国境の街 デイル 14
「私は女神じゃないわ、レティよ。 お婆さんから話は聞いているわ、貴方ラズさんでしょう?」
「レティ様! はい、自分はラズと言います。 ……婆ちゃんは無事なんですか!?」
忙しない人だ。 いや、それほど切羽詰まっているのだろう。 こんな所に投獄されて、気が触れないだけでも良いほうだ。
「大丈夫よ、家に来た男たちは追い返したわ。 でも、すぐ次が来るかもしれない。 早く帰って安心させてあげましょう」
「はい! ……っ!」
元気よく返事をするが、先程まで傷だらけだったのだ。 よろけて倒れそうになってしまった。 近くに居たハイアンさんが彼を支える。
「……私が不甲斐ないばかりに、君たちにはつらい思いをさせてしまった。 申し訳ない」
ハイアンさんは頭を下げた。 執政者として、そこに住む者を守れなかったことに責任を感じているのだろう。 その気持ちが、ボロボロの民を前にして吹き出してきたようだ。 謝られたラズさんは慌てている。
「いいえ! ハイアン様は、ご立派な領主様です。 皆が安心して暮らせていたのは貴方様のおかげです。 病に倒れたとライツから聞いた時は、皆あいつを疑いました。 こうして無事なお姿を見れて、安心しています」
「そうか……ありがとう」
どうやら、ハイアンさんは人望が厚いようだ。 これならば、ライツ達を追い出せばすぐにでも街は持ち直すだろう。 その様子を微笑ましく見ていると、入口の方から音が聞こえた。
―――――パチパチパチパチ
「これはこれは、微笑ましい限りですな」
ばっと、私とキースは戦闘態勢に入る。 そこに居たのはゼイルだ。 始めてみたが、大柄の男だ。 笑顔をしているが威圧感がある。 特に装備を持つこともなく、ただ佇んで拍手をしていた。
「ハイアン様、お迎えに上がりましたぞ。 さぁ、民が心配しております。 屋敷に戻りましょう」
「巫山戯るな。 お前達は終わりだ、すぐに国から調査が来る」
ゼイルは両手を広げ、迎える姿勢をとった。 その様子からは余裕が伺える。 私達は警戒を怠ること無く、ジリジリと後ろに下がった。
「ハイアンさん、ラズさんを連れて下がっていて。 あいつを入り口から引き剥がすわ。 そうしたら、あの小屋に向かって逃げて」
「そうだな、あいつは俺達がなんとかする」
私とキースはハイアンさんに支持をする。 必要なものは揃った、ラズさんもいる。 ここは無理をするところじゃない、一旦引いて態勢を整えよう。 まずはゼイルを無力化しなければ。
「だが……。 ……わかった」
何か言いたそうだったが、ラズさんを見て考え直したようだ。 彼らは後ろに下がって様子をうかがっている。 その間、ゼイルは動くことはなかった。 腕を組んで笑っている。
「お前らか? 余計なことを吹き込んだのは。 ……全く、余計なことをしてくれる。 だが、女の方は良い実験台になりそうだな」
ゼイルは私を見て、そんな事を言う。 魔物の実験だろうか、まさか人間に使うつもりだった? そんな事はさせない、ここで食い止めてやる。
―――――ダンッ!
実験台、と言ったあたりで険しい顔になったキースが飛び出した。 まっすぐゼイルに突っ込んでいき、その腕に剣を振り切る。 しかし、ゼイルは余裕の笑みを崩すこと無く腕を前に出し防御の姿勢をとった。
―――――ガキンッ!
ゼイルの腕に剣が触れた途端、金属同士がぶつかったような音が上がる。 キースはギリギリと剣を押し込むが、その腕は切れる様子がない。 生身で剣を止めた? あり得ない。
「オラァ!」
「ッ!」
笑みを浮かべていたゼイルは、剣ごと巻き込むように、腕を振り回す。 瞬時に後ろに飛んで下がったキースは、私の横に着地した。
「どういう事?」
「まるで金属だ。 体に何か仕込んでいるというよりかは、皮膚そのものが硬いような感触だった」
ゼイルの方から顔をそらさず、キースに聞いた。 だとすると考えられるのは、やはり何かの魔法だろうか。 次は私が試してみよう。
「Act.2 衝撃波!」
私の目の前に集まった水の塊が、一気にゼイルめがけて飛んでいく。 彼は腕をおろしたまま、腰のあたりで拳を握る。
―――――キュンッ!
飛んでいった水の塊は、ゼイルに当たる瞬間に何かに遮られるように霧散した。 辺りには崩壊した水が飛散する。 魔法を弾いた? これが、ハイアンさんの言っていた事か。
「終わりか? 今度はこっちから行くぞ」
ゼイルは腕を振りかざし、その態勢のまま制止した。 何をするつもりだ、拳で戦うにはまだ遠い。 私とキースはじっと身構える。
「ぜあっ!」
声とともにゼイルは地面を拳で打ち砕く。 圧倒的な力で撃ち抜かれた床は瓦礫を巻き上げ、私達に襲いかかる。
「Act.3 盾!」
咄嗟に展開した風の盾の後ろに私とキースは隠れる。 飛んできた瓦礫が盾に当たって逸れ、地面にめり込む。 なんて威力だ、腕力ではない。 後ろを確かめるが、ハイアンさん達は無事だ。 端の方に避難している。
「よそ見は禁物だぜ」
少し目を話した瞬間、ゼイルが私の目の前まで接近してきていた。 そのまま風の盾で、打ち込まれた腕を防ぐ。
―――――ギ……ギギギギギ……
あまり信じたくはないが、腕に私の風の盾が押されている。 これもさっきの魔法を打ち消した力と同じもの? だとしたら、長くは持ちそうにない。
「キース!」
「ああ!」
私が言い切る前に、キースがゼイルに切り込む。 しかし、風の盾と拮抗している腕とは逆の左腕で受け止められてしまう。 そろそろ魔法も限界だ、私はキースに目配せをする。
―――――ゴアッ!
盾が崩壊すると同時に、私とキースは飛んで下がった。 腕を振り切ったゼイルは、笑みを浮かべてこちらを見ている。 これは一筋縄では行きそうもない。 私は小さく息を吐いて彼を見据えた。




