ウイユの村 3
―――――チチ、チチチ
鳥の鳴き声で私は目が覚める。 辺りはまだ薄暗く、まぶたも重いが気力で起き上がる。
テントから外へ出る。 周りを見渡すと、キースが椅子に座って本を読んでいた。 彼もこちらに気づき目を向けて話しかけてくる。
「レティ。 まだ早い、もう少し寝ていると良い」
「いいえ、寝るのはあなたよ。 私が見張りを変わるわ、少しでも休んで」
そう言うが彼は昨日からまともに休んでいないのだ。 さすがに心配だ、ここは無理にでも休息をとって貰う。
「だが……」
「大丈夫よ、何かあったらすぐ呼ぶから。 ほら、シエラ達が起きちゃうわ。 早く休んで」
「……わかった、何かあったらすぐ呼ぶんだぞ」
渋る彼の背中を押して、テントに向かわせる。 こうでもしないと本当に倒れるまで起きていそうだ。 そうなったら困るのは彼だけではない。 それも分かっているのだろう、彼はあまり抵抗すること無くテントに入っていった。
「ん……!」
テントで固まった体を伸ばし、荷物から本を取り出す。 キースが先程まで座っていた椅子に腰掛け、空を見上げる。 外で泊まるなんて、屋敷に居た頃は考えられなかった。
そろそろ私が居ないことに屋敷の使用人が気づいただろうか。 部屋にはキース以外の使用人は来ないし、私もずっと部屋に閉じこもって居た。 しかし流石に2日も経てばおかしいと思うだろう。
その事が両親に伝わるまで、暫く時間がかかるだろう。 果たしてその後、私を探しに来るのか、厄介払いが出来たと安心するのか……。 いずれにしても、もう戻る気はない。そんな事を思いながら、私は本を読み始めた。
暫くたち、ふと空を見上げると日の出が見えた。 凝った体を伸ばし立ち上がった私は、紅茶でもとお湯を沸かし始めた。 するとテントの方から物音が聞こえてくる。
「もう良いの? キース」
「ああ、ゆっくり休めた。 もう大丈夫だ」
出てきたのはキースだ。 彼はゆっくりと体を伸ばしながらこちらへ向かってくる。 そうして折りたたんだ椅子を広げ、座り込む。 寝起きの彼を見たのは初めてかもしれない。
「こ、紅茶でも飲む?」
「ん? ああ、貰おう」
少し動揺してしまった。 平常心平常心……。ティーポットに小さな小袋から取り出した紅茶の葉を入れる。 この紅茶は屋敷から持ってきたものだ。 お気に入りで大量に持ってきてしまった。
コップに注いだ紅茶をキースに手渡す。 彼は椅子に身を預けながら渡したコップから紅茶をすすった。 中々様になっている。 キースのくせに……と私は目を細めた。
「……なんだ?」
「なんでもない。 ……シエラ達が起きたらすぐ出るの?」
私の視線に気づきキースは怪訝な顔をする。 悟られたくなかった私は、話題をこの後のことに移した。 今日中には村に着くのではないだろうか。
「そうだな、あと半日も進めば分かれ道に着くんじゃないか?」
「村の人達、大丈夫かしら……」
シエラ達が村を出た時点でも、随分と劣勢だったはずだ。 まだ無事で居るだろうか、なるべく急いだ方が良いのかもしれない。
「落ち着け。 急いで行っても、助けに向かう俺達が疲弊して到着したのでは本末転倒だ。 俺達は万全な状態で、かつなるべく早くというのが一番良い」
「そうね……。 わかったわ」
はやる気持ちが顔に出ていたのか、キースに諭されてしまった。 そうだ、村についたら戦うかもしれない。 万全な状態で行かなくては。
キースと話していると、テントから物音が聞こえた。 シエラ達も起きたようだ。 彼女がリズとエイクを起こす声が聞こえる。 どうやら二人はねぼすけさんのようだ。
「おはようございます……」
「おはよ」
「お……ふぁぁ、…よ」
3人は眠そうにこちらに向かってくる。 なれないテントであまり寝れなかったのだろうか。 フラフラと水場に向かうリズとエイクをキースが止めていた。
「眠れなかった? テントだと居心地が悪いでしょう?」
「そんな! 違うんです。 ……寝すぎてしまって。 来る時は地面に布を引いただけの場所で寝ましたから……」
なるほど、それは辛い。 石やら砂利やらでまともに寝られないだろう。 それと比べたらテントは快適だったのだろう。
「それは……。 大変だったわね。 朝食をとったら出発するけど大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
そうして私達は軽く朝食を済ませ、荷物をまとめて馬車に撤収した。 朝食は街で買ったパンと付け合せ、それに紅茶だ。 特に紅茶が気に入ったらしくシエラが大絶賛していた。 茶葉の入った小袋を渡したら凄まじく恐縮していた。 見ていて飽きない子だ。
「出発するぞ」
「ええ、大丈夫よ」
確認するキースに、私はシエラ達も準備が完了したことを確認し返事をした。 子供達はまだ眠そうだ。 初めての野宿を終え、馬車は村に向けて出発した。
暫く談笑しながら道を進んでいくが、子供達が飽きてきてしまったようだ。 そうだ、ここで約束していた魔法を見せてあげよう。 私は短杖を取り出す。 この短杖は先端に宝石がはめ込まれていて、長さは腕の半分ほどの木製である。 本来魔法を使う際にはこういった触媒を手に持ち発動する必要がある。 私は必要ないのだが、カモフラージュのために用意してきた。 触媒無しで魔法を使うのは高度な技術が必要だ。
「リズ、エイク。 魔法を見せてあげる」
「ほんと!?」
「魔法!」
私の言葉に二人はすぐさま反応した。 何の魔法が良いだろうか……。 馬車内で使っても危なくない、二人を驚かせられるものは……。 そうだ、あれにしよう。
「Act.2 鳥」
短杖が輝き魔法が発動する。 私とリズ達の間に、水で形作られた小鳥が出現した。 その鳥は彼女らの上を飛び回りシエラの頭にとまる。
「ひゃっ!」
「お姉ちゃんずるい!」
「私も!」
シエラは驚くが、リズ達は羨むように彼女の頭の上の鳥を見上げる。 私は続けてもう二体の鳥を作り出し、リズとエイクの腕に止まらせる。
「凄い!見て!」
「綺麗」
大好評だ。 この鳥は私が膜で覆っている限りは、触っても濡れることもない。 リズとエイクは思い思いにじゃれ付き始めた。 掌に小鳥を乗せ、子供のような笑みを浮かべたシエラが私の視線に気づいて赤くなった。 リズ達の手前、お姉ちゃんを演じているが実際は私達より年下のまだ子供だ。 年相応な所もあるんだな、と私は笑顔で見ていた。
「凄いですね、こんな事ができるなんて……」
「ああ、魔法は便利だ。 出来ることが沢山ある。 必死に学べば、初歩的なものは使えるようになるかもしれないぞ。 魔力を全く持って生まれない限りは、誰にでも使える可能性はある」
「そうですね……。 私もやってみようかな……」
キースの言葉にシエラは頷く。 私はそれがキースの自虐だとわかり、なんとも言えない気持ちになった。 やはり彼も魔法に執着があるのだろうか。 少しでも使えれば捨てられることもなかったはずだ。
今は考えていても仕方がない。 目の前の事に集中しよう。 青い小鳥と戯れるリズ達を見ながら、私は外を覗く。 まだ村まではかかりそうだ。




