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国境の街 デイル 9


 私はその箱を脇に抱え、はしごを登る。 そして小屋の机に、その箱をおいた。 中から果物を取り出し、お皿を取り出して乗せ、ハイアンさんに渡す。




「はい、これでも食べて力をつけて。 お肉も見つけたから、今調理するわね」


「ありがとう。 ……調理? この小屋には調理場はないはずだが……」


 渡した果物を片手に、ハイアンさんは困惑した表情でこちらを見てくる。 このお肉は乾燥させて、干し肉に加工するようの物なのだろう。 私はそんな彼を尻目に、棚から大きなお皿を取り出す。 そして下で見つけた塩を肉に擦り込む。




「Act.3 浮遊」


「Act.3 回転」


「Act.1 火」


 今までにない魔法の大盤振る舞いだ。 風の魔法でお肉を皿の上に留め、回転させる。 そして下に発生させた火で肉を炙り始めた。




「……なんでもありだな」


「……」


 ハイアンさんは口が空いたまま、一言そう漏らした。 キースは呆れた顔をしているが、今は食事は必要だ。 特に何も言ってこなかった。


 しばらく炙り、いい匂いが漂ってくる。 そろそろいいだろう。 そのままだと串が熱くて持てないので、別に用意した皿に乗せる。 そして完成したお肉をハイアンさんの方に持っていった。




―――――ゴクッ


 つばを飲む音が聞こえてくる。 無理もない、焼いた肉など久しぶりだろう。 視線がお肉に集中してしまっているハイアンさんに、お皿を手渡した。




「ふふ。 はい、どうぞ。 串は熱いから持たないでね。 火傷するわ」


 そう言ってハイアンさんに食器を手渡す。 それを受け取った彼は、一心不乱に肉を食べ始めた。 そんな様子を眺めながら、私は元の場所に戻った。




「キースの分も今作るから待っててね」


「ああ、なにか手伝うことはあるか?」


「そうね、それなら……」


 私達もここで食事を済ませることにしよう。 ハイアンさんを、ここに置いていくわけにも行かない。 話を聞くにしても、少し落ち着いてからのほうがいいだろう。 しばし、ここで休憩を取ることにした。




―――――チリ……チリ……


 肉を焼いていた火の魔法も消し、大きな更には焦げくずが残っている。 食事を済ませ、ハイアンさんはすっかり落ち着いた。 今はベッドに乗る彼を囲むように、私とキースが椅子に座っている。




「何から何まで、世話になってしまった。 私はなんと感謝をすればいいか……」


「いいのよ」


 深々と体を曲げる。 ウイユの村で散々聞いた言葉だ。 私は苦笑いをしながら別にいいと言うが、彼は頭を下げることをやめる気配がない。




「それじゃあ、そろそろ話を聞かせてもらってもいいかしら?」


「ああ。 ライツは、ここの正式な領主じゃないんだろう?」


 私とキースは彼に質問をする。 この街に何があったのか。 特にハイアンさんが病にかかり、代わりにライツが領主となった辺りを聞きたい。




「そうだな。 まずライツの事から話そう」


 ハイアンさんは息を吐き、説明をする姿勢になった。 私達も姿勢を整え、聞く態勢になる。




「ライツは、元々私の補佐をする立場だった。 確かに野心はあったが、分をわきまえ目立った行動をすることは無かった」


 目立った行動をすることはない。 今のライツからは考えられない事だ。 やはり、何かの干渉があり抑えていた野心が爆発したという事だろうか。




「あいつが妙な行動を起こし始めたのは、自身の補佐を新しく雇ったという報告を受けてからだ。 その補佐は、名前をゼイルと名乗っていた。 最初にあった時は、誠実で礼儀正しい印象を受けた。 現にゼイルの補佐で、ライツは今まで以上に街を発展させた。 鉱山から取れた鉱石で作った貴金属が、貴族に爆発的に売れだしたのも、あいつの功績だ」


 ゼイル。 その人物が黒幕……? 最初は印象よく近づき、懐に入った所で裏切る。 さも、悪党が考えそうな事だ。 しかし、ハイアンさんもあからさまな態度の変化に怪しさを覚えなかったのだろうか?




「だが、俺も馬鹿ではない。 功績に対する評価は与えたが、突然の豹変に怪しさを覚えた私は、必要以上にライツに権力を握らせるのは避けたんだ」


 なるほど、それは英断だろう。 突然権力を得たライツが、何をしでかすかわからない。 もう少し本質を見極め、彼が善人との確信を持ってから、ゆっくりと任せていくのが良い。




「だが、ライツはそれが煩わしかったのだろう。 ついに実力行使に出てきた」


 そこまで言って、ハイアンさんは一度息をつく。 そして一度水を含み、思い出すように続きを話し始めた。




「事は、私が鉱山の報告書に目を通したときだ。 その頃、私はライツにある程度の信頼を置いていた。 鉱山の事については彼に一任していたほどだ。 しかし、ライツが不在の時に私は代わりに報告を受けた。 その報告書に引っかかりを覚えた。 鉱山で働く人数に対して、支出の金額が明らかに低い。 物資での報酬を要求された為などと、色々書かれていた。 しかし、私は実際に自分で確認することにした」


 ライツはハイアンさんの信頼を勝ち取ることに成功していた。 そのまま何もなければ、正式にライツは権力を握っていたかもしれない。 あいつが街を治めるなんて、考えただけでも悪夢だ。 今は病に倒れたハイアンさんの代理という扱いだが、この街の現状である。




「ライツの執務室に忍び込み、今までの鉱山の報告書を確認した。 すると、そこには労働者に対する賃金の不払いどころか、街から不正に労働者を集め強引に鉱山を運営し、大量に貴金属を生産し売りさばいていること。 更には、売上の一部を懐に治めていることが確認できた。 私は、その報告書を国へ報告しようとした」


 しようとした、という事は阻止されたのだろう。 そして牢獄へ閉じ込められ、公には病で伏せったことにされたというわけか。




「部屋を出ようとすると、ゼイルが立ち塞がっていた。 彼は笑っていたんだ。 即座にゼイルもライツ側だと感じた私は、魔法で応戦した。 だが、私の魔法は尽くゼイルに弾かれ全くダメージを与えることが出来なかった。 私も一応貴族だ、貴女程ではないが多少は魔法の心得がある。 それでも、生身で魔法を弾くというのは初めての経験だった」


 生身で魔法を弾く? そんなのは聞いたことがない。 事前に防護系の魔法を使って居たのだろうか。 とにかく、ゼイルという男は警戒しておいたほうが良いだろう。




「後は、君たちが見たとおりだ。 私は牢獄に囚われ、病に伏したことに。 しかし、正式に街の領主になって変わるには、現領主の私の魔法による刻印が必要だ。 刻印無く私が死んだ場合は、後継者無しとして国から新たな領主が送り込まれてくる。 それはライツにとって都合が悪かったのだろう。 何度も私に刻印を迫ったが、それを突っぱねた。 代わりに私は、死なない程度に拷問を受け続けてきたんだ」


 ハイアンさんは話を締めた。 やはり、そのゼイルという男がライツに余計な知識を吹き込んだのだろうか。 二人が手を組み、ライツは街の領主の立場を得るとして、ゼイルには何の利点があるのだろう。


  






 


 

 

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