ノーランの街 6
あの後、宿屋に返った私達は、馬車に米を乗せ部屋に戻った。 夕食は宿屋で出るもので済ませ、疲れを残さないように就寝した。 ちなみに部屋は一つである。 ウイユの村で、頑なに一緒の部屋で寝ることを拒否していたキースが懐かしい。
翌朝、朝食と身支度を済ませた私達は、宿屋を後にした。 今日は冒険者ギルドに依頼を受けに行くことにした。 少し不安だが、まずは一度やってみよう。 昨日と同じ道を通り、ギルドへと向かう。 朝は流石に、人が少ないようだ。
「この時間は人が少ないのね」
「店も開いていないからな、客も居ないだろう」
見かける人は、殆どが自分のお店を準備している商人達だ。 これから徐々に人が集まってくるのだろう。 既に人が並んでいるお店は、人気店なんだろうか。
噴水広場を抜け、冒険者ギルドに入る。 ここも、昨日に比べたら人が多くないようだ。 エイリオ達は居ないみたい。 変に絡まれる前に、さっさと用事を済ませてしまおう。
「どれがいいかしら……」
「これはどうだ?」
私達は掲示板に寄り、貼られている依頼を確かめる。 どれを受けるか悩んでいると、キースが一枚の用紙を指さした。 私はそれを覗き込む。
「"畑を荒らす魔物の討伐依頼"?」
「ランクもブロンズからだ。 要項は……戦闘経験があるものを求むとしか書いていないな」
確かに、このくらいなら出来そうだ。 ええと……。 受ける時は、この依頼書を持って受付に持っていけば良い、と言っていたはず。
「じゃあ、受付に行きましょう」
「ああ」
掲示板から依頼書を外し、受付に向かっていく。 テーブル付近に着くと、受付の人が出迎えてくれた。 私達は促されて、椅子に座る。
「依頼の受注でしょうか?」
「ええ、これを受けたいの」
そう言って、依頼書を渡す。 彼女は書類を確認し、私達を見る。 視線の先は、ブロンズのメダルだ。 私達のランクを確認していたのだろう。
「それでは、ギルドカードの掲示をお願いします」
そう言われたので、昨日もらったばかりのギルドカードを渡す。 二人分のカードを確認した彼女は、頭を下げながら返してきた。
「はい、確認しました。 それでは、依頼の説明を始めますね。 場所は、街の外壁の外に広がる穀物地帯です。 その畑の一角を荒らす魔物を退治して欲しいとの事ですが、お二人は戦闘経験は御座いますか?」
「ええ、二人で魔物と戦った事も有るわ」
お陰様で、魔物と何度か戦ったことは有る。 ……あれが人間と言えるのならば、人間とも。 ゼイルの事を思い出し、思わずため息が出そうになる。
「わかりました。 それでは詳しいことは、ご依頼主様に伺うようにお願いします。 詳細な地図は此方です」
「ありがとう」
彼女は、依頼の目的地が書かれた地図を手渡してきた。 門を潜って、そう遠くない。 これなら、馬を借りたりしなくても歩いていけそうだ。
「それと、手に入れた魔物の素材などは、あちらで換金しています。 絶対ではありませんので、そのままお持ちいただいても構いません。 素材の所有権は、原則として倒した方にあります。 ですが、素材の納品も依頼の内とする方もいらっしゃいますので、依頼主様と詳細に話し合うことをお勧め致します」
彼女の言葉に掲示板とは反対の方向を振りむく。 そこには別のテーブルが有り、冒険者の一人が素材をお金と交換していた。 なるほど、覚えておこう。
「依頼の達成時には、この書類に依頼主様のサインを頂いて下さい。 それを証拠として、報酬をお支払い致します。 稀にサインを渋る依頼主様も居られますが、その場合はギルド員が向かい、適切な処置をしますのでご安心下さい」
これにサインを貰えば良いのね。 適切な処置とは言うが、つまり制裁だろう。 笑顔のまま言う彼女に、少し怖いものを感じた。
「それでは受注手数料ですが、どうされますか?」
「今払おう」
キースが彼女に手数料を渡した。 これで依頼は成立だ。 まずは、話を聞きに行こう。 準備は整っているので、出たらすぐに門へ向かうとしよう。
「はい、確認しました。 それでは、お気をつけていってらっしゃいませ」
彼女は頭を下げて、私達を送ってくれた。 ギルドの扉を開けて外に出る。 初めてのことに、少し緊張感が残っている。 これが私の冒険者としての、本当の初めての依頼だ。 依頼した人の畑に続く門は……向こうの方か。
「まずは、依頼主の所へ行こう」
「そうね」
キースが確認してくる。 私が頷くと、彼は門の方に向かって歩き出した。 私も続いて進み出す。
暫く歩いて、目的の門の手前に到着した。 外に出るために、門の警備兵の所に続く列に並ぶ。 すぐに私達の順番が回ってきて、兵士が話しかけてくる。
「依頼ですか?」
「ええ、そうなの。 すぐそこの畑にね」
私が何か言う前に、そう言い切れたのは、首元にかかるメダルを見たからだろう。 旅をするような装備もなく、馬車も引いていない私達の用事と言えば、依頼という所か。
「それでは、此方をお持ち下さい。 街に戻る時に再び掲示していただければ、すぐに入場できますので」
「ありがとう」
木製の小さな板を2つ渡されたので、受け取ってキースにも手渡す。 それを懐にしまい、彼と一緒に橋へと歩き出した。 橋の先には、見渡す限り畑が広がっている。 あの奥に見える納屋が目的地だ。
「深い水堀ね」
「外敵から街を守る役割も担っているからな」
橋から水堀を覗く。 それはぐるっと街を囲むように掘られていて、底が見えないほどに深い。 ふと、影が見えたような気がして足を止めた。
「魚かしら?」
「これだけ大きいからな。 住んでいても不思議じゃない。 ほら、あれを見てみろ」
キースが言った先には、水堀で釣りを楽しむ住人がいた。 釣りか……。 一度もやったことがないから、少し気になる。 そのうち機会があれば経験してみたい。
「行きましょ」
「ああ」
水堀から目を離し、目的の納屋に向かって再び歩き始める。 畑には様々な作物が実っていて、風が葉を揺らしている。 ここでじっとしていたら眠くなりそうだ。 暖かい陽気に包まれながら、空を見上げてそんな事を思った。




