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国境の街 デイル 4


「あたしの息子は、鉱山で働いていてね。 昔は、あの子も定期的に帰ってきては、今日は珍しい鉱脈を見つけた。 少し分けて貰ったんだ、なんて。 私の所に来てくれたりもしたんだ……」


 お婆さんは思い出しながら語り始める。 昔は、という所に引っかかりを覚えた。 それに、鉱石を分けて貰えるなんて今のこの街の様子からは想像が出来ない。 それならもっと、彼らはいい暮らしが出来ているはずだ。




「いつからだったかね……。 この街を納めていたハイアン様が、病に罹ってしまってね。 代わりに、ライツという男が、この街を仕切るようになったんだ」


 この街を元々治めて居たのはハイアンという人らしい。 お婆さんの言いぶりからすると、少なくともハイアンという人が治めていた時は不自由なく暮らして居たのだろう。 だとすれば、代わりに来たというライツという人物が、現状の原因なのだろうか。




「その人が来てから、この街はこの街はこんなに治安が悪くなったの?」


「最初のうちは、特に変わりはなかった。 でも段々と、鉱山で働く者には無理を強いるようになり、ろくに賃金も支払わなくなったのさ」


 なるほど。 でも、そんな事をしていたら暴動が起きそうなものだ。 それに、国王に報告が行けばすぐに粛清されるだろう。 ここまで野放しになっているのは、何か理由がありそうだ。




「他の貴族に報告が行ったりはしなかったのかしら?」


「私達も、行動しようとしたさ。 でもそこで現れたのが、一緒に連れてきたという兵隊さ。 あいつらは門を固め、物資や手紙を検閲し始めた。 都合の悪いものは通さないようにしているんだ」


 あの私兵達か……。 うん? それだと私達のような旅人が入ってきてしまうと、実情を他に漏らされてしまうのではないだろうか? 現に私達はこうして中に入れた。




「荷物や手紙は制限できても、他から来た人はどうしているの? 全員拒むわけにも行かないでしょう?」


「国境や街を通るだけの旅人や商人なんかは、すぐに門へ通して出してしまうのさ。 この街に泊まる場合も見張り付きだね。 裏路地に入ろうとすると、危険だから、治安が悪いからなんて言い訳をして返すんだ。 唯一、あいつらが獲物として見定めた者だけは通す。 そして、何かと理由をつけて出さないのさ」


 つまり、私達は網にかかった獲物というわけか。 確かに、戦闘の経験もなさそうな若い商人二人。 良いカモなのだろう。 ということは、このまま門に向かっても通してくれそうにない。




「逆らったものは、適当な言い訳を付けて鉱山送り。 そこで死ぬまで働くことになる。 あんた達も街から出られなくなったクチだろう? 気をつけな、私の息子も長いこと帰って来ていない。 あたしは、心配で身がよじれそうだよ……」


 ひどいものだ。 後任のライツ一人で、ここまで好き勝手出来るとは思えない。 入れ知恵をした誰かが関わっていそうだ。 ……さっき息子は無事かと叫んでいた。 何か言われたのだろう。 話してくれるだろうか。




「ねえ、お婆さん。 息子さんに何があったの?」


「……あいつらがさっき教えてくれたよ。 息子は、採掘をしている時に落石にあったそうだ。 それで一部が崩れた分、作業が止まってしまって……。 その間に稼げていた分を払えと言いに来た。 落石は息子のせいじゃないだろうに。 無理に掘らせるあいつらが悪いんだよ……。 怪我をしたのに、息子は帰らせて貰えない。 牢に入れられているんだ。 満足に治療もされているのか、わかったもんじゃない」


 そう言い切ってお婆さんは消沈してしまった。 なんとか出来ないものか……。どちらにしても、これを解決しないことには私達も街から出られない。 一旦宿へ戻って考えるとしよう。




「お婆さん、息子さんの名前は? 私が女神様に祈っておくわ。 きっと、願いを叶えてくれるはずよ」


「そうかい? ……そうだね。 あたしには出来る事は少ないが、祈るくらいなら出来る。 息子の名前は、ラズだ。あんた達も、気をつけるんだよ」


 お婆さんから息子さんの名前を聞き出した。 もし出来るなら、助けてあげよう。 今はとにかく、厄介事に巻き込まれる前に宿に戻ろう。




「ああ、婆さん。 信じる者は救われる。 今はゆっくりと休むんだ」


「ええ、ええ。 治療、ありがとうね。 またおいで」


 キースの言う通り、今お婆さんに必要なのは休養だ。 しっかりと休んで、体力を回復して貰いたい。 彼女からの感謝を受け取りつつ、私達は家を出た。




「まずは宿に戻るぞ。 それから考えよう」


「ええ、そうね」


 私達は来た道を戻る。 フードを被って、なるべく目立たないように。 よく周りを見てみると、確かに見張りらしき兵士が多数徘徊している。 犯罪者ではなく、この街の住民を監視しているのだろう。 無事にたどり着いた私達は、部屋に入って肩の力を抜く。




「ん……。 気を使っていたから疲れたわね。 ……それで、どうするの?」


 見張りの兵士に気を配っていたので、普通に歩くより疲れた。 私は体を伸ばしつつ、キースに今後について聞く。 あまり派手に動いても目の敵にされてしまう。 かといって、このまま何もしなくても何れは厄介事に巻き込まれるだろう。 私達は街に入った時点で、既に目をつけられているのだから。




「そうだな……。 とりあえずは前に街を治めていた貴族、ハイアンだったか。 その人物について情報を集めたいところだな」


 ハイアン。 お婆さんの言っていた以前の統治者か……。 確か病に伏していると言っていた。 それならば、領主の屋敷で今も療養しているのだろうか。 ……少し荒っぽいが、いい事を思いついた。




「ねえ、キース?」


「……なんだ」


 私が怪しい笑みを浮かべていたのに気づいたキースは、警戒して身を引く。 そんな彼の様子は放っておいて、私は思いついたことを話した。




「ハイアンって人は、病気で療養中なんでしょう? なら、領主の館に居るはずよね?」


「まぁ、そうだな」


 突然病に伏せた、というのも怪しい。 後任のライツが何かしたのなら、部屋か牢にでも閉じ込められている可能性が高い。 本人に直接あって、話を聞くことができれば上々だ。




「なら、会いに行かない? 私の魔法なら気づかれずに館まで行けるわ。 もし本当に病気なら、治してあげることも出来るし……」


「……。 まぁ、現状は解決の手が無いのも確かだ。 やって見る価値はある」


 決まりだ。 決行は夜中が良いだろう。 魔法で闇に紛れて、館に行くとしよう。 そのための準備をしなければ。




「なら、夜中に行きましょう。 その方が紛れやすいわ」


「わかった。 ……俺は必要な装備を馬車からとってくる。 レティも入念に準備しておけ。 最悪戦う可能性もある」


 キースも私の意見に同意する。 あとは準備を整えて、夜になるのを待つだけ。 窓から山の中腹に見える屋敷を眺める。 あれが、領主の館だ。 これで、少しでも進展すれば良いのだけれど……。



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