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第八話

登場人物紹介


 登木 勇太郎  ……青山吹高1年2組。ユウくん、ボリと呼ばれている。

 土筆坂 りぼん ……幽霊。下ネタ発言が多い。

 登木  灯   ……勇太郎の妹。恐がり、金の執着心が薄い。

 宮原 玲羅   ……中学生。霊感少女。

 安嶋 大騎   ……勇太郎のクラスメイト男。いがぐり頭。

 若槻 妃織   ……勇太郎のクラスメイト女。ギャルっぽい。

 佐俣 啓悟   ……1年3組。男。ちょっとおかしい。

 喜多見 渚   ……1年4組。女。おとなしい。

 そして土曜日。

 俺とりぼんは、待ち合わせの図書館前に来ていた。


「んー、いい天気」


 りぼんが俺の横で気持ちよさそうに背伸びをする。

 天気は1週間前と同じ春うらら。

 桜は徐々に散り始めているものの、

 道ばたには菜の花やタンポポが咲き乱れていて、

 蝶やミツバチがふらふらと舞っている。


 ここ数日で変わったことといえば、

 再抽選の結果、園芸部に決まったこと。

 一応部室も手配されていたが、

 倉庫扱いになっていた空き教室を割り当てられた為、

 毎日片付けに追われて活動という活動はしていない。


 そもそも、

 あのメンバーで園芸部の肩書きが似合うのは喜多見だけだった。


「玲羅ちゃん、遅いね」


 りぼんの呟きに釣られて腕時計を見る。

 待ち合わせは9時半。

 30分ほどオーバーしている。


「りぼんと違って女の子は色々準備が必要なんだよ」


「それって、私がおめかししてないと言ってるんじゃない」


 笑ったり怒ったりと表情豊かで忙しい。

 初めて会ったときの恐怖など、今はもう吹っ飛んでしまった。


「お待たせしました」


 宮原さんが来た。

 こちらはりぼんと違って表情は固かった。

 正確には暗いと訂正したほうがいい。


 やはり霊感が強いというだけで、

 感情が支配されていくのだろうか。


 まありぼんのように、

「きゃっほー、私、霊感強くて幽霊見放題なの。

 みんなー、ヨロピク」

 と言われたら引いてしまうのだが。


「ユウくん、ユウくんってば」


 袖を引っ張るような声を上げるりぼん。


「魂が抜けちゃったみたいにボケーッとしちゃって。

 ひょっとして玲羅ちゃんがセーラー服だから不満だったの?」


 口にすることが強引すぎる。


「あら、土筆坂先輩もセーラー服ですよ」


「ふっ、甘い。甘ちゃんだね。

 実はセーラー服を1週間分備えていて、

 毎日着替えているんだよね、これが」


「はいはい、わかりました」


 宮原さんも、りぼんの扱いに慣れてきたらしく適当に流す。


「何よ、その気の抜けた返事は! 

 こうなったら必殺、

 レクイエムブラスト!」


 なぬ、必殺技使えるのか? 

 しかしこの世界はバトルもの設定ではないぞ。

 案の定、宮原さんの前に手を突きだして、

 くねくねと指を動かしているだけだった。


「がーん、なぜ届かないんだ? 

 も、もしかしてポルターシールドを張っているのか?」


「どこから憶えてきたのですか、その設定。

 時間の無駄なので早く場所を決めていきましょう」


 するとりぼんは俺の背後に隠れて、

「ふふふ、遅刻魔の玲羅ちゃんに権力を握られたくないわ」

 いかにも俺が言ったように悟る。


「遅刻したことは謝ります、すみません」


 クールにまかり通すかと思ったら、案外素直だった。

 誰かも見習ってほしいんだが。


「ちょっとお、何か面白くなーい。

 もっとこう、どんちゃん騒ぎに発展しないと」


 りぼんはじっと目を細めて、俺と宮原さんを交互に見つめた。


「場所はどこにしますか?」


「玲羅ちゃん、まさかの無視? 

 それって霊感少女ならぬ鈍感少女よ」


「はあ……」

 灰色の溜息を漏らす宮原さん。

「土筆坂先輩は場所、決めているのですか?」


「うーん、1週間前にユウくんと初デートで行った芝生の広場」


「遊びに行くのではないですよ」


 相当苛立っているらしく、

 腕を組んでコツコツと片足を鳴らしている。


「じゃあ玲羅ちゃんは希望あるの?」


「そ、それは、私が決めることではなく、その、あの、」


 急に戸惑い出すと思うと俺のほうを見て、


「場所決めてください」


 振ってきやがった。

 宮原さんにたくすつもりでいたので考えていなかった。

 駅前に喫茶店はあるけれど会話が筒抜つつぬけになるし、

 青山吹高の園芸部室って手もあるけど、

 移動ロスがかかる。

 心当たりは1つしかなかった。


「俺が決めていいの?」


「この際構いません。

 土筆坂先輩は当てになりませんから」


 一応、この前ボツになったんだが。


「俺の部屋に来ない? 

 両親も出かけて妹も遊びに行くって、

 言ってたから誰もいないんだ」


「ななななななななななんですか! 

 そのラブラブな恋人風な発言は!」


 目にゴミが入ったように素早く瞬きをしている。

 かなり動揺しているようだ。

 それに目を付けたりぼんが拍車はくしゃをかける。


「ユウくんの部屋じゃないよ! 

 ユウくんと私の愛を育む部屋。

 きゃっ、言っちゃった。恥ずかしい」


 頬を赤く染め、

 全身をくねくねと曲げて気味の悪い動きをする。


「……」


 俺も宮原さんも放心状態。

 もし手にハリセンを持っていたなら、

 頭を叩いて流していたつもりなんだが。


「本当に何もしませんか?」


 俺から一歩後ずさった宮原さんは、

 腕を組んで軽蔑けいべつ眼差まなざしを送る。


「何もしないって! 

 別に前科があったわけじゃないし」


「……覚えてないのですか?」


「あ、あれは、ふたりを止めようとして胸を……。事故だって」


「ふーん」


 軽蔑の眼差しは鋭く継続中。


「浮気は許さないんだからね!」


「俺はりぼんと付き合ってるわけじゃねえだろ! 

 むしろこっち側について宮原さんを説得しろ」


「わかりました、

 登木先輩の部屋にしましょう。

 土筆坂先輩も飾り程度ですが、

 役に立ちそうなので……」


 やっと警戒心を解いてくれたようだ。



「遠慮しないで上がって」


「失礼します」


 我が自宅。宮原さんは礼儀正しく靴をそろえる。


「何か飲み物持ってくるから。

 りぼん、宮原さんを部屋に案内して」


「うん。2階のイカ臭いところがユウくんの部屋だよ」


 一言多いんだよ、あいつは。

 バカめ、こんなこともあろうと、

 朝早く起きて念入りに掃除をしていたのだ。


 キッチンに向かい、冷蔵庫を開けるとドアポケットに、

 紙パックのオレンジジュースがあった。

 果汁100パーセントか、宮原さん大丈夫かな。

 グラスを2つ用意して戸棚を探ると、ポテチ発見。

 サワークリームオニオン味。

 何気に旨いんだよね、これ。

 きっと灯の所有物だろう。

 ためらいもなくポテチの封を切り、

 ガラス戸棚から白い皿を出してごそっと全部開けた。

 兄妹というものは互いに助け合っていくものだ。

 きっと灯だって笑って許してくれるだろう。

 トレイの上にオレンジジュース入りのグラスと、

 ポテチ盛りの皿を載せていざ我が部屋へ。


 ドアを開けると、

 足の短い丸テーブルの横にきょとんと宮原さんが正座している。

 一方りぼんは、窓のサッシに背を向けて外を眺めていた。


「オレンジジュースでよかったかな?」


「お構いなく」


 宮原さんの目先にオレンジジュースを置き、

 テーブルの横の中央にポテチ皿を置いた俺は、

 宮原さんと対峙するように座った。


「私の分は?」


 りぼんが肩をぶつけるように俺の右横に座る。


「いらねえだろ」


「ぶー。お供え物がないと、たたりが起こるんだからね」


「今度、おはぎでも供えてやるよ」


「なんか年寄りくさーい」


 ふと宮原さんを見ると、

 きょろきょろ見渡して落ち着かない様子。


「どうしたの?」


「いえ、登木先輩の部屋にしてはきれいかと思って」


「こうなると予想して片付けておいたから」


「パソコンもテレビもありませんね」


「両方欲しかったけど、

 ケータイしか買ってくれなかった。

 金貯めて買えって」


「へー」


 いただきますと小さく言った宮原さんは、

 オレンジジュースに口づけをする。

 真似するように俺も一口飲んだ。


「でもね、ユウくんったらエロ本とかDVD隠しているんだよ」


「ごほっ、ごほっ」


 気管支に入った。

 何でそのタイミングで言うんだよ! 

 それより何で知っているんだ?


「見覚えがないな」


 プライドにかけて、ここは誤魔化す。


「場所は押し入れ上段の天井で、

 1枚だけ板が外れるとこがあるの。

 まあユウくんも健康な高校男子だから、

 私も見逃してあげてるんだ」


 ベラベラと喋りやがって、口数の減らないヤツだ。


「俺、この家に引っ越してきたからわかんない。

 きっと前の住人の忘れ物かもしれないね」 


 ふたりに視線を合わせずにシラを通す。


「うっそだぁ、

 ホコリも被ってないし絶対最新ものだって。

 確かタイトルは『ハレンチ女子高生、やらしい目で見つめて』」



「だあー、だあー、だあー」


 大声を出して強引にかき消そうとした。


「違うんだ、あれは前に住んでいた親しい友人からの餞別せんべつで、

 しぶしぶ、仕方なく受け取ったんだ。

 捨てるに捨て切れないだろ。

 男の友情にひびが入るんだよ」


「落ち着いてください、

 別に登木先輩が自室で何を所有していようが、

 私には関係ありませんから」


 宮原さんは冷ややかだった。


「そうだよね、ははは。それじゃ話を進めよう」


「エロ本の中身の?」


「りぼんは少し黙っててくれ。

 まずなんだけど、

 単刀直入に言うと、りぼんは死んでいるの?」


 俺は宮原さんの言葉を待った。


「可能性は死のほうが高いですね。

 どこかに監禁されて魂だけここにあるのは、きわめて低いです。

 1年前の事件なので、

 何者かに殺されて、どこかに隠されたほうが辻褄つじつまが合います。

 それともうひとつ……」


 ゴクンと唾を飲んだ。


「事故に遭ったってこともあり得ます。谷底に転落したとか」


「ちょっと曖昧だよ、霊感使ってくれないと」


 りぼんが首を伸ばしてきた。


「いくら霊感があるからって、

 全てを垣間見かいまみることはできません。

 真因に触れることも。

 御託ごたくを並べたに過ぎませんが、

 他に尋ねたいことはありますか?」


 りぼんから視線を反らし俺に向けてきた。


「結構あるんだけど、

 りぼんの失踪の理由は神隠しに入らないの?」


 鼻から大きく息を吐いた宮原さんは、

「随分と非現実的ですね。

 土筆坂先輩が蒸発した次の日、

 村中の警官や消防団の方々で捜索に当たられまして。

 私は捜索には行かなかったのですけれど、

 近所のお婆ちゃんが『天狗さまの神隠しじゃ』、

 と言い始めて……。

 田宝村にも昔から言い伝えがあるみたいですよ、神隠しの。

 登木先輩たちが行きました桜並木の隣の山。

 天狐山てんこざんという名称がありまして、

 3合目あたりまでは遊歩道に整備されているのです。

 季節折々の草花や村の風景も眺められて、

 地元では人気スポットの1つです」


「今度のデートに行ってみようよ」


 右肩にニッコリとりぼんが寄り添ってきた。


 宮原さんは話を続ける。


「その山の別名は神隠し山。

 昔、暮れなずむ頃に足を踏み入れると、

 天狗や狐にさらわれてしまうという言い伝えがあるのです。

 標的は主に子供と若い女性」


「りぼんも、

 その山に迷い込んで神隠しに遭ったとか?」


「神隠し説も視野に入れて置いても構わないでしょう。

 なにせ土筆坂先輩のことですから」


 俺と宮原さんは、ゆっくりとりぼんの顔を見つめた。


「若い女性だから、当てはまるのかもね」


 俺からしてみれば性格上、

 子供という部分も当てはまる。

 しかし神隠しとなると厄介だ。

 天狗と狐、念頭に置こう。


「神隠しのことは以上です。次は?」


「あとはりぼんが記憶喪失な件。

 なんで生前の記憶がぽっかりとないんだ? 

 記憶さえなければ一発で解決できるのに」


「突然ですが、登木先輩は死んだことがありますか?」


「ないに決まってるだろ。

 あ、でも、前世とかそういうたぐいならあるかもしれない」


「死ぬ瞬間って傍から見てどう思いますか?」


 ワケのわからない尋問が続く。


「やっぱり息ができないくらい苦しくて、

 全身に痛みがほとばしるくらいかな」


「では実験してみましょうか?」


 無表情のまま、宮原さんは俺の目先に乗り出してきた。


「ユウくん、こっちに来るの? 仲間だね」


 りぼんが悠長に手招く。


「じょ、冗談だよね?」


「もちろん冗談です」


 仏頂面のまま言い返されても信用できないのだが。


「死ぬ瞬間は見た目ではそう感じてもおかしくありません。

 凍死の瞬間は、身体の体温低下を防ぐために、

 熱生産性を高めて、

 皮膚血管収縮によって熱放散ねつほうさん抑制よくせいしますので、

 体内から温めようとする働きがあるのです。

 つまり、凍死の瞬間は猛烈に熱いみたいで、

 衣服を脱いでしまうと言われています」


「凍死以外は?」


「死に至る際は、

 ドーパミンというホルモンが分泌されるみたいです」


「それで?」


 急に宮原さんの顔がゆでダコのように赤くなった。


「死に至る際は、性行為の100倍から200倍分泌されるそうです」


 意外にウブなんだな。


「簡潔に説明すると、

 天に昇るほどの快楽を味わって死ぬってこと?」


「……下品です」


 例えが間違ってないはずなのに、軽蔑されてしまった。


「それと、りぼんの記憶がなくなったことはどう結びつくの?」


「厳密にはエピソード記憶がなくなったと言いましょう。

 完全に記憶がなかったら、言葉も話すこともできませんから」


 まあ確かに。


「これも私の憶測になりますが、

 土筆坂先輩が幽霊になったときに、

 大量のドーパミンが分泌され快感を得た。

 その瞬間にエピソード記憶が飛んでしまいましたが、

 何らかの未練が残り、

 この世をさまよっている。

 これで辻褄が合いませんか?」


「なるほど」

 仮説に過ぎないが、説得力はそれなりにあった。


「違うよ」


 黙って耳を傾けていたりぼんが口を開く。


「ユウくんのことも覚えていたもん」


「きっと未練の一部として残っていたのでしょう。

 他に聞きたいことはありませんか?」


「次はどうして俺にりぼんの姿が見えるのか? ってこと。

 別に生まれつき霊感があるわけじゃないし」


「登木先輩は、

 土筆坂先輩以外の幽霊を見たことはありますか?」


「そういえば、ないなぁ」


 するとりぼんが図々しく割り込んだ。


「ユウくんと私は赤い糸で結ばれているの。

 だから他の幽霊は見えなくていいの」


 根拠がなかった。

 俺は宮原さんの返事を待つ。


「その可能性も否定はできませんが、

 登木先輩の近くに霊感の強い方はいませんか?」


「うーん、聞いたことないな」


「霊感が強い人のそばにいると、

 霊感が宿ると言われてます。

 誰もが霊感を持っているらしいです。

 ただ単に強いか弱いかというだけで……。

 おふたりの出会いを教えてください」


「出会いねえ、あれは……」


 俺か話そうとした時りぼんが、


「はいはーい、私が言う。

 ユウくんとは小さい頃からの幼なじみで……」


「できれば、最近のでお願いします」


「あれは10日前くらいだったかな。

 夜に私が教室で外の景色に黄昏れていたときに、

 突然ユウくんが入ってきて、

 『見つけたぞりぼん。結婚しよう!』 

 って私の身体を抱きしめて、

 とろけるようなディープキスを交わし、

 そのまま仰向けに押し倒して、

 スカーフを外し、

 セーラー服を脱がして、

 2人生まれたままの姿になって」


「ウソつくんじゃねぇ、コノヤロー」


 さすがに堪忍袋の緒がブチンと切れた。


「……登木先輩」


 身体を震わせながら宮原さんは俺から距離を置いた。


「きゃっ、これ以上は放送コードに引っかかるから言えない」


 1秒でもりぼんに期待した俺がバカだった。


「本気にしないで」


「冗談です。改めて経緯いきさつを教えてください」


「簡単に説明すると、

 中2の妹が学校にケータイ忘れてきて、

 暗くなって俺が取りに行ったときに、

 りぼんに出会したてこと」


「私たちの間でも多少なり噂になっていました。

 部活帰りの子が教室に忘れ物を取りに向かったときに、

 『私はだあれ?』 

 っと記憶のない幽霊が出るって。

 答えを返すと黄泉国へ連れて行かれる話が。

 まともに答えてしまったのですね」


「学校に行く前に、

 交番寄ってその時に、

 行方不明のりぼんの写真見ちまったから。

 答えるべきではないって薄々わかっていたよ」


「ユウくんは悪くないよ!」


 りぼんが丸テーブルに両手を突いた。


「みんな逃げるからいけないんだよ。

 それなのに私の姿を見て悲鳴を上げたり、腰を抜かしたり……。

 もう、人を何だと思ってるんだよ!」


 自覚を持ってほしいんだが。


「仕方ないだろ。

 暗い校舎で幽霊を見たら誰だってビックリするわ」


「結論を申し上げます」


 宮原さんはコホンと咳払いをした。


「恐らく、登木先輩の霊感が強くなったわけではなく、

 土筆坂先輩の想いが強くなったのでしょう」


「つまり私にとってユウくんは、

 特別な存在になったってこと?」


 りぼんに向かって宮原さんは深く頷いた。


「やだぁ。

 私たち付き合って1週間くらいしか経ってないのに結婚するなんて。

 ユウくんたら気が早いんだから。

 でもユウくんだけなら私の全てを見せてア・ゲ・ル」


「……なあ、宮原さん。

 幽体に触れることってできねえか? 

 ハリセンで1発だけ頭を叩きたいヤツが隣にいるんだが」


「登木先輩も幽霊になれば触れるかと」


 片道切符の答えだった。

 俺に霊感が芽生えたなら、

 それはそれで特殊だから、

 かっこいいとちょっとだけ考えたりしたが……。

 次の質問に移ろう。


「これからりぼんのことを、

 知っている生徒に聞き込みしていこうと考えているんだが、

 まずはりぼんと宮原さんの関係を聞いておきたいんだ」


 この話はりぼんに尋ねてもムダなので、宮原さんに振った。


「私と土筆坂先輩は交友関係はありません。

 そもそも学年も1つ下なので」


「何組?」


「3組です」


 灯と同じクラスか。


「聞き込みは警戒してください。

 有力な情報が手に入る代わりに、

 もしかしたら犯人に遭遇することもあります」


「その辺は心得ているよ」


「それならいいのですが……。

 まずは外堀から埋めていくのはどうでしょう?」


「?」


「つまり土筆坂先輩の友人を把握しておいて、

 明らかに不審な言動を取った人物をマークする。

 基本の中の基本です」


「友人を把握するって言ったって、

 りぼんはくるくるパーだし、

 宮原さんは無関係だったし」


「土筆坂先輩の両親に頼んで、

 アルバムを見せてもらうのはどうでしょう? 

 きっと手がかりが掴めるはずです」


「なるほど、犯人でないがしろ、

 目撃者で口を割ってない人もいるはず。

 1度りぼんと一緒に家に行ってアルバムを見せてもらったんだけど、

 その時全部見せてもらえばよかったな」


 今となって後悔している。


「じゃあ、もう1度私の家に行くの?」


「抵抗あるけど行くしかねえな。ちょっと待てよ?」


 言い留まった。そして、

「俺が行くよりも、

 宮原さんが行った方が怪しまれずに済みそうだ」


「いえ、登木先輩が行くべきです。

 2回目ですので、ご両親の警戒心は薄いはずでしょう」


「そっかぁ」


「私はあくまでアドバイザーとして手を貸しているのです。

 それに土筆坂先輩の両親がシロとは限りません」


 シロって……。なんか刑事っぽいな。


「わかった、これから行ってみるよ」


「今度は役場で婚姻届貰っていこうね」


「りぼんも来るの?」


「当たり前だよ、

 私たちは熱い契りを交わした、

 ふたりでひとつの関係なんだから」


「いやだ、ここでおとなしくしてろ! 

 りぼんと一緒でまともなこと起きた試しがない」


「土筆坂先輩の家なので、

 連れて行くのは当然です。

 ふと思わぬところで記憶が蘇ることもありますので」


 そんな宮原さんは、

 りぼんの片棒を担いで机上のポテチを1枚頬張った。


「2対1でユウくんの負けー」


 勝利を確定して、

 アハハハハハハと下品に大笑いをするりぼん。


「わかったよ、

 でも今度はりぼんの部屋も見せてもらうからな。

 アルバム以外に写真があるかもしれないから」


「やだぁ、ヘアーを見せてもらうだなんて。

 ユウくんのエッチ!」


「お前の耳、どうかしてるぞ」


ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございます。

次話投稿は、2月10日の予定です。

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