国境の街 デイル 6
―――――タンッ タタタタ
来た時と同じように屋根を伝って、屋敷の外壁へ飛び移る。 そのまま民家の屋根に移動し、落ち着けそうな場所を探す。 ……あそこに路地がある。 そこで一旦、作戦会議だ。 指を指した私にキースは頷いて返事を返す。
―――――タッ ガサッ
路地の茂みに着地した私は、杖をかまえた。 周りは壁で、狭い道が一つあるだけだが、念には念を押しておく。
「Wait.3 静音の壁」
音を遮る風の壁が私達を囲む。 自分の屋敷を出る時に使ったものとは違い、中で会話ができるようにイメージした。 これで私達の声が外に漏れることはない。 そのまま茂みに身を隠しつつ、キースと話し合うことにした。
「あれが、ライツだったみたいね。 ハイアンさんは鉱山の牢屋だって」
「……ああ。 そのようだ」
さっきのことを思い出したのか、キースの言葉には少し怒りが籠もっている。 しかし、すぐに落ち着きを取り戻すように息を吐く。
「鉱山の牢屋か……。 少し骨が折れるな、何しろ街に鉱山はいくつもある」
確かにそうだ、闇雲に探しても仕方がない。 けれど、他に情報もない。 まずは鉱山に向かってみよう。 ハイアンさんを投獄していることが露見するのは、ライツにとって都合が悪いはず。 それなら、人目のつかない場所に幽閉されているはずだ。
「そうね……。 街の名所の鉱山で、人目につかない場所なんてあるかしら?」
「作業員に見つかる危険性のある採掘場に幽閉されているとは考えづらい。 そうだな……、詰め所で廃鉱となった鉱山を探してみよう」
なるほど、廃鉱なら作業員は入ってこない。 空間もあるし、閉じ込めるのには理想的だ。 なら、まずは鉱山地帯に向かい詰め所を探そう。
「廃鉱ね、確かに可能性は高いわ。 それなら早速、向かいましょう」
「ああ」
―――――タンッ
行き先は決まった。 私達は、先程と同じように民家の屋根に飛び乗る。 そして、そこから鉱山の方向を見渡した。 チラホラと明かりが見えるが、この時間なら人も少ないだろう。
―――――タタタ タンッ
鉱山の方向に向かって、屋根伝いに走る。 暫く進むと、入口が見えてきた。 鉱山地帯は、壁で仕切られている。 門は兵士が警護をしていた。
「飛び越えるわよ」
「わかった」
壁を飛び越え、内側に着地する。 警備の兵士はちらほら見えるが、気をつければ大丈夫だろう。 さて……、詰め所は……。
「レティ。 あれだ」
キースは前の方を指差す。 そこには二階建ての簡単な作りをした建物があり、警備兵が二人ほど中で作業をしていた。 私達は、その建物に近づき屋根に登る。 ここなら魔法を使わないでも声が聞こえそうだ。 耳を澄まして警備兵の会話を聞く事にした。
「おい、俺は帰るぞ。 後は任せた」
「ああ……。 ふぁああ、ちくしょう。 ねみぃな」
「はっ、昨日も同じこと言ってたな」
二人のうち一人は、そのまま建物を去って行った。 好都合だ、そんなに眠いなら眠らせてあげよう。 周りに他の警備が居ないことを確認して、魔法を唱える。
「Act.2 睡眠」
霧が椅子に座って眠そうにしている警備兵に、背後からまとわりつく。 そのまま彼は眠りに落ちた。 それを確認して私は中に降りる。 キースも同じように続いた。
「よし、地図を探そう。 どこかにあるはずだ」
「ええ、わかったわ」
詰め所の中を静かに探し回る。 いくつか引き出しを開けると、鉱山内部の見取り図が多数入っている棚を見つけた。 その中には、鉱山全体の地図もある。
「キース、これ」
「……ああ、これだ。 ここと…ここ。 それとここが使われなくなった鉱山だな」
キースに地図を見せ、私も確認する。 指を指したのは三ヶ所、どれも赤い線で罰印が引いてある。 恐らくこれが廃鉱だろう。
「どれが、当たりかしら?」
「そうだな、こことここは入り口に近すぎる。 まずは、ここから調べるとしよう」
そう言ってキースが指さしたのは、鉱山地帯の一番奥側にある罰印の場所だ。 私達は外を伺い、警備兵が近くに居ないことを確認して再び屋根に飛び乗った。 地図からすると……向こう側だ。
「あっちね。 行きましょう」
「よし、気をつけろ」
鉱山地帯を目的の廃鉱に向かって進む。 ここは建物が少ないので、下を行くことになる。 けれど、明かりも少ない。 魔法もかかっているし、見つかることはないだろう。
そちらに向かって暫く進むと、大きな穴が見えてきた。 あれが廃校になった鉱山だろう。 私達は警戒しながら、そこに近づく。
これだけ暗ければ大丈夫だろうと、幻影の魔法をといた。
消耗は最小限にしなければ。 ここから先は相手の領域だ、戦闘になるかもしれない。
「暗いわね」
「警備の兵士も回って来ていないようだ」
入り口には小さな明かりが一つあるだけで、中に誰かが入った形跡もない。 ライツはハイアンを死なせないために、定期的に食事を届けているはずだ。 あここはハズレだったかしら。
「ハズレかしら?」
「かもしれないな。 だが、一応中を調べてみよう」
とにかく中を調べてみよう、なにか見つかるかもしれない。 このままでは何も見えないので、小さな明かりを点けること事にした。
「Act.1 灯」
小さな火の玉が私の近くに浮かぶ。 あまり大きくなりすぎないように調整し、照らすのはすぐ前だけにした。 キースが剣を取り出して先に進み、私はそれに続く。
―――――ポタッ……ピチョンッ
内部は肌寒く、歩き辛い。 廃鉱と言うだけあって、いたる所が穴凹だらけだ。 明かりを頼りに、少しずつ前へと進む。 ふと、前を進んでいたキースが手で私を制止した。
「静かに……なにか音が聞こえる」
「音……?」
警備の兵士だろうか。 もしここで戦闘になってしまった時のために、私は背後に向かって魔法を唱えた。
「Wait.3 静音の壁」
これで、もしここで戦闘になっても音が外に聞こえることはない。 キースもそれを確認して、音のなる方を慎重に確認した。 私も彼の背後から顔を覗かせる。
―――――『ギチ……ギチギチギチ……』
「ひっ!」
思わず小さく悲鳴が出てしまった。 そこに居たのは、体をの一部に赤い石が埋め込まれた大型のムカデだ。 私達よりも大分大きい。 それは、私の悲鳴に気づいてこちらに向かってきてしまった。
―――――『ギギギギギ!』
「ちっ!」
妙な鳴き声を上げながらムカデがこちらに突進してくる。 キースは剣を構え応戦できるように待機する。
―――――ガギンッ!
キースの剣とムカデの口周りの牙が激突する音がする。 ムカデは牙を剣に合わせたまま体を捻り、鋭い足を差し込もうとした。 ……そうはさせない!
「Act.2 弓矢!」
私から放たれた水の矢は、ムカデの下半身を貫き壁に吹き飛ばす。 キースの剣と拮抗していた上半身も、それに引っ張られて離れていった。
『ギッ!』
吹き飛ばされたムカデは、そのまま壁に貼り付けになる。 まだ自由な上半身が、もがき蠢いている。 キースは剣を構えてムカデに近づく。
―――――ヒュッ! ザンッ!
体の付け根を狙って振り抜いた剣は、見事にムカデの頭を切り落とした。 落ちた頭がまだ動いていたのを確認し、剣を突き刺す。 ……うええ、気持ち悪い。
「ふぅ……」
「大丈夫か?」
大丈夫かと言われれば、大丈夫ではない。 それは体力や魔力が限界という意味ではなく、ムカデが気持ち悪いからだ。 別に虫は平気な方だが、ここまで大きいと話は別だ。 壁に貼り付けになったムカデの下半身が未だにピクピクと動くのを見て、私は辟易した。




