そうだったのかい。 あの人は店を畳んだ夜中に帰ってくるよ。 きっと、驚くはずだ」
こんな所で繋がるなんて、縁とは奇妙なものだ。 その後も、マイアさんと米料理について熱く語り合った。 お米の美味しい炊き方も教えて貰った。 これで旅先で美味しい米料理が作れそうだ。
納屋で時間を潰して暫く。 マイアさんは自分の仕事に戻り、私達も畑の方を警戒していた。 空もすっかり暗くなってきて、獲物がかかるならそろそろの筈だ……。
「来ないわね……」
「他の畑に言っている可能性も……」
―――――ピィィィィィィィ!
私の言葉にキースが返事をしようとした瞬間、警報音が鳴り響いた。 私達は直ぐ様、納屋を飛び出し畑に向かう。
「……暗くて見えにくいわ。 明かりをつけるわよ!」
何かが蠢いているが、暗くて全体が見えない。 私は魔法であたりを照らすことにした。
「Wait.1 照明」
灯よりも大きな火の玉が畑の上であたりを照らす。 それによって、蠢いている生き物の姿が見えた。 四足で尻尾があり、口は大きい。 そこから覗く歯は、ギザギザとしていて鋭利さが伺える。 恐らく魔物だ、他にも何匹か確認できる。
―――――『ギュ…… ギュッ!』
そのうちの一匹が鳴き声を上げながら、歯を剥き出して此方へ飛びかかってくる。 動きは単調で、それほど脅威ではないが、群れで来られると厄介だ。 落ち着いて、一匹ずつ対処していくとしよう。
「Act.3 鎚」
風で形作られた鎚が、飛びかかってきた魔物を上から地面に押しつぶす。 近くに居たキースが、地面で暴れている魔物に飛びかかった。
―――――ドスッ!
キースは剣で、魔物の体の中心を正確に貫いた。 暫く足をジタバタと動かした後、魔物は動きを停止した。 恐らく核を貫いたのだろう。 さすが、キースだ。
これで一匹。 残りの魔物は、同じようには行きそうにない。 学習したのか、私達を囲むように陣取り始めた。 私とキースは背中合わせに周りを警戒する。 大丈夫だ、こっちにも策がある。 ざわざわと稲が音を立てる中で、私は杖を構えて息を吐いた。




