ノーランの街
―――――ガラガラ……ガラガラ……
デイルの街を出て五日、明日には街に着くだろう。 辺りは徐々に日が暮れ始めている。 野宿には慣れたもので、準備も片付けも早くなった。 デイルの街で貰った物資には、保存の魔法が刻印された箱がある。 それに食料をつめて貰ったので、旅の間の食糧事情は大分改善されたと思う。 私としては、それが一番大事なことだ。
「そろそろ、何処か良いところを見つけましょう?」
「ああ、そうしよう」
街を出た後、キースとは話し合った。 次の街で冒険者ギルドに登録して、仕事を受ける。 そこで少しお金を稼いだ後、準備を整えてまた別の街へ。 何れは何処かに家でも持とうか……とも考えているが、暫くは旅を続けたい。
「あの辺りが良いんじゃないか?」
「……ええ、そうね」
家でも……と考えている時にキースの顔を見て動揺してしまった。 その時、一緒に住むのは彼だろう。 私に愛想を尽かしてなければだが。 気持ちを切り替えて、野宿の準備を始める。 山道に小さな池を発見した、今日はこの辺りで野宿をしよう。 キースは馬を水場に繋げに行った。 暗いし、特に悟られてはないはずだ。
「Act.1 火」
焚き火に魔法で火をつける。 何度も思うが、便利である。 必死に魔法を学んだかいがあった。 これがなかったら、旅は不自由なものになっていたに違いない。 普通に旅をしている人達からすると、楽をしすぎて呆れられる程だろう。 でも仕方ない。 私は今までこんな事を経験したこともなかったのだから、少し位楽をしてもいいはず。
準備を終えて、椅子を取り出して座る。 夕食にはまだ早い、少しここで休憩しよう。 慣れたとは言っても、疲れないわけではない。 キースの方を見ると、馬の世話を終えて此方に向かってきていた。
「紅茶でも淹れよう」
「ありがとう」
そう言ってキースは、お湯を沸かし始める。 焚き火の火をじっと見つめながら、私はキースに話しかけた。
「もう解決したのかしら」
ライツはどこでゼイルにあったのか、ゼイルはどうやって核を体に埋め込んだのか。 そして、消えたあの男。 もう国から人が到着し、調査は始まっているはずだ。 せめて、ライツが何か喋るまで居ても良かったかもしれないと、少し思ってしまった。
「あのまま居て、調査員と出くわすのは不味い。 街を直ぐ出たのは、正解だったさ」
……確かにそうだ。 送られてくる調査員は、それなりの実力者のはず。 この意識阻害の魔法が見破られる恐れもある。 すぐどうにかなるわけでは無い筈だが、危険は犯さない方がいい。 それに、ゼイルをどう倒したかなど聞かれたら答えられない。
「それに、ライツから有益な情報が出るとは限らない」
廃鉱では、ハイアンさんと鉱山の元警備兵達が勝利を収めた。 ライツはゼイルのように核を埋め込んでは居なかったのだろう。 あの力があれば一人で場を収めることも出来たはずだ。 ゼイルに祭り上げられただけなのならば、キースが言うように、ろくな情報は持っていないだろう。
「そうね。 ……さ、夕食を作るわね」
「俺も手伝おう」
これ以上考えていても仕方がないか、もう夕食を作ってしまおう。 立ち上がった私に続いて、キースも腰を上げた。 今日は何にしようか、確か箱に魚があったはず。
―――――カチャ
箱から魚を取り出す。 それをまな板の上に置き、身に少し切れ目を入れて塩をすり込む。 キースには付け合せのキノコ類を用意して貰った。
「Act.1 火」
焚き火にやったのと同じように調理器具に火を入れる。 これもデイルで新しいのを貰ってきた。 四角い長方形の箱に焚き木を入れて着火し、上に別の調理道具を置ける。
―――――ジュウウウッ
十分に熱した所で、魚の皮の方を焼き始める。 少しした後、キースの用意してくれたキノコ類と共に水を少量加え蓋をする。 蒸し焼きだ、後は待つだけ。 キースは野菜を切って、サラダを用意してくれていた。 私は、焚き火の方に戻り湧いたお湯で紅茶を淹れる。
「ここに置くぞ」
「ええ、ありがとう」
キースがサラダを盛り付けた皿を机に持ってきた。 私も淹れたばかりの紅茶を、彼に手渡す。 立ったままコップに口をつけ、一口飲んだあと机に置く。 そして、調理場の方へと戻った。
「そろそろいいわね」
頃合いを見て蓋を開けると、一気に蒸気が噴き出す。 ちゃんと火は通っているようだ。 それを確認した後、暫く蓋を開けておき水気を飛ばす。 完成だ、後はお皿に盛り付けて……。
「はい、どうぞ」
「頂こう」
火傷しないように気をつけながら、机まで運び椅子に腰掛けた。 うん、いい匂いだ。 保存箱をくれたハイアンさんに、心の中で改めて感謝をする。 これなら、街の屋台で買った美味しそうな物も持っていけるかしら……。
「レティ、調理済みの料理は無理だと思うぞ。 保存は効くだろうが、中が酷いことになる」
「わっ、わかってるわよ、そんな事」
また考えを読まれた、そんなに顔に出てるの? ……でも、何かに包んで固定すればなんとかならないかしら。 そこまで考えてやめた、キースが笑っていたからだ。
「なに?」
「いいや」
問い詰めるが、顔を逸らされてしまう。 全く……まるで私が食べ物のことばかり考えてるみたいじゃない。 その後も談笑をしながら食事を済ませ、就寝する準備を始める。
―――――ガサッ
テントに潜り込み、寝床を整える。 すぐ横には、もう一つテントがありキースが入り込んでいる。 二人共寝ようとしているのは、デイルで貰った魔道具を試してみることにしたからだ。
三角形の小さい魔道具を近くに数個置く。 起動させた後、近くに動くものがあると警報を発するらしい。 私達には反応しないように、魔力を覚えさせている。 キースも魔法が使えないだけで、魔力を微量は持っているので問題なく使えた。
これに任せるのは少々不安が残るが、キースは半覚醒で寝るとの事。 何か近づけば対処すると自信満々に言っていた。 どうしたら、そんな器用なことが出来るのか。 聞いてみると、今までの旅の見張りの時も同じ事をしていたそうだ。 道理で見張り後も、そこまで疲れていない筈だ。
「おやすみなさい、キース」
「ああ、おやすみ」
明日はついに街に到着だ、冒険者ギルドにも始めて行く。 ウイユの村の件で、印象はあまり良くないのだが、あれが全てというわけでもない筈だ。 明日、自分の目で確かめてみるとしよう。 そして、私は目を閉じ意識を手放した。




