ノーランの街 5
その料理は、細かい粒状の食材がぎっしりと皿に盛り付けられている。 これが米だろう。 その他にも刻んだ野菜や香辛料らしき物も見えた。 一番目立つのは、メインに頼んだ肉だ。 大きな角切りにされたそれは、焼き目が付いていて美味しそうだ。
キースのは、私の料理の肉を魚に変えたものだ。 しかし、入っている他の具材が少し違う。 メインに合うように調節してくれたのだろう。 早速、スプーンを手に持ち頂くことにする。
「頂きます!」
皿から一口掬って、口に運ぶ。 ふっくらもちもち、面白い食感だ。 米だけでも、良い味が付いていて美味しいが、肉と食べるとより際立つ。
「美味しい!」
「これは……旨いな……」
その美味しさに思わず声をあげる。 キースも気に入ったようだ、後で売っているお店を探さなければ。 出来れば、ここで調理法も教えて貰いたいが、流石に迷惑だろう。 お米を売っている店で聞く事にする。
「ねえ、一口食べて良い? 私のもあげるから」
「ああ、構わない」
キースの方も気になり、交換を提案する。 彼が了承してくれたので、スプーンで一口掬って口に運んだ。
「これも美味しい!」
「こっちも旨いな」
米は同じだが、味付けが全く違う。 私のは甘辛かったが、キースのは塩の味が強く感じた。 魚に合うように味付けされている。
暫く一心不乱に食事を楽しんだ。 行儀が良いとは言えないが、ここは屋敷じゃない。 怒る人は居ないのだ、作法を気にしない食事は、随分と美味しく感じる。
「ご馳走さま」
「旨かった」
カチャ、とスプーンを置く。 満足だ、これ以上ない程に。 私は小さく息を吐き、取っておいた果物に目を向ける。 次は、これだ。
「なんの果物かしら?」
「見た事はないな」
見た目は赤っぽく丸い。 ナイフが置いてあるという事は、切って食べるのだろう。 私が手に持って眺めていると、キースが率先して果物を切り始めた。
「皮は厚いな、食べられそうもない」
そう言って皮を全て剥いていく。 すると、中から白色の身が姿を表した。 赤いのは皮だけのようだ。 私も彼に倣って皮を向いていく。 剥き終わった後、一口で食べられるように小さく切り、その一つを口に運んだ。
「甘酸っぱくて、美味しい」
シャリシャリとした食感に甘酸っぱい味がする。 先程の味の濃い料理を食べた後だと、口の中がさっぱりして丁度いい。 甘すぎないので、飽きずに食べられる。 あっという間に全て食べ終わってしまった。
「食べるか?」
「……いい」
キースが残りの果物を差し出してくる。 誘惑に負けそうになるが、ここは我慢だ。 あまり食べすぎるのは良くない。 ……この果物も売っていたら買っていこう。
食事を終えた私達は、会計を済ませて店を後にする。 ちなみに、帰り際にもキースが店主さんに絡まれていた。
「少し休憩していくか」
「ええ、あの椅子に座りましょ」
すぐ近くにある椅子に座り、少し休憩する事にした。 とても美味しかった、この店に入って正解だ。 私達が出た後も、次々と客がお店に入っていく。 それなりに有名な場所だったのだろう。
「次は何処に行こうかしら」
私は町の地図を手元で広げ、キースと一緒に見る。 先程の店を出る時に店主さんから貰ったものだ。 これによると、商業区という場所があるのが確認できる。 ここが一番楽しそうだ。
「この商業区って所に行かない?」
「わかった、向こうの方だな」
少し歩く事になりそうだ。 椅子で暫く休憩し、商業区に向かって歩き始めた。 目的地に近づくにつれて、段々と人が多くなっていく。 街で商人を多く見かけるだけあって、ここが一番人が集まるのだろうか。
「この辺りだな」
「そうね……。 見て回ろうと思ったけど、こう人が多いとお店を探すのも一苦労ね。 あっ!」
視線の先にアクセサリーを売っている露店を見つけて近寄った。 どれも可愛い、いくつか手にとって確かめてみる。
「買うのか?」
「分かってないわね、見て回るのが楽しいの。 買うかはまた別の話よ」
すぐに財布を出そうとするキースを窘めて、アクセサリーを元の場所に戻す。 隣のお店にも良さそうなものがあるわね。 あっ、向こうにも。
何軒も店を回り、気づけばもう夕方だ。 後ろにはキースが、疲れた顔をして着いてきている。 それにしても、ここは人が減る様子がなく賑わったままだ。 次の店に向かおうとすると、キースに肩を掴まれた。
「レティ。 さっきの店の食材を探すんじゃなかったか?」
「あっ! そうね、何処かにあるかしら」
そうだ、すっかり忘れていた。 私は辺りをキョロキョロと見回す。 この辺りは、装飾品を売っている店が多い。 食材を売っているお店はどの辺りだろうか……。
「食料を扱う店は、向こうの方に集まっている。 さっき見かけた」
そう言って違う方向を指差す。 そちらに向かって探してみよう。 さすがキース、よく見ている。 褒めようと彼を見ると、安堵したようにため息を付いていた。
「どうしたの?」
「いや……なんでもない」
キースの様子に首を傾げる。 気になるが、ここで立ち止まってるのも邪魔なので、それ以上は聞かなかった。 彼が指した方向へ歩いていくと、食材を扱うお店が増えてきた。 美味しそうな果物や、見たこともない食材が店先に並んでいる。
「米と言っていたな。 どこで売っているか……」
「あっ、あれじゃない?」
私はあるお店を指差す。 遠目にだが、それらしきものが袋にぎっしりと詰められている。 キースに確認し、二人で店の方へと進む。
「当たりね。 ……でも、随分白いわね。 それに硬いわ」
「これが米であっているようだな」
キースはそう言って、店の前の看板を見ている。 そこには、"ノーラン名物、米 取り扱っています" と書かれていた。 料理で食べた米とは違って随分と一粒が小さく、白くて硬い。 このまま食べると歯がかけそうだ。 やはり、料理方法があるんだろう。 私が困惑していると、その店の店員であろう、女の人が声をかけてきた。
「お嬢ちゃん、米を見るのは初めてかい?」
「ううん、お昼にこれを使った料理を食べたの。 だから、買っていこうと思ったのだけれど……。 これ、料理方法があるんでしょう?」
私がそう言うと、彼女は店の奥から小さな鍋のようなものを持ってきた。 それは形がいびつで、上から見ると円を歪ませたような形をしている。
「これを使うんだ。 米をよく洗って、この中に入れる。 そしたら水を加えて、火にかけるんだよ。 暫くすると、ふっくらとしてくる。 お嬢ちゃんが、お店で食べたのと同じようにね」
なるほど、水を吸って膨らむということだろうか。 これは、慣れないと上手く出来そうにない。 私が真剣に話を聞いていると、彼女は面白いものを見るように笑った。
「あはは。 米を買ってくれるんだろう? なら、この調理器具もおまけに付けとくよ」
「いいの!? じゃあ、お米を買うわ!」
突然の提案に、飛びついた。 歩き回って、少し疲れてきていた所だ。 調理器具も貰えるのなら、手間が省ける。 米の料理方法も教えて貰って、いい事尽くめだ。
「よっぽど、米料理が美味しかったんだろう? 顔にかいてあったよ。 ほら、ありがとうね」
「……! う、ううん。 此方こそありがとう」
しまった、必死過ぎたか。 赤くなりそうな顔を誤魔化して、代金を渡し米と器具を受け取る。 うっ、結構重い……。 さり気なく、キースが私から米の袋を持っていった。
「ありがとう、キース」
「ああ。 そろそろ宿に帰ろう、これを持って回るのは無理そうだ」
時間も時間だ。 米も重いし、キースの言う通り宿に戻ろう。 私達は、来た道を戻り宿屋に向かって歩いて行った。 明日も商店街に……と言いたい所だが、ギルドが先だろう。 簡単な依頼でも受けてみることにしよう。




