国境の街 デイル 10
「そのゼイルって男がライツに何か吹き込んだのかしら? 何か二人に利点があって、組んだってことでしょう?」
「そう考えるのが普通だな。 しかし、ライツは街の領主を狙っているとして、ゼイルの目的がわからない」
キースも同じことを考えていたようだ。 ライツが街を仕切るようになると、ゼイルは何が出来るようになる? 金を受け取る? 鉱山を専有する? そんな事で街を乗っ取るなんて大事を起こすだろうか。
「ゼイルに関しては、私もよくわからない。 だが、ライツの不正に関しては報告書を盗み出し転送の魔道具で国に報告できれば……。 あいつを失脚させる事ができる」
「転送の魔道具?」
聞き慣れない言葉に私は聞き返した。 転送……という事は、報告書を転送できるということ? そんな魔道具は聞いたことがない。
「ああ。 領主しか知らないが、各街に一つずつ配備されてる。 転送できる物は、せいぜい紙くらいだがとても貴重なものだ。 街の正式な領主の刻印がないと動かすことは出来ない。 主に戦争の指示などで使われるものだ」
「へぇ……。 そんなものが……」
確かに紙一枚でも転送できれば、戦争時には大いに役に立つだろう。 馬を駆けさせなくても指示が飛ばせるのだ。 それを使えばライツの方は解決しそうだ。
このままハイアンさんを街から静かに逃し、他の街まで連れて行くという手もある。 しかし、それでは街の人を見捨てることになってしまう。 私もそんな事はしたくないし、彼も同じ考えで口に出さないのだろう。
「私の居た牢屋から伸びる道が、デイルの領主屋敷まで繋がっている。 そこからなんとか侵入したいが……」
あの道か、なるほど。 廃鉱側の入り口に人の入った形跡がなかったのは、屋敷側の道を使って出入りしていたからというわけだ。
「任せて。 それなら、私達で行くわ」
私はキースに目配せをし、彼も頷く。 牢屋にかけた幻影は暫くは持つはず、また同じように侵入すればいい。 もし幻影がバレたとしても、ハイアンさんを探しに外に出るはずだ。 まさか、もう一度来るとは考えないだろう。 その隙を付いて侵入できるはず。
「私も連れて行ってくれ、執務室への案内が必要だろう」
ハイアンさんは身を乗り上げ、同行を提案してくる。 確かに、案内は必要だが今の彼の状態では無理だろう。 ……とりあえず今日は休んで、万全な状態で明日決行することにしよう。
「今の貴方の状態では無理でしょう? 今日はゆっくり休んで、明日廃鉱から侵入しましょう」
「そうだな、焦ってもまた捕まるだけだ」
私とキースの言葉にハイアンさんは一度落ち着き、息を吐いた。 突如回ってきた絶好のチャンスだ。 その気持ちはわかるが、急いては事を仕損じる。
「……ふぅ。 そうだな、焦っていたようだ。 すまない」
「まずは体力を取り戻すことを優先して休むといいわ」
大人しくなったハイアンさんに、杖を構える。 一日で回復できる体力など、たかが知れているだろう。 少しでも回復力を高める為に、治癒の魔法をかけることにした。
「Act.2 治癒力強化」
ハイアンさんの体が薄く輝く。 これで、普通に寝て休むよりかは体力の回復が早くなるはずだ。 彼は不思議そうに自分の体を見回している。
「これで、少しは体力の回復が早まるはずよ。 あとは、ちゃんと寝て休んでね」
「……ああ。 確かに、楽になった気がするよ。 ありがとう」
ハイアンさんはにこやかに感謝をしてきた。 そんなにすぐに効果は出ないはずだが、余計なことは言わないでおこう。 気持ちが病を治すという事例もあるのだ。 あながち嘘ではないかもしれない。
「そうだ、レティさん……だったか。 今日はもう休むんだろう? ここにはベッドは一つしかない。 使ってくれ、私はその辺りでも大丈夫だ」
「駄目よ、貴方は病人でしょう? 明日までに体力を回復しないといけないんだから、しっかり休んで」
ハイアンさんはベッドから立ち上がろうとする。 隣に居たキースがそれを抑え、私が説明する。 彼にはしっかり休んでもらわないと、明日は戦闘になる可能性もある。
「そうか……。 すまない」
「いいえ、大丈夫。 一応旅人なんだから、野宿も経験済みよ」
しばらく、抑えるキースと拮抗していたが諦めてベッドに腰を落とした。 さて、部屋にあるのはソファーと椅子と……。 ああ言ったけれど、明日は体が痛くなりそう。
「レティ。 お前はソファーで寝るんだ、俺は椅子でいい」
「いいの?」
問題ない、とキースは毛布を取りに行ってしまった。 今日は彼の言葉に甘えるとしよう。 流石にまだ椅子で寝れるほど、旅に慣れてはいない。
「貴方は平気なの?」
「ああ、見張りの時は椅子で休んでいる。 大丈夫だ」
キースが持ってきた毛布を受け取りながら聞いたが、彼はそんな答えを返してくる。 明日の朝、何か作ってあげよう。 せめてものお礼だ。
「キース君。 君にも迷惑をかけるね、申し訳ない」
「気にするな」
ベッドからハイアンさんがキースに向かって頭を下げる。 キースは気にしていないというふうに、手を降って答えた。そうして私達は、それぞれ横になる。
「それじゃあ、お休みなさい」
「ああ」
「ゆっくり休ませて貰うよ、ありがとう」
そう言って、私は毛布をかぶる。 ハイアンさんは結局最後まで謝り倒しだった。 明日は朝食を済ませたら、領主屋敷に忍び込む予定だ。 ゼイルの事など、不安な要素はある。 だが、出来るだけ早く街の人を開放してあげたい。 そんな事を考えている内に、私は眠りに落ちてしまった。




