国境の街 デイル 11
―――――チチチチチ
小屋の窓から光が指す。 カーテンは所々破れていて、光を完全に遮ることが出来なかったようだ。 丁度、私の顔にあたって眩しい。 しかし、もう起きてしまおう。 朝食も作ってあげたい。
「ん……。 んん!」
ソファーから体を起こし、背伸びをする。 体が痛むが、そこまでではない。 少しの間でも野宿で慣れたということだろうか。
「起きたか」
その声に私は振り向いた。 すると、キースが椅子に座り本を読んでいるのが目に入る。 彼はいつも私より早く起きている。 ちゃんと、休んでいるのだろうか? ……というより、本なんて何処にあったの? いつも持ち歩いているのかしら。
「ええ。 おはよう、キース」
「おはよう」
ベッドを見ると、ハイアンさんが眠っている。 まだ起こさなくて良いだろう、朝食ができたら起こす事にする。
「朝食を作るわ。 下を見てくるわね」
「ああ、すまないな」
ソファーから立ち上がり、昨日お肉を見つけた地下に向かう。 確かまだ、他にも箱があったはずだ。 何かあると良いのだけれど……。
―――――ギッ ギッ
下るたびに梯子から軋む音がする。 目的の箱が置いてあるのは、奥の方だ。 足元に気をつけながら慎重に進む。
「これは……。 そうね……」
ガチャリと鍵を開け、箱を覗く。 中にはパンが、箱一杯に詰められていた。 頭の中でレシピを考え、他の箱も中身を確認する。
「あった」
別の箱から目的のものを発見した、果物だ。 今日は甘いものにしよう。 箱を一つずつ抱え、降りてきた梯子を登る。
「ほら、持ち上げるぞ」
「あら、ありがとう」
上から声がかかった、キースだ。 彼は箱を渡しから受け取り、持ち上げてくれた。 もう一つの箱も地下から運び出し、私は調理を開始した。
箱の一つからパンを取り出し、掌の上に置く。 それに杖を向けて魔法を唱える。
「Act.3 浮遊」
「Act.3 切断」
浮遊の魔法で浮いたパンを、切断の魔法で均等になるように切る。 そのままパンは浮かべたままにして次の行程に移る。
「Act.1 火」
パンのすぐ近くに火を配置する。 焦げないように遠目におき、パンを回転させながら焼き上げていく。 sそして果物を手に持ち、パンと同じように魔法を唱えた。
「Act.3 浮遊」
「Act.3 切断」
果物は小さくスライスされ、宙に浮かぶ。 パンがもう焼き上がっただろう。 そちらの火を消して、パンの上に切断した果物を乗せる。 そして、地下から持ってきた砂糖を上に配置した。
「Act.3 浮遊」
「Act.1 火」
パンの上で砂糖は熱せられ、液状になっていく。 頃合いを見て溶けた砂糖を薄く伸ばし、パンの上の果物に被せる。
「Act.3 冷風」
溶けた砂糖に冷風を吹きかけ、固める。 お皿に乗せて完成、フルーツトーストだ。 熱した砂糖の甘い匂いが小屋に広がる。 ベッドの方でハイアンさんが身じろぎをしているのが見えた。 匂いで起きたか、調理の音で起きたか。 何れにしても手間が省けた。
「……うん? もう朝か……」
ハイアンさんは上半身を起こして呟く。 まだ眠そうだ、それも仕方がない。 ずっと、牢屋に入れられてベッドの寝たのも久しぶりだろう。
「おはよう、ハイアンさん」
「あ、ああ。 おはよう」
彼はまだ、寝ぼけているようだ。 起きがけに私を見て動揺していた。 そんな彼に、作ったばかりの朝食を手渡す。
「はい、これ朝ごはんよ。 キースも」
「おお、ありがとう」
「すまない」
二人に皿を渡し、自分の分を持ってソファーに戻る。 一口食べるとサクッとした食感の後に果実の甘さが広がる。 うん、ちゃんと出来てる。 ……切って焼いただけだが。
ハイアンさんは気に入ってくれたようだ、夢中で齧りついている。 というより、長い牢屋生活のせいかもしれない。 キースは無表情で食べている、面白みのないやつめ……。
「……うまいぞ」
「そう? ふふっ、ありがとう」
私の視線に気づいたのか、キースは感想を述べてくる。 その慣れない様子が面白く、私は思わず笑ってしまった。 しかし、彼はすぐに無表情に戻り食事を再開した。
すぐに食事を終え、少し休憩を取る。 昨日と同じように井戸から水を汲み、私が魔法で清めた。 今日はキースが持ってきてくれた。 あれは意外と重いから助かる。
「それじゃあ、昨日と同じルートで侵入するのね?」
「ああ、それが良い。 ハイアン、案内は頼めるか?」
私達は、今日の作戦会議を始める。 目指すのはライツの執務室、そこにある報告書だ。 昨日と同じルートで侵入し、牢から先の案内はハイアンさんにお願いしたい。
「大丈夫だよ、通路からは私が案内しよう。 警備兵はどうするんだ?」
「私が魔法でなんとかするわ」
よし、決まりだ。 警備兵は、魔法で無力化しよう。 あと、気をつけるのはゼイルだ。 昨日も屋敷で確認できなかったし、どこにいるのかわからない。
「それと、ゼイルがいつもいる場所はわかる?」
「ゼイルの部屋は一階だ。 だが、ライツの執務室に忍び込んだ時、あいつは音もなく私の前に現れた。 もしかすると、執務室に繋がる道でもあるのかもしれない。 警戒するべきだろう」
なるほど、隠し通路か。 可能性はありえる、それか魔法でも使えるのだろうか。 ハイアンさんの魔法を弾いたというのが防護系の魔法なら、他にも使える可能性は高い。
「そうね。 それと、ゼイル自身が強力な魔法を使える可能性も頭に入れておきましょう」
「わかった」
「確かに、その可能性もある。 覚えておこう」
そのままいくつか話し合い、ある程度の方針を決めた。 後は決行するだけ。 準備を整え小屋の外に出る。 私達は顔を見合わせて頷く。
この街に来た時はここまで大事になるとは思っていなかった。 でも、乗りかかった船だ。 この街を解放して、ライツの圧政から救ってあげよう。 私は一度目を閉じ、気持ちを落ち着かせるように息を吐いた。




