国境の街 デイル 15
―――――パチパチパチパチ
ゼイルが突然、拍手をする。 それは私に向けられたものだった。 彼の顔はニヤけている、嫌味のつもりだろうか。
「小娘の割によくやるな。 どうだ、俺達に協力しないか? お前なら申し分ないだろう」
手を前に出しながら、そんな事を言ってくる。 申し分ない、つまり誰かに認められる必要があるという事だ。 ライツ……とは考えづらい。 誰か命令している誰かがいるという事?
「光栄ね。 でも遠慮するわ、もう命令を聞くのはまっぴらよ」
「そうか? すぐに考えが変わると思うが……なっ!!」
会話を終えると同時に、ゼイルはまた床を砕いて瓦礫を飛ばしてきた。 二度、同じ手を食らうつもりはない。 落ち着いて魔法を発動させる。
「Act.3 反射」
私目掛けて飛んできた瓦礫を風で受け止め、そのままゼイルに跳ね返す。 彼は飛び退いて避けようとするが、間に合わない。 腕をクロスして瓦礫を防御する姿勢をとった。
「ちっ」
ゼイルは腕をクロスしたまま、私の方を見据えている。 相変わらず、丈夫な体だ。 あたった瓦礫が砕けている。 そこに瓦礫に紛れて背後をとったキースが背中を切りつけた。
「くそっ!」
剣はゼイルの背中を薄く切ったが、すぐに刃は弾かれた。 彼は悪態をつきながら横に飛び退く。 あの圧倒的な丈夫さは、常に効果を発揮しているわけではないようだ。 証拠にキースの不意の一撃はダメージが入り、それにゼイルが気づいた途端に刃が通らなくなった。
なら、ゼイルが意識できないほど連続で魔法を唱えてやればいい。 次に使う魔法を頭でイメージして、一瞬杖に目を落とすと、突然キースの大声が部屋に響いた。
『レティ!』
ハッとして前を見る。 ゼイルが腕で床を砕いた時と同じように両足で床を砕き、私の方に急接近してきていた。 あわてて、魔法を唱える。 そんな事もできたのか!
「……! Wait.3 球体!」
咄嗟に唱えた魔法で、風の球体が私を包む。 そこにゼイルの拳が打ち込まれた。
―――――ズッ……!
ゼイルの拳は風の球体にめり込み、私ごと壁に吹き飛ばされた。 球体がクッションになり、私が直接壁に当たることはなかった。 しかし、衝撃に少し視界が揺れる。
「うっ……」
魔法をといて地面に降りるが、ふらりと床に倒れ込んでしまった。 ただのパンチでとんだ威力だ。 本当にあれは人間何だろうか……。
「レティ!」
「おっと、次はお前だ」
キースがこちらに駆けてこようとするが、ゼイルはそれを阻む。 そのまま二人は激しい攻防を繰り広げるが、ゼイルの方は全く刃が通る様子がない。 やはり、意識が向いていると全て防がれてしまう。
「なに……、しているのよ!」
自分を奮い立たせ、立ち上がる。 すぐ近くでは、ハイアンさん達が私を心配そうな目で見ている。 彼らも巻き込まれない内に、早く部屋から出さなくては。
ゼイルの方を見据える。 彼らが戦っている足元には、水が広がっていた。 さっき、私が使った魔法が飛散したものだ。 ……良いことを考えついた。 キースに当たらないように、私は集中して杖を構える。
「Act.2 氷結!」
丁度、ゼイルが拳を振り切りキースが飛び退いた所で魔法を発動させる。 上手くいった! ゼイルは足元が凍り、一瞬体制を崩す。
「ちっ……。 ぬっ!」
ゼイルの首辺りから、甲高い音が鳴り響いた。 一瞬の隙を逃さず、キースが首を狙って剣を振り抜いたからだ。 しかし、それにも反応したゼイルは体を硬化させて刃を受け止めた。 ……それにしても、今のは完全に首を飛ばす気だった。 そんな事をされたら私は卒倒してしまいそうだ。 それほど、私を壁に飛ばしたのが頭にきているみたい。 何にせよ、そこに集中している今がチャンスだ!
「Act.1 爆裂矢!」
「ぐ……おっ!」
放たれた炎の矢は、ゼイルにあたったと同時に爆発し彼を壁際まで吹き飛ばした。 今のうちにハイアンさん達を部屋から逃がそう!
「ハイアンさん! ラズさんと一緒に外へ!」
「ああ!」
ハイアンさん達は、階段側に走る。 私とキースは、ゼイルが飛んでいった壁と彼らを阻むように陣取る。 煙が上がっていてよく確認できないが完全な不意打ちだったはずだ。 少しはダメージが入っているはず。
「……ぐっ」
煙の向こうで、ゼイルのうめき声が聞こえる。 私達は武器を構えて、身構える。 また、何か飛ばしてこないとも限らない。 背後では、ハイアンさん達が階段の方へ姿を消していった。 これで、心配要素も消えた。 畳み掛けよう。
「はぁ……。 やるじゃねぇか」
崩れた瓦礫をかき分けながらゼイルが出てきた。その体は、あちこち焼け焦げていて傷だらけだ。 この調子で、不意をついて魔法で攻撃すればダメージは入りそう。
「まぁいい……。 鉱山にはライツと兵が居るはずだ。 誰も逃げられやしないさ」
ハイアンさん達が去った階段の方を見て、ゼイルは言った。 まずい、最初から気づかれていた? ラズさんを抱えての戦闘は無理だ。 私達も早くゼイルを倒して助けに向かわなければ。
「……ったく。 本気を出すとするか」
ゼイルがぼろぼろになった上着を破り捨てた。 まだ本気じゃなかったのね。 私達は一杯一杯だって……言うのに……。
「……」
周りがゆっくり動くような感覚に見舞われた。 それは、ゼイルの体の中心にある赤い核を見てからだ。 その核は恐らく魔物にあるものと同じだと思う。 それは脈をうち、まるで新たな心臓のように胎動している。
―――――ドクン
自分の鼓動がやけに大きく聞こえる。 あれはなんだろう? 人間に魔物の核を組み込む、ここで行われていた実験だろうか。 魔法を弾く力は、あの核から? 他に何人犠牲にしたのか? 誰が思いついた? 色々と考えが浮かぶが、まずはゼイルをなんとかしよう……。
―――――キィィィィィン……
「はぁぁぁぁ……。 ……はっはっはっはっは! もう手加減は……できねえぞっ!」
言い終わる瞬間に、ゼイルは此方に向かって衝撃波のようなものを飛ばしてくる。 ゼイルの体の核が高い音を立て、淡く輝き出している。 本気を出すそうだ。 なら、こちらも容赦はしない。 危険は排除する、安全のために。 私は目を瞑って俯いた。
「どうした? 怖いのかい、お嬢ちゃん。 さっさと終わらせてやるから……」
ゼイルの言葉は、そこで止まった。 私は閉じていた目を開き、ゆっくりと彼を見つめる。 ゼイルの顔には驚愕と恐怖、それに動揺が写り込んでいるのが見えた。 今の私はとても気分がいい。 思わずニコリと微笑んでしまうほどに。




