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旅立ち

  

「わかったわ。 夜にまた会いましょう」


「はい、それでは失礼します」


 そう言って会釈をして、キースは部屋から出ていく。 私は窓から外を見た。 空は赤く染まり、間もなく夜を迎える。




「……」


 おもむろに箪笥から二つの箱を取り出して片方を開けた。 その中には両親に向けた手紙と、私が必死に学んで覚えた守りの魔法を刻んだ指輪が入っている。 先程、両親に恩はないと言いながらこんなものを用意している。 私は自分で思っているより未練がましいのかもしれない。




「御父様、御母様。 ……今までお世話になりました」


 二つの指輪に思いを込め、小さな机の上に置く。 その思いが届くとは思っていない、これは私の自己満足だ。 気持ちを切り替えた私は、もう一つの箱を開ける。




「いよいよね」


 箱から取り出したネックレスを掲げ、私はつぶやいた。 そのネックレスに刻んだ魔法は認識阻害。 これをつけてしまえば、誰も私を見ても私だと気づかない。 "私と同じ容姿の違う誰か" として認識される。


 これを破るには看破の魔法か、それの魔法を刻んだ装備を身に着けている必要がある。 キースには、指輪を渡していた。 少々心もとないが、どうせ私の存在は外には秘匿にされている。 この屋敷と領地から出れれば、それで良い。




 そのネックレスを大事に懐にしまい、椅子に座って本を取り出す。 後は夜中になるのを待つだけだ。 私は緊張を隠すように本を読むことに没頭した。








―――――様、お嬢様。


 はっと、私は目が覚める。 どうやら眠ってしまっていたようだ。 思った以上に疲れが溜まっていたのかもしれない。 私は起こしてくれたキースに目を向けた。




「眠ってしまったわ。 ありがとう、起こしてくれて」


「大丈夫ですか? あまり無理をなさらないよう……」


 寝ぼけ眼で見る私を、キースは心配そうに見てくる。 大丈夫だ、今日のために準備をしてきた。 疲れ程度でふいにしたくはない。




「平気よ、心配しないで。 それよりもう時間でしょう? 早く行きましょう」


「……わかりました、それではこちらに着替えて下さい。 その衣装では目立ちますので」


 キースが差し出した服に目を向ける。 今来ている服とは正反対の地味な服。 これから家を出る私には丁度いい衣装だ。 そもそも綺羅びやかな服に未練がある訳でもない。




「わかったわ。 ちょっと待っていてくれる?」


「……」


 私はキースがいる前で着替える素振りをしてからかった。 しかし彼は無言で振り返り部屋を出ていってしまった。 その様子に私は思わず笑ってしまった。




「あら、居ても良かったのに」


「お戯れを。 ご用意が整いましたら、出発致します」


 扉の向こうで聞こえるキースの返事を聞きながら、私は渡された服に着替えた。 見ただけではわからなかったが、この服は防具として機能するようだ。 要所要所の裏側がしっかりと保護されていた。 その分、少々動きづらいが。




「終わったわ。 入ってきて大丈夫よ」


「……失礼します」


 私はキースに準備ができた事を伝えた。 しかし彼は警戒しながらゆっくりと扉を開けて入ってきた。




「大丈夫よ、ちゃんと着替えたわ」


「……それでは、馬車に向かいましょう。 こちらです」


 私を確認してようやく警戒をといた彼は、そう言って案内を始める。 どうやら私はあまり信用されていないようだ。 ……まぁ、私が暇つぶしに隙を見つけてはイタズラを仕掛けたせいなのだけれども。




「暗いので足元に注意して下さい。 まずは中庭にむかいます。 警備兵の巡回ルートは記憶していますので、しっかりと着いてきて下さい」


「ええ、任せたわ」


 使用人が寝静まっても屋敷の警備兵が巡回している。 キースは巡回ルートを全て掌握しているので、私は離れないように後ろについていくだけだ。




「……こちらへ」


「……」


 そろりそろりと屋敷内を抜けていく。 両親の描く貴族像を進んできた私にとって、こんな事は初めての経験だ。 思わず笑みが零れそうになるが、見つかったら最後だ。 改めて気を引き締める。




「見えました。 あそこに馬車があります」


 そうキースが指差すのは、別荘に物資を運び込んでくる時に使われる馬を駐める厩舎だ。 近くには馬車もあり、馬を繋げればすぐにでも出発できそうだ。




「お嬢様。 静音の魔法をお願いできますか?」


「わかったわ」


 静音の魔法を、と言われた私は手を前にかざす。 そして魔法を発動させるための言葉を口にした。




―――――"Wait.3 静音"




 そう発した直後、掌が薄く輝く。 そして付近からは音が失われた。




 魔法は動作 種類 イメージの三つで構成された文で発動する。例えば、今私が発動した静音の魔法を例にあげよう。


 Wait これは動作を意味する。この場合はその場にとどまるよう発動する。他にも動くように発動させるAct、発動してから遅れて効果が出るDelayなどが存在する。

 

 3 これは種類を意味する。1は火、2は水、3は風、4は土といった具合にだ。 他にもあるようだが私はこれしか知識がない。


 静音 これはイメージだ。 自分がどう魔法を発動させたいかを表現する。


 これを組み合わせると、空気の壁を作り付近に音が拡散されることを防ぐ魔法の完成だ。 魔法が発動したことを確認して、キースは私にジェスチャーで指示を伝える。




「……! ……」


 はたから見ればおかしな光景だが、これも以前より考えていたサインだ。 私は馬車の荷台に乗るようにキースから指示された。




「綺麗な夜空ね」


 声は出ず、誰にも聞こえないが私は呟いた。 暫くすると馬を連れてきたキースが馬車に繋げ、渡しに合図をする。 頷いた私を確認して馬車は動き出した。




 厩舎のすぐ近くには通用の入口がある。 そこにはもちろん警備兵が待機しているが、キースは私を振り向いて指示を出した。 それに答えて私は魔法を発動させる。




「Act.2 睡眠」


 つまりは睡眠薬を霧状にして飲ませる魔法だ。 入り口を見張っていた警備兵は眠りに落ち、壁にもたれかかる。 その間を私達は抜け、ついに屋敷から飛び出した。




「やったわ!」


「お嬢様、あまり乗り出されますと危険です」


静音の空間を抜け、声が出るようになった私は身を乗り出して喜んだ。 そんな私をキースは諌める。 しかし、彼の顔もまた達成感からか珍しく微笑んでいた。




「まずは街に向かいます。 着く頃には朝を迎えるでしょう。 そこで食料をもう少し補充し、その後すぐに街を出ます。 なるべく、距離を稼げるように」


「ええ。 早めに、この国を出なくちゃね」


 そして私の長い旅はここから始まった。 小さな世界に閉じこもっていた私が、未知の世界へ。 過去を捨て、未来に希望を持って。


※魔法のイメージの部分。 上の文だと "睡眠" などですが、読む際は "スリープ" など英語の方が語呂が良いかもしれません。 どちらでも読みやすい方でどうぞ。

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