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国境の街 デイル


―――――チ……チチチチチ……


 翌朝。 一通り準備を整えた私達は、村の入り口で村の人達に囲まれている。 いいと断ったのだが、どうしてもと押しきられてしまった。 馬車の準備も整っていて、後は出発するだけだ。 次の目的地は国境の街デイル、山の麓の街との事だ。 行き方は村長さんに聞いた。 村に来た時に曲がった道を、今度は曲がらずにまっすぐ進めばいいらしい。




「お二人には感謝しています。 お礼をする前にたたれてしまうとは……」


「いいんです。 その気持だけで、十分よ」


 村長さんは相変わらず、引き止める姿勢を崩さない。 そこまで感謝されると、背中がむず痒くなってくる。




「レティさん……」


「シエラ、いつかまた遊びに来るわ。 だから、そんな悲しい顔をしないで?」


 いつになるかはわからないが、私自身に整理がついたら戻ってこよう。 シエラの悲しい顔がいくらか明るくなった。




「……はい!」


 彼女は元気よく返事をした。 もう大丈夫そうだ。 私はテレズさん達にも目を向けた。 視線に気づいたテレズさんは、シエラの肩に手をおいて話し始めた。




「娘共々、お世話になりました。 また会える日を、心待ちにしております」


「ええ、それまで村を守ってあげてね」


 テレズさんとユエラさんは頭を下げる。 リズ達も遅れて真似をしていた。 そうして、私とキースは村の人達と挨拶を交わし、馬車に乗り込んだ。




「行くぞ」


「ええ」


 私に確認をとったキースは手綱を持ち、馬車を動かし始める。 背後からは村の人達の送る声が聞こえる。 私は身を乗り出して、彼らに手を振りながら村を後にした。






―――――ガラガラガラガラ


 馬車は進み、分かれ道を曲がる。 今度はデイルの方向にだ。 私は空席になった荷台を見つめる。 それに気づいたキースが、振り向かずに声をかけてきた。




「寂しいか?」


「ええ、少しね」


 短い間だったが、楽しかった。 欲を言えばもう少し居たかった。 けれどジェナの事もあるし、なにより今は早くこの国を出なければならない。 私のわがままで遅れたのだから、これ以上は困らせられない。 私は切り替えて、デイルのことを聞く事にした。




「デイルってどんな街なの?」


「山に隣接した街だそうだ。 その街から続く街道を進むと、この国から出れる。 街道は山に挟まれていて、一度街に入って門をくぐるか、山を進むしか行く方法はない」


 なるほど。 馬車で山を登るのは無理だ。 一度街に入って街道を行くしかないだろう。 ……すんなりと通れれば良いのだけど。




「それと、デイルでは鉱山が多いらしい。 そこで取れた鉱物は他の街に運ばれ、デイルの主な収入源になっているようだな。 住んでいるのは主に鉱山関係者だ」


「ふぅん」


 鉱山か……クアーラと違って、露店には期待できないかもしれない。 私は少し気分が落ち込んだ。 それを察知したのか、キースは笑いながら話してくる。




「はは、レティにはつまらない街かもしれないな」


「べ、別に期待はしてないわ」


 見透かされたような気がして、少し動揺してしまった。 別に期待はしていない。 国を出るのに立ち寄るだけだ。 そう、期待はしていない。


 そのまま、馬車は二日ほど街道を進んだ。 その間、ジェラが再び現れることもなく道中は順調だった。 そして、二日目の夜を迎えた。




「Act.1 炎」


 私は焚き木に向かって魔法を唱えた。 着火した焚き火に薪を入れ、以前火をおこした時の事を思い出していた。 ……最初から、こうすれば良かった。 これなら、わざわざ道具で着火する必要もない。 火が安定したのを確認して、私は近くの椅子に座る。




「ほら」


「ありがとう」


 キースは私に紅茶入りのコップを手渡してきた。 私は、それを受け取りお礼を言う。 ふと、上を見ると星が輝いている。 屋敷の窓から何度も見た景色。 同じ景色でも、あの時と今では大分状況が違う。




「どうした?」


 ぼーっと空を眺める私に、キースは話しかけてくる。 そのまま空を眺めつつ、顔を向けないまま口を開く。




「私、本当に屋敷をでたのかしら」


「……?」


 私の言葉にキースは不思議そうな顔をする。 屋敷の窓から覗く空と、今見ている空は変わらない。 それが少し不安に思う。 私はまだ屋敷に居るのではないかと。




「時々思うの。 これは全て夢で、起きたら屋敷のベッドの上に居るんじゃないか……って、ね」


 最後はキースに向けて笑顔で言う。 彼は表情を崩すこと無く、じっと私の顔を見返してくる。 その後、同じ様に空を見上げた。




「……大丈夫だ。 これは夢じゃない。 お前は、あそこを出て自由になったんだ」


 その横顔を見て少し安心する。 彼がいなかったら、私はずっと屋敷に籠もって居ただろうか。 執事として雇ってくれたことだけは、両親に感謝しないといけないかもしれない。




「ふふ、自由ね……? 大分語弊があるみたいだけれど?」


「暫くの辛抱だ。 この国を出て、ほとぼりが冷めたら、お前は自由になれる」


 まだ自由と言うには程遠い。 今はさながら逃亡生活だ。 ……自由か。 自由になったら私はどうしたいんだろう。 敷かれた道の上を歩いてきた私に、自由という言葉は未知のものだ。




「自由ね……。 ねえ、キース? 自由って、私は何をすればいいと思う?」


「それもお前が決めることだ。 俺が言った時点で、それは自由ではないだろう」


 ……確かに。 でも、そんな事を言われても困る。 シエラ達のような困っている人を助けるために、冒険者になる? ……それもまた違うような。 そんな事を考えていると、隣でキースが静かに笑い始めた。




「なによ」


 私は不満げに、キースを睨む。 人が真剣に考えているのに、笑うなんて。 そんな私に、キースはゆっくりと話し始めた。




「はは、いや。 レティ。 ここで全て決めてしまうにはまだ早い。 色々と見回って、それからゆっくりと決めればいいだろう? その間、俺は横でお前を手伝う。 心配するな、焦る必要はないんだ」


「……そうね。 そうするわ。 任せたわよ、キース」


「ああ」


 キン。 と合わせたコップから甲高い音がする。 そうだ、キースも手伝ってくれる。 ゆっくりと世界を回って、私に何が出来るか考えよう。


 そうして夜はふけ、私達は朝を迎えた。 今日中にはデイルの街に着くはずだ。 まだ旅は始まったばかりだ。 気持ちを入れ替え、私は馬車に乗り込んだ。



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