ウイユの村 12
「こちらです」
村長の案内で、私達は彼の家に上がった。 質素な小さな家だ。 村長はここに一人で暮らしているらしい。 用意された椅子に座り、今日あったことの報告を始める。
「それでは、まず……」
テレズさんが報告をし始める。 私とキースも、それに補足を加えた。 報告した事は、"森の奥の山肌に洞穴があったこと"、"そこであった少女が村を襲う魔物を討伐したこと"、"洞穴の奥に像があったこと"、だ。
やはり村長さんも、ジェナが魔物を討伐した事を信じていない様子だった。 村長さんとしては、村を襲った魔物も、黒い狼を従えたジェナも同じように驚異に感じているだろう。 どちらにも村が襲われたことには、代わり無いのだから。
「……ふむ」
「村長。 私は少女が適当な事を言っているように思えます」
私の言葉に村長は考え込む。 テレズさんは、ジェナの言った事はでまかせだと言っている。 分が悪くなり、適当な言い訳を考えて逃げたという考えだ。 私は言いはしなかったが、分が悪くなって逃げたというのには首をかしげる。 ジェナは圧倒的な力を持っていた、発揮できなかったのは動揺していたからだ。
「この度は、村をお救いくださり有難うございます。 しかし、どうやらその少女は貴女に目をつけてしまったようで……。 厄介事を押し付けてしまった事を謝罪致します」
「……あ、頭を上げて下さい。 私の方こそ……」
突然の行動に、私は少し動揺してしまった。 つまり、村長としての結論はこうだ。 "信じられないが、少女が魔物を従えていた。 魔物を使って村を襲っていた彼女は、私を見つけると村への興味を失ってしまう。 そして、今度は私に執着してしまった。"
「魔物を従えるなど、考えたくもありませんが……。 村の身代わりを立てたような結果になってしまい、なんとお詫びしていいことか」
これでは埒が明かなそうだ。 結果的に村は救えた、それに私も無事だ。 これで良いということにしよう。 今後の事は、これから考える。
「心配しないで、私なら大丈夫。 それよりも、あの洞穴はどうするの?」
「……ですが。 ……いえ、わかりました。 洞穴ですか……」
私が言うと、ようやく村長が謝るのを止めてくれた。 そして話題を洞穴の方へと持っていく。 ジェラが居なくなったとは言え、まだ危険があるかもしれない。
「後日、入り口を封鎖してしまおうかと思います。 像があったという事は、以前の住人の建造物かもしれませんが……。 あのままにして、また何かが住み着いてしまっても危険ですので……」
確かに。 あれだけの空間だ、他から流れてきた獰猛な動物が住処にしてしまうと危険になる。 埋めてしまうのには、賛成する。 ……結局あの像は何だったのか、あの時はゆっくり見る時間も無かった。
「そうね、それが良いと思うわ」
「ああ。 像は気になるが、村の安全が最優先だろう」
私もキースも、その案に賛成する。 テレズさんも頷いていた。 報告は終わり、私達は家を出る。 村長には明日には村を出ると伝えた。 何度も引き止められたが、次の用事があると言うと引いてくれた。
そしてテレズさんと共に家へ向かう。 今日もまた彼ら一家の所にお世話になる。 シエラが首を長くして待っているだろう。 その様子を想像して私は笑いそうになってしまった。
「レティさん!」
家について中にあげて貰うと、すぐにシエラが飛びついてきた。 予想通りだ。 身構えていた私は、彼女を受け止める。
「ふふ、報告は終わったわ。 またお世話になるわね」
「はい! ご飯、出来ていますのでどうぞ! ほら、キースさんとお父さんも!」
彼女に促され、食卓へと案内された。 そこにはたくさんの料理が机に並んでいる。 シエラは、自慢げな顔をしてこちらを見ていた。 どうやら、褒めて欲しいようだ。
「凄いわね、シエラ。 これ、貴方が作ったの?」
「ええ、シエラったら張り切ってしまって。 私は殆ど手を出していないんですよ」
ユエラさんはシエラを見て半ば呆れたように言った。 確かに随分張り切ったようだ。 それにしても凄まじい量である。 ……食べ切れるかしら? ふと、食卓に見覚えのある料理が見える。 これは確か……。
「旅の時に頂いた料理を真似てみたんです! レティさん程上手くは出来ませんでしたが……」
そう、馬車で村へ向かっている時にシエラ達に作ってあげた、肉料理だ。 見ただけで覚えたのなら大したものだ。 私ほど上手くは……というが、実はあの時が初めて作ったとは言えない。
「美味しそうね。 私より才能あるわ、シエラ」
私はシエラの頭を撫でた。 彼女は嬉しそうな顔でされるがままになっている。 冷める前に食べよう。 全員が席についたのを確認して、私達は食事を始めた。
『頂きます!』
まずは、シエラの作ってくれた肉料理からだ。 ……うん、美味しい。 それに、私が作ったものより柔らかい。 横を見ると、シエラがじっとこちらを見ていた。
「とても美味しいわ。 それに柔らかい。 何かアレンジしたみたいね?」
「はい! パン粉と調味料を少し変えてみたんです!」
私に褒められ、彼女はレシピを説明し始める。 これは料理の才能は、シエラのほうが上だ。 私は怖くて、アレンジなんて手が出せない。 しかも失敗すること無く、美味しくなっている。 この家族の食卓は安泰だろう。
楽しい食事の時間が終わり、それぞれ就寝することになった。 リズ達など、もう限界だったようだ。 食事が終わると同時に、ユエラさんに抱かれて寝室へ向かっていった。
私は、シエラにせがまれ同じ部屋で休む事にした。 まだ明日村を立つ事を言い出せないでいる。 ……キースは食事が終わると同時に逃げ出し、テレズさんの部屋に向かった。 感のいいやつめ……。
そろそろ言い出そう。 シエラの部屋についた私は決意した。 先延ばしにしていても仕方がない。 明日出る事を伝えなければ。
「あのね、シエラ。 私達、明日には村を出ようと思うの」
「えっ……」
シエラは驚いた顔をして固まった。 それもそうだ、私が話すのを憚っていたせいで突然になってしまった。 彼女は悲しそうな顔をして黙り込んでしまった。
「ごめんなさい、シエラ。 お世話になっていて勝手だけれど……。 村が襲われることはもう無いと思うわ。 だから、私達は元々の用事を済ませに次の街に行かないといけないの」
胸がチクリと痛むが、仕方がない。 これは、この村の人達のためでもある。 落ち着いたら、きっとまた戻ってこれるだろう。
「……そうですか。 レティさん、たった数日の間でしたが、村も私もお世話になりました。 有難うございます」
そう言って彼女は頭を下げる。 シエラは無理やり作ったような笑顔で私に感謝を述べた。 ……出発するのは明日だ。 今日は時間の許す限り、彼女と話そう。
「いいえ。 こちらこそ、お世話になったわ。 ……ねえ、もう眠いかしら? 良かったら、村のことを色々と教えて欲しいの。 もう少し話さない?」
「……! はい!」
彼女は笑顔で答えてくれた。 その後、私達は夜遅くまで話し込んだ。 村のことや料理のこと、森の事、両親のこと。 嬉々として話す彼女に私は耳を傾け、気づいた時には二人揃って寝てしまっていた。




