国境の街 デイル 3
あらかた荷物を整理した私達は、今後の事について話し合うことにした。 と言っても、私には解決策が見いだせない。
「思ったより、国を出るのには手こずりそうだ。 まずは正規のルートで申請してみよう。 そのまますんなりと街を出れれば良いが……」
まぁ、無理だろう。 ……魔法で脅す? 思わず、そんな考えがよぎってしまう。
「私も行って良いでしょ?」
「……ああ。 だが目立たないように、これを着ていてくれ」
ここに私を残すことに抵抗を覚えたのか、すんなりと許可が降りた。 渡されたのは、フード付きのローブだ。 これを着ろという事だろうか。 逆に目立ちそうな気がする。
「こんなの着ていたら、逆に目立たないかしら?」
「ああ、だから裏通りを通る。 目立って私兵に見つかるよりはましだが、それでも危険なことには変わらない。 『俺から離れるなよ、でしょ?』」
キースの言葉の最後に被せて、少し笑いながら言う。 彼の言う事は分かりやすい。 大丈夫だ、言われなくても離れるつもりはない。
「ふふ。 大丈夫よ、離れない。 いざとなったら私も戦えるわ。 村で証明したでしょう?」
「まぁ……そうだな。 すまない、過保護気味だったな」
守ってくれるのは嬉しい。 キースを信頼もしている。 けれど、ずっと保護対象のままというのは……私的には都合が悪い。
「私は温室育ちのお嬢様から卒業したの。 すぐに貴方の隣で戦えるようになるわ」
「ああ、期待している」
今はこれでいいだろう。 そのうち、本当の意味で隣に立てるようになれるように。 ……さぁ、今は街を出ることに集中しなければ。
「それで、もう出るの?」
「ああ、あまり長くは滞在したくないからな。 試すにしても、早いほうが良いだろう」
それもそうか。 なら、早速向かうとしよう。 私は立ち上がって、キースに返事を返す。
「そうね。 なら、早速向かいましょう」
「街の地図は、宿の主人に貰った。 宿屋を出て、すぐの路地に入るぞ」
私に続いてキースも立ち上がる。 貰ったローブを着込み、フードをかぶる。 これで本当に怪しまれないのか、未だに不安は拭えないが、とにかくやってみるとしよう。
私達は宿屋を出てすぐ街道をそれ、路地に入る。 暫く歩いて居ると、キースの言っている意味がわかった。 街道付近ではあまり見かけなかったが、路地には私と同じようなフード付きのローブを着た、ボロボロの住民が沢山暮らしていた。
「この街で取れる鉱石は貴族に人気だ。 貴族からの無理な注文に答えるために、鉱山では労働力として彼らが働いている。 この様子を見ると、あまり待遇は良くないようだな」
待遇が良くないどころか、ギリギリの生活をしているように見える。 ここにいる人達の目には生気がなく、フラフラと歩いていた。
「……」
「俺もなんとかしてやりたいとは思うが……。 情報がない今は下手に手を出すのは危険だ」
黙り込んだ私の意図に気づいたように、キースは話す。 彼の言う通りだ、下手に手を出しては私も彼らも危険になる。 それでも何か、彼らを助ける術は無いだろうか……。
―――――『……ッ! ……!!』
先の方から怒号が聞こえてくる。 内容までは聞こえないが、一人ではないようだ。 このまま進むと、巻き込まれそうだ。 けれど目的の門に行くには、この道しかない。
「静かに、まずは確認しよう」
「……ええ」
さっと壁際に寄り、ゆっくりと声の聞こえる方に近づく。 ここまで来るとはっきり声が聞こえてくる。 一度そこで止まり、声の聞こえる方を伺った。
『婆さん。 あんたのところの息子がやらかしてくれてな? 作業を再開するのに時間がかかるんだ。 その間、儲けられた分、きちんと払ってくれるんだよな?』
『そんな! あたしにはお金なんて……。 それより息子は無事なんですか!?』
『うるせぇ!』
そこではお婆さんに三人の男が怒声を飛ばしていた。 男に追いすがったお婆さんを蹴飛ばしている。 許せない。 私は隠れたまま、男たちの足元に向かって杖を構える。
「Act.2 転倒」
男の足元に小さな水たまりが出来る。 彼はそれに気づかず、もう一度お婆さんを蹴飛ばそうと片足をあげた。
『ったぁ!』
バランスを崩した男は、そのまま転倒し近くにあった樽に頭をぶつけた。 ……あれは痛そうだ。 証拠に男は悶絶している。 しかし、自業自得だ。
『お、おい。 大丈夫か?』
『……ちっ。 おい婆さん! 次来るときまでに金を用意しとけよ!』
男は頭を抑えながら、そう言い残して去っていった。 なんとかなったようだ。 お婆さんは、その場にへたりこんでしまう。 三人が完全に見えなくなってから私達はお婆さんに近づいた。
「お婆さん、大丈夫?」
「ええ、ええ。 私は大丈夫ですよ。 いつもの事ですので……」
そう言うが、蹴られた後が生々しく晴れている。 治療をしたいが、ここでは目についてしまう。 お婆さんに家にあげてくれないか頼んでみることにした。
「お婆さん。 治療をしたいの、家に上げてもらえる?」
「ええ、ありがとうね。 でも、足を痛めてしまってね……。 運んでくれるかい?」
申し訳なさそうに言うお婆さんの肩を、私達二人で支えながら家にあがった。 家は狭く、机とベッドが置いてあるだけだ。 ベッドにゆっくりとお婆さんを寝かせる。
「すぐに治すわ。 力を抜いてじっとしていて」
「すまないね……。 救急箱は、そこに置いてあるから……」
お婆さんを寝かせた後、私は杖を構える。 治療道具の方を指さしている彼女は、驚いた顔をした。 ……先に魔法を使うと言っておけば良かった。 今更なので、先に治療してしまおう。
「Act.2 治癒」
水音を立てて、水球がお婆さんの足の腫れた部分に張り付く。 少しの間、蠢いた後に霧となって消えた。 ……よし、これでもう大丈夫だ。 お婆さんは自分の足を確認して驚いている。
「これはまぁ……。 奇跡かい?」
「ふふ。 魔法よ、お婆さん。 他に痛むところはない?」
自分の足を何度も触り、痛みがないことを確認している。 そしてぱっとこちらを見て崇めるような視線を送ってきた。 ものはついでだ、他に痛む所があれば治してしまおう。
「魔法……。 ……ッ」
ベッドの上で無理な体制を取ったせいか、左腕をかばうような仕草をした。 私が袖を、そっとまくってみると、そこには大きな痣があった。 この傷跡は今日ではないだろう。 これも治してあげよう。
「Re: Act」
先ほどと同じ水球が、今度は腕の痣に張り付く。 次はお婆さんも驚くこともなく、張り付いた水球をじっと眺めていた。 それが霧となり、消えた時には痣も完全に治っていた。
「おお……。 女神様……!」
お婆さんは私の手を取り、崇め始めてしまった。 悪い気はしないが、少し恥ずかしい。 何度も感謝を述べるお婆さんを落ち着かせ、私達は事情を聞く事にした。




