国境の街 デイル 8
ハイアンさんを連れて廃鉱の外へ出る。 彼は壁に手をついて、息を吐いた。 やはり、まだ本調子ではないようだ。 移動補助の魔法で行くのは辛いかもしれない。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。 すまない、少し休ませてくれ」
ハイアンさんは大きく息を吐いて、その場に座り込んだ。 さて、宿屋に戻るのは遠いし危険だ。 お婆さんのところに行くわけにも行かないし……。
「どこか落ち着ける場所があると良いんだけれど……。 私達の泊まってる宿屋は安全とは言えないし……」
「……それなら、山を少し進んだ所に小屋がある。 そこなら人が来ることは少ない」
山小屋か、それなら街を通ることもない。 弱っているハイアンさんを連れて移動しても、比較的安全だろう。
「そこに向かおう。 案内してくれるか?」
「ああ、こっちだっ……!」
キースも同意し、そこに向かうことにした。 場所を知っているハイアンさんに案内して貰おう。 立ち上がる時に少しよろけたが、キースが彼を支える。 あまり早くは歩けなさそうだ。
「大丈夫?」
「ああ……。 はは、長いこと牢屋で座っていたからな。 体がなまってしまったようだ」
ハイアンさんは笑う。 冗談を言うくらいには平気そうだが、小屋についたらゆっくり休んで貰うことにしよう。 私達は廃鉱から山の中へと足を踏み入れた。
―――――ザッ ザッ ザッ
ハイアンさんの案内で山の中を進んでいく。 暗いが、気付かれないように灯は足元を照らすだけだ。 夜の森も蔦が邪魔で歩きづらかったが、山の中も傾斜が激しくデコボコで進みづらい。
「はっ、はっ、はっ……」
ハイアンさんは見るからに辛そうだ。 これは少し休憩を挟んだほうがいいだろうか……。 私はキースに目配せをする。
「ここで少し休んでいくか」
「……いや、大丈夫だ。 ……小屋はもう少しだ、そこまでは行ける」
私の意思を汲み取ったキースがハイアンさんに休憩を持ちかけるが、彼は汗を拭って進む意志を示した。 根性のある人だ。 本当に駄目そうなら、止めよう。 彼の言う通り、そのまま休憩すること無く山道を進んだ。
山を登り、次は下る。 すると、山の間の谷部分に建物が建っているのが見えてきた。 あれが、目的の山小屋だろうか。
「……あれだ。 あれが、山小屋だ」
ハイアンさんは、その建物を指差す。 もう少しだ、キースは彼を支えながら山小屋を目指す。 私は万が一に備えて、杖を構えて辺りを警戒していた。
山小屋についたが、付近の人の気配はない。 中に入ろう、ハイアンさんを休ませないと。 よくみると、随分と寂れた小屋のようだ。 使われなくなって久しいのだろう。 これなら、人が来る可能性は少なそうだ。
―――――ギィィィィ
私が扉を開けると、軋んだ音を出した。 鍵もかかって居ないようだ。 何の施設だろう? 私は中を覗き、何もないことを確認してキース達を手招きした。
小屋の中は、ホコリまみれだ。 あるのは机と椅子、それにベッド。 あとは……小さなランタンくらいだ。 こんな所に、ハイアンさんを寝かせるわけにも行かない。 まずは綺麗にするとしよう。
「Act.3 清掃」
私が起こした魔法の風が渦を巻いて室内のホコリやゴミを巻き上げていく。 それらを一箇所に集めた後、窓から外に放り出した。 ……とりあえずはこれでいいだろう。
「さぁ、ハイアンさん。 ここに横になって?」
「あ、ああ。 ありがとう」
ハイアンさんは一々驚いてくれるから新鮮だ。 キースは最初こそ驚いていたが、今はもう私がどんな魔法を使っても驚くことはない。 ……屋敷に来たキースに最初に魔法を使った時の顔。 あれは今でも忘れられない。
「井戸を見てくるわ」
「ああ、気をつけろよ」
私はすぐ外にある井戸を確かめに、小屋の外へ出た。 そこから下を眺めて、目をすぼめる。 ……まだ水はあるみたいね。 屋敷に居た頃は魔法道具で水を引いていたが、こんな小屋にあるとは思えない。 直ぐ側にある桶を下に落とし、水を汲み上げる。 ……うっ、重い。 キースに任せればよかった。
―――――バシャ キリ……キリ……
ゆっくりと井戸から桶を持ち上げる。 上まで来たそれを、一旦地面におろし中を覗く。 ……やはり汚い。 このままじゃ飲めそうもない。
「Act.2 浄化」
桶の水が渦を巻く。 暫くすると、澄んだ透明な水になった。 これでいいだろう、ハイアンさんに持っていってあげよう。 持っていって……。
「……Act.3 軽量」
風が桶を支え、重さを軽減する。 よし、これでいい。 ……横着? 違う、これは体力の節約だ。 ……魔力? 知らないわ。
―――――キィ
扉を開け、棚の前に桶を下ろす。 棚には食器があるが、やはりこれも汚い。 中から三つコップを取り出し、机に置く。
「Act.2 洗浄」
水球が、コップに纏わりつき洗浄する。 以前は体を清めるのに使ったが、食器なんかにも使える。 我ながら、便利な魔法だ。
張り付いていた水球が消え、ピカピカになったコップが現れる。 そのコップに桶から水を汲み、両手に持ってハイアンさん達の方へと持っていった。
「はい、お水よ。 キースも」
「ああ、すまない」
「ありがとう、何から何まで世話になるね」
二人は水を受け取る。 ハイアンさんは、すぐに飲み干してしまった。 よほど喉が渇いていたのだろう。 息をついた彼に私はもう一度声を掛ける。
「お水はまだたくさんあるわ。 持ってくる?」
「……ああ。 すまない、お願いするよ」
ハイアンさんからコップを受け取り、もう一度水を汲みに行く。 あの様子だと、ギリギリの食事しか与えられてないはずだ。 小屋に何かあればいいのだけれど。
もう一度汲んだ水をハイアンさんに渡し、自分のコップにも水を汲む。 そしてそれを口に含みながら、小屋の中を物色した。
「……そこの下に備蓄倉庫がある。 分かりづらいが床に扉があるはずだ」
ウロウロと探し回る私に、ハイアンさんが情報をくれた。 彼が言うところを見ると、分かり辛いが床に小さな取っ手が見える。 私はそれを持ち、上に引っ張り上げた。
―――――ガチャ……
すると、その先には梯子が下に続いていた。 そこから下に降りると、狭いが幾らかの食料が保存されていた。 殆どは、乾燥したもので腐ってしまっている。 奥の方に、小さな箱がいくつか置いてあった。 ……これは確か、保存の魔法が込められた魔道具のはずだ。 前に見たことがある。
「Act.4 解錠」
その箱は鍵がかけられて居た。 なので土の魔法で、鍵を形作り鍵穴を解錠した。 中を確認してみよう。
―――――キッ
箱を開けると、中には鉄串に刺さった生肉がいくつか保存されていた。 別の箱には果物が入っている。 ……これは便利だ。 次の馬車旅には是非とも持って行きたい。




