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国境の街 デイル 18


「よし、何か足りないのはあるか?」


「……特にないわね。 大丈夫よ」


 宿屋の小屋にたどり着き、私達は馬車の荷台を確認していた。 次の街までは少しかかる、なにしろ国を越えるのだ。 準備は入念にしておかないと。 久しぶりにクッションを荷台に設置し、そこに座る。 またこれにお世話になる。




「なら、出発するぞ」


「ええ」


 キースが馬車を走らせる。 街は随分と賑わっていて、人が多い。 あまり速度は出せないが、せっかくだからゆっくりと見ていくことにしよう。 街には人がこんなにいたんだ。 改めて、最初の様子が異常だったと思い知らされる。


 結局、ゼイルがどうやって魔物の核を手に入れたのか、わからずじまいに終わってしまった。 十中八九、あの男の仕業だろう。 その男も核と共に消えてしまったので、調べようがない。




「ハイアンさんには、何て言ったの?」


「ゼイルを倒した事、魔物の核を体に埋め込んでいた事は報告した。 あの消えた男の事も一応言ったが、半信半疑と言った所だな。 正直、俺もまだ理解が追い付いていない」


 それもそうだ。 ゼイルの体に核が埋め込まれていたというだけでも信じがたいのに、核を吸収して消えたなんて。 少なくともゼイルの力は目の当たりにしているので、そちらは信じて貰えただろうか……。




「……それと、眼の事は言っていない」


「……そう」


 赤い眼、私が離れの屋敷に閉じ込められた原因だ。 その状態でゼイルを圧倒したようだが、私自身は全く覚えていない。 キースに深く聞くこともしなかった、……異物を見るような目で見られるのが怖かったというのもある。 彼の普段と変わらない態度に、私は安堵していた。 屋敷に居るときから、彼だけは私についていてくれた。 外から目線を外し、ちらりとキースを眺めていると、彼も同じようにこちらを振り向いた。




「なんだ?」


「ううん、なんでもないわ」


 それが面白くて、少し笑ってしまった。 キースは怪訝な顔をするが、直ぐに前をむく。 私も一瞬目を閉じて、窓の方に頭を向き直した。




―――――ガラガラ……ガラ……ガラ……


 キースが突然、馬車をとめた。 何かあったのかと前を見ると、豪華な装飾をされた一団が道を横切ろうとしていた。 あれに今回の主役のハイアンさんが乗っているのだろう。 周りの人達は手を降って出迎えている。


 残念ながら、ハイアンさんの姿は確認できなかった。 彼はこれから、無理に生産していた貴金属を調整しなければならない。 貴族からの反発は必至だろうが、今までは市民の命を削って大量の発注を受けていたのだ。 ライツが捕まった今、無理に作らせることは出来ない。 となると、貴族同士での購入権の取り合いになるのだろうか。 通り過ぎていく一団を見ながら、ハイアンさんに同情をした。 間に挟まれる彼はたまったものではないだろう。




「レティ、ほら」


「これは?」


 そんな事を考えていると、突然前に居るキースから肉の刺さった串を渡された。 何処から持ってきたのか? 不思議に思った私は、それを受け取りながら彼に聞き返す。




「この催し物に参加している人に配っているようだ」


「……なるほどね」


 キースは馬車を通り過ぎた人を指差す。 その人は大量の箱を乗せた荷車を、ガラガラと引いている。 それには食べ物が入っているようだ、付近の人達に配って歩いている。 私は渡された串を頬張った。 ……うん、おいしい。




「もっと貰ってくるか?」


「んっ、……大丈夫よ」


 キースがニヤけながら聞いてきた。 急に恥ずかしくなった私は、緩んだ表情を戻しながら残りを食べ勧める。 もう一本くらい頼もうかとも思ったが、彼の顔を見て止めた。




「ほら、いきましょ?」


「ああ」


 未だ笑っているキースを私は急かす。 もう一団は通り過ぎた、ここで止まっていると邪魔だろう。 街の人達の大半は、先程の一団に着いて行ってしまったので道は空いている。 だが、私達と同じように通り過ぎるのを待っていた馬車はいくつかあるのだ。




「この街道を六日ほど行けば、次の国だ」


 門の近くに来た所で、キースはそう言った。 六日か……。 今までにない長さの道のりだが、これでついに国を出るんだ。 ふと、後ろを振り返る。 屋敷のあった方を探すが、もうどの方角にあったのかすらわからない。


 ……そうだ、次の国はどんな所だろう。 キースに聞くのを、すっかり忘れていた。 彼に聞こうと前を見たが、門の警備兵に証を見せている所だったので大人しく座って待つことにした。




「どうぞ」


 警備兵の声が聞こえ、キースが乗り出していた身を戻す。 特に問題もなく出発できそうだ、彼は馬車を走らせ始める。 そして、後ろの私をちらりと見て口を開いた。




「行くとしよう」


「そうね。 ……ねえ、キース? 次の国はどんな所なの?」


 私はキースに聞く。 彼は馬車の速度を少し緩め、振り返って説明を始める。 その際に地図を手渡してきた。 それを受け取りながら、私は話を聞く。




「これから向かう国は、ガーキウス。 この国、エイリアスと比べると大分大きい主要国家の一つだ。 この道は、ガーキウスの端の街ノーランに続いている。 そこで一旦落ち着くとしよう」


 キースは、地図にある街を指さした。 次はノーランという街か。 そろそろ、お金も調達しないといけない。 この街の冒険者ギルドで依頼でも受けるのが良いだろうか。 ハイアンさんから報奨金を掲示されたそうだが、断って少額だけ貰ったらしい。 私もそれに賛成だ、そのお金は是非とも街の復興に当てて欲しい。




「レティ、後ろを見てみろ」


 私は考えた意見をキースに話そうと顔をあげると、彼は馬車の後ろの方を見て私に言った。 その通りに後ろを振り向くと、門の方に兵士がずらりと並んでいるのが見えた。




『……!』


 並んだ兵士達の前にハイアンさんとラズさん、そしてラズさんのお婆さんが見えた。 兵士達は一斉に、こちらに向かって敬礼をし始めた。 ハイアンさんは腰を折り、深々と頭を下げる。 お婆さんなど、手を組んで祈りを捧げる姿勢を取り始めてしまった。 ラズさんはお婆さんを見て苦笑しながら、此方に手を降っていた。


 嬉しくなった私は、身を乗り出して彼らに手を降った。 よかった。 その感謝を受け止めた私は、暫く彼らの方を眺めていた。


 馬車は速度を上げ、ノーランへ。 次はついに国境を超えた所だ。 期待に胸を膨らませ、髪をなびかせながら。 私は心地のいい風を、その一身に受けとめた。

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