ウイユの村 6
―――――サアアアア
木の葉の擦れ合う音。 薄めを開けると朝日が差し込んでいる。 もう朝だ、そろそろ起きよう。 そう思うが、中々体は動いてくれない。
「ん……」
そのまま顔を別の方へと向ける。 そこにはもうひとり分の寝具があるが、中はもぬけの殻だ。 逃げたわね……キース。
それなら丁度いいか。 私は入り口に鍵をかけ、服を脱ぐ。 そして目を瞑って、魔法を発動させる。
「Act.2 洗浄」
現れた水は私の体に纏わりつき、体を綺麗にする。 このままだとビショビショのままだ。 続けて別の魔法を唱える。
「Act.3 乾燥」
今度は風が私の濡れた体や足元の水分を乾燥させる。 これは私の考えた、旅でお風呂に入れない時の魔法だ。 村にも浴場はあったが、ゆっくりしている暇はない。 館から抜け出して、それどころではなかったがようやくサッパリした。 服にも同じ魔法をかけ、乾いたことを確認して着直した。
―――――コンコン
部屋の扉を叩く音が聞こえる。 シエラだろうか? 私は確認するために、返事をした。
「シエラ?」
「いや、俺だ。 朝飯が用意できたらしい、呼びに来た」
キースだったようだ。 ……ちょっとからかってやろうか。 そう考えた私は鍵を開け、着直した服を少し着崩してから返事をした。
「開けてくれる?」
「……? ああ、わかった。 ……!……!!」
バタン、とキースは開けて数秒も経たずに扉を閉めた。 相変わらず可愛い反応をするものだ。 勝手に寝床から逃げたおしおきだ。
「……早く着替えろ」
「ふふふ、わかったわ」
扉の向こうから、一言だけ聞こえた。 満足した私は、今度こそちゃんと着直し扉を開ける。 キースは警戒して扉から手を離さなかったが、私の様子を見て安心して息を吐いた。
「ほら、朝食だ。 行くぞ」
「ええ、行きましょう」
キースは少し私を恨めしく見ていたが、すぐに調子を取り戻した。 今日の朝ごはんは昨日の夜に保存しておいた食事だ。 結局あの後、感謝の気持ちだけ受け取って村の人達に分けて貰った。
「おはようございます」
『おはよう!』
少し歩いて部屋につくと、シエラが挨拶をしてきた。 リズ達も元気いっぱいだ。 ふと、周りを見るがユエラさんとテレズさんの姿がない。 私は椅子に座りつつ、シエラに聞いた。
「ええ、おはよう。 テレズさん達は?」
「お父さんたちは、早くに食事を済ませて村の修繕に向かいました。 昨日、あんな事があったばかりですから……」
シエラの言葉に私は納得する。 それもそうだ、昨日は夜遅かったため応急処置だけで済ませた。 本格的に修理する必要もあるし、治した怪我人の様子も見に行かないといけない。 私も手伝ったほうが良いだろうか。
「食べ終わったら、私も手伝いに行こうかしら」
「いえ、どうぞゆっくりしていて下さい。 シエラさん達は、今日森に行かれるのですから……」
それもそうか……。 言葉に甘えて、体を休めておこう。 どんな戦闘になるかわからない、万全を期しておこう。 キースを見ると彼も頷いていた。
「……そうね、そうさせて貰うわ」
「お姉ちゃん! 食べ終わったら遊ぼう?」
リズがそんな事を言ってきた。 隣りにいるエイクも食事を頬張りながら何度も頷いている。 まるで小動物だ。 思わず私は笑ってしまった。 そんな、二人をシエラが嗜める。
「もう、二人共。 レティさんは休むって言ったでしょう?」
「ふふ、大丈夫よ。 疲れずに遊べる良いものが有るわ。 食べ終わったら持ってきてあげる」
確か馬車に持ってきた遊具があるはずだ。 食事が済んだら持ってきてあげよう。 あれなら体力を使うことはない。 代わりに頭を使うが。 そんな私の返事にシエラは申し訳なさそうにしている。
「……良いんですか?」
「ええ、平気よ。 せっかくだから、シエラも遊びましょう?」
大人数で遊んだほうが楽しいだろう。 シエラも誘うと、彼女は笑顔で頷いた。 なら、まずは朝食を済ませてしまおう。
私達はゆっくりと朝食を済ませ、食休みを取る。 馬車へはキースが向かうと言うので、彼に任せることにした。 そろそろ戻ってくる頃だ。
「持ってきたぞ」
キースが家のドアを開けて入ってきた。 その手には目的の遊具がある。 リズとエイクは待ちきれない様子だ。 その証拠に椅子に座っているが、カタカタと小刻みに動いている。
「ありがとう、キースもやりましょう?」
「ああ」
キースも椅子に座り、私は遊び方を説明しはじめる。 机の上に絵柄の書かれたカードの山を置く。 表面は二枚ごとに違う絵柄が描かれている。 しかし、裏面は全て同じ絵柄に統一されていた。
「このカードの中には同じ絵柄のものが二枚あるわ。 でも裏は皆、同じ見た目なの」
カードの山から同じ絵柄のものを二枚取り出して机に置く。 そこには黄色い星型が描かれている。 続いて裏返すと、黒っぽく塗りつぶされた中に模様が刻まれていた。
「これを裏返したまま机に並べて、二枚表にする。 同じ絵柄だったら、カードを貰えるの。 そしてまた次のカードをめくる。 絵柄が違ったら次の人の番よ。 最後に沢山カードを持っていた人の勝ちね」
リズとエイクには難しかっただろうか。 少し不安になったが、二人は真剣にカードを眺めていた。 よし、まずはやってみよう。
「じゃあ、まずはやってみましょう。 私からめくるわね」
そう言って私はカードを混ぜ、裏返して机に並べた。 最初は運だ、適当に選んでしまおう。 手前にあったカードを適当に二枚めくった。
「木の葉と……月の絵柄ね。 残念。 ほら、次はシエラよ」
「は、はい!」
当然ながら揃うことはなかった。 そのカードをまた裏返し、シエラに順番を回す。 彼女は焦った様子でカードに目を向けた。
「じゃあこれ……。 あっ、月です!」
なんと。 シエラが適当に裏返したのは、私がめくったのとは違う月の絵柄だ。 彼女は私が先程戻したカードを探している。
「これ!」
そう言って彼女がめくったのは、木の葉のカード。 惜しい、月のカードは隣だ。 彼女は落胆して、カードを戻した。
「うぅ……」
「ふふ、惜しいわね。 そうやって他人のめくったカードを覚えていくのよ」
シエラは、なるほどと納得して頷く。 どれほど覚えられるかが鍵だ。 体力ではなく、頭を使うというのはこういう事である。 次はリズの番だ。
「ほら、次はリズね。 めくってみて?」
「うん! ……これと、これ!」
彼女がめくったのは私とシエラが戻した月のカード。 お見事、ちゃんと遊び方は伝わっていたようだ。 絵柄を揃えた彼女は、目を輝かせながらカードを眺めていた。
「あっ! とろうと思ったのに!」
「ふふ、エイク。 どのくらいカードを覚えられるかが勝負よ」
「うん! わかった!」
狙っていたカードを取られ、エイクも火がついたようだ。 真剣にカードを眺め始めた。 そんなに眺めても今は彼の番だ。 裏のカードは、全て同じ絵柄である。 思わず私は笑ってしまった。
そうして私達は、暫くカードに遊ぶ事に熱中した。 リズとエイクは要領がよく、またたく間にカードを揃えていく。 シエラは覚えてはいるのだが、一つ隣を選んでしまったりと中々揃えられなかった。 普段はしっかりしているが、意外と可愛い所もあるのかもしれない。
そうしている内に昼を迎えた。 昼食を済ませた後、私達は村の広間に集合することになっている。 いよいよ森に向かう時間だ。 少し緊張してきたが、表面には出さないように自分を落ち着かせる。 大丈夫だ、昨日はできた。 今日もできる。 私は、そう自分に言い聞かせていた。




