ノーランの街 4
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」
私達がそそくさと彼らの間を縫って出ようとすると、エイリオから再び声がかかった。 まだ何かあるのだろうか。 私はさっさと街を見物しに行きたいのだけど……。
「僕達はシルバーランクだ。 一緒に依頼を達成すれば、すぐに実力が認められて君もランクが上がる。 願ってもない事だろう?」
「ごめんなさい、興味ないわ。 行くわよ、キース」
ニッコリと笑って言うと、エイリオは膝から崩れ落ちた。 しつこい人は嫌いだ、でも良い事を聞いた。 彼の言いぶりからすると、高ランクの冒険者がいれば依頼の規定ランクに達していなくても、それを受けることが出来るようだ。 まぁ、限度はあるだろうが。
―――――キィ
ギルドの扉を開けて外に出る。さぁ、早速街の見物に行こう……と思った所で、キースに止められた。 振り返ると、私の手を指さしている。
「レティ。 いつまで手に持っているつもりだ?」
「……忘れてたわ」
ギルドカードとメダルを握ったままだった。 エイリオ達に気を取られて、すっかり忘れていた。 メダルを日にかざしてみるとキラリと輝く。 私はそれを首にかけ、ギルドカードは懐にしまった。 これで晴れて、私も冒険者だ。
「似合ってる?」
「似合ってる、まるで冒険者みたいだな」
子供を相手にするような口調だったので、抗議の意味も込めてキースを半目で見つめ返した。 しかし、彼はすぐに目をそらした。 失礼な。 ままごとではなく、名実ともに冒険者だ。
「まぁ、いいわ。 お腹が空いたわ、何処かお店に入りましょう?」
「そうだな、その辺りを歩いてみることにしよう」
お腹が空いた、時間は昼を少し過ぎた位だ。 ぶらついて良さそうなお店があったら、そこで昼食を済ませよう。 噴水広場を出て、少し歩くと良い匂いが漂ってきた。 この辺りには食事を提供するお店が多いようだ。 さて、何か美味しそうな食べ物はあるかしら。
「レティ。 あれはどうだ?」
「どれ?」
キースが何か発見した。 そのお店に近づき、店先にあるメニューを眺めると見慣れない食べ物が書いてあった。
「お米? ってなにかしら」
「この辺りの畑で取れるものらしいな。 街の名物とも書いてある、味にも自身があるんだろう。 入ってみるか?」
確かに、キースの指したところには太字で大きくノーランの街名物と書いてある。 ……気になる、このお店にしよう。 私はキースに頷き、彼に続いて店に入った。
『いらっしゃい!』
「二人だ」
店に入ると店主から威勢のいい声がかかる。 人数を言うと、奥の小さなテーブルへと通された。 お店の中は混んでいる。 横目で他の客を見ると、お皿に盛られた料理をスプーンで食べている。 あれがお米だろうか。
「これがメニューだ。 具を選んでくれれば、すぐに作るよ」
「具?」
渡されたメニューには、炒め料理しか書いていない。 具というのは、お米と一緒に炒めるものを決めるという事だろうか。 よく分からなかったので、私は店主に聞き返した。
「ああ、お客さん達は初めてかい? それなら、この肉か魚が無難だね。 他の細かい具は、こっちで上手く合わせるよ。 中には米に味付けだけなんて客もいるが、あれは上級者向けだ」
なるほど。 メインの具を一つ選び、それに野菜などの細かい具を加えて、自分好みの味に出来るという事か。 これは自分で選ぶより、任せてしまったほうが良いだろう。
「そう……。 なら、私はお肉にするわ」
「なら、俺は魚にしよう」
「あいよ!」
注文を受けた店主は、奥の厨房に戻っていった。 出来上がりが楽しみだ。 美味しかったら、旅に持っていこうかしら。 名物なら、どこかで売っているはず。
「キースの言った通り、登録は簡単だったわね」
「ああ。 ……別の障害があったが」
エイリオの事か。 確かにあれは、しつこかった。 そんなに勧誘がしたいなら、同じシルバーランクの人を誘えば良いのに。
「なんであんなに食い下がってきたのかしら」
「治療魔法だろうな。 経済的にも安全面でも、それが使える者が居ると格段に良くなる。 おまけに、俺達は駆け出しだ。 昇級で釣れば、すぐに食いつくと思っていたんだろう」
うっかりと言ってしまったのは不味かったか……。 訂正したいところだが、それでは詐称して登録したことになってしまう。 諦めて受け入れよう。
「まるで回復アイテム扱いね」
「はは、治療魔法は覚えようと思っても無理だからな。 手頃な使い手をグループに入れようと、あそこで構えていたんだろう」
治療魔法は、他の魔法と違って後天的に修得するのは難しい。 魔力が治療魔法に適応した者でなければ使えないからだ。 彼らが、維持でも回復魔術師を迎え入れたい気持ちは分かるが、物扱いされるのは心外だ。
「その点、キースは幸せ者ね。 私が一緒に居るんだから」
「そうだな、レティにはいつも助けられている」
キースをからかうつもりが、真面目な雰囲気で返されてしまったので、私の方が赤くなってしまった。
「そ、そうね。 感謝しなさい?」
赤くなった顔を誤魔化すように、厨房の方を見る。 今そういう態度を取るのはズルいと思う。
厨房の方から、店主が料理を持って近づいてきた。 助かった、丁度微妙な空気になってしまった所だ。
「ほら、お待ちどう!」
彼は私達の前に料理を置く。 香ばしい良い匂いだ、食欲がそそられる。 続けて、私とキースに一つずつ皿を置いた。 ……何か他に頼んだかしら?
「可愛らしいお嬢さんにサービスだ。 そっちの騎士様も、しっかりと食べて、お姫様を守ってやるんだぞ」
笑顔でバシバシとキースの肩を叩きながら、そう言い残して厨房に戻っていった。 こういうのなら大歓迎だ。 キースはなんとも言えない顔をしているが。
「気前の良い人ね」
「お節介と言うんだ」
店主さんの後ろ姿を見ながら言ったが、キースは迷惑そうだ。 おまけのお皿には、美味しそうな果物が乗っている。 これは、最後に頂こう。 冷めてしまう前に、目の前の料理に手をつけた。




