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国境の街 デイル 16


「……レティ?」


 隣でキースが私を心配そうに見てくる。 大丈夫、何も心配はいらないわ。 貴方は私が守ってあげる。 安心させるように、キースに微笑む。 意識がゼイルから外れた瞬間に、彼は此方に向かって突進してきた。 凄まじい速度だ、地面が抉れてしまっている。




「"風よ阻め"」


 私が手をかざして呟くと、その手の前で凄まじい音を立ててゼイルは停止する。 顔には焦りが見えていて、力任せに押し切ろうとしているが一歩も前へ動くことはない。




「"水よ弾け"」


 ただ、頭で考えたイメージだけを口にする。 その通りに形成された水の塊は、目の前で拮抗しているゼイルを弾き飛ばす。 その勢いは凄まじく、奥の壁の方まで飛んでいってしまった。





「ぐっ!」


 ゼイルは防御の態勢のまま、何度か跳ね返って再び壁にめり込んだ。 私は、それに追撃をかけるようにゆっくりと彼に近づいた。 壁から這い出したゼイルは、私を見て恐怖の表情を浮かべる。




「う……。 くるな……来るんじゃねえ!」


 瓦礫の中で怯えたように私を見ている。 先に仕掛けてきたのは、そちらだ。 私は彼の近くまで迫り、手のひらを地面へと向ける。 ゼイルも無抵抗にはなっていないようだ、胸の核を光らせて拳を私に振り切る。




「"巻き付け蔓"」


 土がゼイルの拳を受け止め、そのまま体に巻き付いて宙に持ち上げた。 ゼイルの顔は更に恐怖が色濃くなったが、私は気にすること無くそれを見上げる。 そして、別の床を指差した。




―――――ギュンッ! ダァン!


 吊し上げたゼイルを床に叩きつける。 ……あまりダメージは入っていないみたい。 丈夫な体ね、これならもう少し強くやっても良さそう。




「なん……なんで、魔法が解けない! なんでだ!」


 巻き付いている蔓を必死に剥がそうとしながら、ゼイルがそんな事を言っている。 続けて私は、土の蔓で宙へとゼイルを放り投げた。 彼はくるくると空を舞っている。 次の魔法は……これにしよう。




「おあああああっ!」


「"穿て竜巻"」


 悲鳴を上げて中で回転するゼイルの近くで、暴風を伴って竜巻が巻き起こる。 それはすぐに横一線に向きを変えてゼイルに直撃する。




「があああああっ!」


 竜巻は回転しながら彼の胸あたりを捉え、ゼイルは悲鳴を上げながら壁に激突する。 あの様子なら、まだ死んでは居ないだろう。 ……とどめを刺しに行こう。 これで全て終わり、解決だ。 思わず笑みが漏れてしまう。 ゆっくりと私は進む。




『レティ!』


 声が聞こえた。 同時に視界が暗くなり、前に進めなくなった。 抱きしめられているようだ。 私は声の主、キースの方に目を向ける。




「レティ、もういいんだ。 もう終わった」


 その言葉に、壁の方に目を向けた。 ゼイルは気絶している。 まだ解決してない、行かないと。 私は足を踏み出そうとするが、キースが離してくれない。




「キース? 私、行かないと……。 貴方も危ないわ」


「いいんだ。 もう終わったんだ。 そういう事は俺に任せろ、お前が手を汚す必要はない」


 終わった? 終わったの? もう大丈夫……もう……安全? 私は親に甘える子供のように、キースの胸に顔を埋めて目を閉じた。 すーっと、頭が冴えて来るような気がする。 視界を染める赤色の景色が、もとに戻っていく。




―――――ガラッ


 壁が崩れる音がする。 目を開けても真っ暗だ。 でも、なんだか安心するような気がする。 顔をあげると、そこには目の前にキースの顔があった。




「キッ、キース……?」


 私は絞り出すような声を上げてしまった。 目の前にキースの顔があったのだ、流石に驚いた。 しかし彼は、私を離してくれる様子がない。




「……キース? 何が……っ! ゼイルは!?」


 はっとして頭だけを振り返る。 そうだ、ゼイルと戦っていたんだ。 私はどうして? もしかして、気を失ってしまった?




「……!」


 振り返った先には、ゼイルが壁に激突して気を失っていた。 よくみると、そこら中が穴だらけだ。 私は混乱した。 この跡は魔法だ、キースにそんな事はできない。 ……なら、私? なぜ? 意味がわからない。




「レティ、落ち着け。 大丈夫だ」


 狼狽える私を、キースは優しく支えてくれる。 体にうまく力が入らない。 暫くこのまま支えて貰うことにしよう。 それと、何があったかも……。




「私、何が……?」


「レティ。 ゼイルの胸の核を見た途端、目が赤く輝き出した。 そして……」


 その後は言わず、キースはゼイルの方を見る。 核? 私も同じ方向を見た。 確かに、ゼイルの胸に魔物の核が埋め込まれている。 色は大分黒ずんでいた。




「そう……。 私、ゼイルを倒したんでしょう? やったわ」


「ああ、だから安心しろ。 もう大丈夫だ」


 声が震えてしまった。 赤い眼、魔王の眼。 あの時と同じだ、その瞬間の記憶がない。 ……自分が自分じゃないように。 少し怖い。 そんな私を、キースは暫く何も言わずに支えてくれた。




―――――カランッ


 暫く、そのままキースに体を預けていた。 こうしていると安心する。 ……そうだ、ハイアンさん達を助けに行かないと!




「ねえ、ハイアンさん達を……!」


「ああ、分かっている。 もう大丈夫か?」


 キースに返事を返そうとした瞬間、ゾッと悪寒が走る。 その男は倒れたゼイルの側に、音もなく佇んでいた。 突然現れた、という表現が一番しっかり来る。 全く気配は無かった。 瞬きをしたら、そこに居たような感覚だ。 彼はゼイルを一瞥したあと、こちらに視線を向けて深く頭を下げた。




「お初にお目にかかります。 見事な輝きでした。 今はしっかりと、体を休ませて頂けますよう」


 輝き……。 核の事? それとも、私の瞳? 何を知っているのか、彼は真っ直ぐ私を見据えてくる。 その視線に不安を覚えていると、すっとキースが私の前に立ちふさがった。




「何の用だ」


「……いえ、これを回収しに来ただけです」


 キースが剣を構えて対峙する。 二人は暫く睨み合っていたが、男が視線を切って口を開けた。 これ、と言って指さしたのはゼイルの胸にある核だ。 この男が黒幕という事だろうか。 彼は、ゼイルに向かって手をかざした。




―――――ズ……ズアアァァァ!


 ゼイルの胸の核が蠢き、男の手に吸収されるように吸い込まれていく。 続いて、部屋にあった瓶入りの核も彼に向かって飛んでいく。 その際に瓶が割れ土埃を舞い上げたので、私は思わず目を瞑ってしまった。




「それでは、ごきげんよう」


 暗闇の中、そんな声が聞こえた。 場が落ち着き、目を開けた時には男は消えていた。 なんだったのか、夢でしたと言われれば納得してしまいそうだ。




―――――ザアッ!


 核を抜き取られたゼイルは、黒い灰となって消えていく。 これで証拠は残らない。 人間に核がついていたなどと話しても、信じる人は居ないだろう。 回収の目的は、証拠の隠滅? ここで考えていても仕方がない。 今はまず、ハイアンさん達を助けに行かないと……。




「レティ!」


 キースの声を最後に、私は意識を手放した。  

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