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第五話

 登場人物紹介


 登木 勇太郎  ……青山吹高1年2組。ユウくん、ボリと呼ばれている。

 土筆坂 りぼん ……幽霊。下ネタ発言が多い。

 登木  灯   ……勇太郎の妹。恐がり、金の執着心が薄い。

 安嶋 大騎   ……勇太郎のクラスメイト男。いがぐり頭。

 若槻 妃織   ……勇太郎のクラスメイト女。ギャルっぽい。

 佐俣 啓悟   ……1年3組。男。ちょっとおかしい。

 喜多見 渚   ……1年4組。女。おとなしい。

 りぼんはいるだろうか? 

 そんな帰り道、俺の足は家に近づくにつれて徐々に重くなってきた。

 我が家に到着。

 2階の自室へ向かう。


「ユウくんおかえり。

 りぼんにする? 

 私にする? 

 それとも寝る?」


 まだいやがった。

 当たり前なら当たり前なんだが。

 おとなしく帰ってくれれば、

 こちらとして助かる。

 よし、奥義を使ってみるか。


 俺はりぼんをスルーして、机の上にバッグを置いた。


「ユウくんどうしたの? 聞いてる?」


 無視されたりぼんは、おどおど混乱している。

 これぞ必殺、シカト作戦。

 元々俺は霊感がない。

 見えなくて当然だった。


「なんで? 

 私の姿も声も聞こえないの? 

 ちょっとそれ変人だよ」


 断じて違う。

 お前の姿が見えるのが特殊なんだ。

 ケータイを取りだしてニュースをチェック。

 今日も田宝村は平和な1日だった。


「もう、ユウくんなんか知らない!」


 キレたようだ。

 よし、このまま壁をすり抜けて出て行ってくれ。

 椅子に腰掛けて、りぼんに背中を見せる。


「私、脱いでも凄いんだよ。あはーん」

 

 はあ、はあ、はあ、

 と、荒く息継ぎをしてりぼんが俺の耳横で誘惑してきた。

 チラリと横目で流すと、

 胸を両手で押し上げて胸元を強調している。

 我慢だ、ここは耐え抜いてこそ真の男ではないか。


「身体、火照ったちゃった。服、脱いじゃおっかなぁ?」

 

 リミッターを超えていた。

 耳元でささやいていたりぼんは、後ろのいる。

 振り向いたら負けだ。

 暗示をかけるように自分自身に言い聞かせる。


「ユウくん、聞こえてるくせに、このムッツリスケベ」


 残念なことに、

 知らず知らずのうちに、俺はりぼんの姿を追っていた。


卑怯ひきょうもの! 色気を武器に使いやがって」


「自分だって私の姿見えてるくせに、ウソついて!」


 ごもっとも。反論できない。


「わかった。

 俺が悪かった。

 部屋を守ってくれてありがとう。

 もう帰っていいぞ」


「ここ、私の家だもん」


「あのなぁ……」


 抱えるくらいに頭が痛くなってきた。

 このまま居座るつもりか?


「ユウくんだって嬉しいでしょ。

 1つ屋根の下で年頃の女の子と同棲できるんだから。

 こんなシチュエーション、

 一生に1度あるかないかなんだから」


 確かにそうだ。

 俺は今までモテたことがない。

 傍から見れば、この設定は美味しい。

 しかし相手は女の子であるいえ幽霊。

 四六時中一緒なのは、

 もはや呪いレベルだ。


「なあ、頼むから学校に帰ってくれ」


「ヤダ、あそこ私の家じゃないもん」


「じゃあ、家に帰ってくれ」


「私の家、知らないもん。

 ユウくんの名前以外憶えてないよ」


 説得しても無駄か。

 待てよ? その手があった。


「よし、今からりぼんの家に行こう」


「もうすぐ日が暮れるし、ヤダ」


「何か思い出すかも知れないだろ? 

 それに、りぼんは夜行性だし」


「私の家、知ってるの?」


「そ、それは……。

 交番に行けば教えてくれるって」


「ぶー。わかった。

 お巡りさんが知らないって言ったら帰ってくるからね」




 そして俺たちは昨日の交番へ寄った。


「ほら、ここに写真貼ってあるだろ?」


「うーん」

 りぼんはじっと目を凝らしている。

「これが私の顔?」


「そうだよ。わかんねえのかよ」


「だって今の姿、鏡に写らないし」


 確かに言われてみれば納得。


「上の上くらいの美人ね。

 四字熟語の美人薄命びじんはくめいって言葉あるし」


「なんでその言葉憶えているんだよ。

 上の上なんてランク、

 今まで生きてきた中で初めて聞いたぞ。

 少しは自分に遠慮しろ」


「君は確か、昨日のケータイの少年だよね?」


 俺がりぼんとじゃれ合っていると、

 そっと警官が様子をうかがっていた。


「はい、先日はどうも」


 咄嗟とっさに頭を下げる。


「ユウくん、知り合いなの?」


 りぼんが尋ねてくるが、ややこしくなるので無視。


「ところでケータイは見つかったかい?」


「おかげさまで見つかりました。

 ありがとうございます」


 再度頭を下げる。

 横ではりぼんが眉を吊り上げて、

「聞いてるの?」とご立腹りっぷく


「そうか、よかったね。

 意外に知らない人に拾われて、

 悪用されたケースに発展しなくて」


 灯のケータイのせいで、

 こっちは悪霊に取り憑かれたっていうのに。

 それはともかく、

 この際だからりぼんの情報を集めてみよう。


「あの、そこに掲示してある女の子って今でも行方不明ですか?」


「ああ、土筆坂りぼんちゃんね。

 うん、今も手がかりがないんだ。

 ちょうど1年前くらいかな、

 僕がこの村に赴任ふにんしたときに初めての事件だったからね。

 あの頃は村中で山の中やら捜索したの憶えているよ。

 ご両親もげっそり痩せちゃって。

 誘拐と殺人、両方の方向で捜索したいたんだけど、

 もしかしたら、神隠しに遭ったって噂も流れているんだ。

 彼女も14歳だがら、君と同じ歳になるんじゃないかな」


 なるほど、未だに行方不明か。

 でもここに本人の幽霊が隙間なくマークしている。

 つまり死亡している可能性は大。

 幽体離脱していることもあり得る。


「随分と熱心に聞いているようだけど、

 心当たりあるのかい?」


「ふえ?」


 不意打ちを喰らった俺は、甲高く変な声を出した。


「実は幼少期の頃に、

 この村に住んでいたんですけど、

 彼女と遊んだような気がして……。

 昨日偶然に、この名前と写真を見て、

 もしかしたらと思って、

 ちょっと覗いていたところなんです」


 俺にとってはうまい返し技だった。

 幼少期に出会ったことは定かではないが、

 辻褄つじつまが合うはず。

 本音を言わせてもらえれば、

 その本人に取り憑かれているので、

 なんとかしてくださいってことだった。

 でも下手すれば、

 白い目で見られてしまうかもしれないので、

 ここは伏せておく。


「すごーい。さすがペテン師」


 りぼんが小さく拍手している。

 頼むから俺の視界に入ってくるんじゃない。


「そうか。君も幼なじみに逢えなくて残念だね。

 わかるよ、その気持ち。

 僕は先月、隣の青山吹で街コンがあったんだけど、

 久々の女の子との会話で酒が弾んじゃって、

 その場でゲロ吐いて台無し。

 やっぱり調子に乗るのはよくないね。

 警官らしく謙虚に慎まないと」


 幼なじみのことと会話が繋がってないんだが。

 これ以上の情報は聞けそうもないな。


「土筆坂さんの住所、教えてもらえますか? 

 青山吹高に通っていますので、

 少しでも情報があれば協力できると思います」


「待ってて、地図調べて書いてくるから」



 俺とりぼんは紙切れの地図を片手に土筆坂家を目指していた。

 さっきの警官にゲロの話は内密にと背中を押されて。


「俺の家から200メートルってとこかな」


 りぼんに聞いたつもりだったのに、

 返事はなかった。

 さっき警官と話していたとき、

 無視したことに腹を立てているのか? 

 だってそれは仕方ないだろう。


「なあ、怒ってるのか?」


 尋ねてみるが、

 下を向いたまま俺の三歩先を、ふわふわと歩いている。


「状況が状況なんだから仕方ないだろ」


 りぼんの足はピタッと止まった。

 素早く振り向いて、


「ユウくん、私の気持ちわかってない! 

 謝るならちゃんと土下座して」


「ふざけんじゃねえよ! 

 俺はそこまでの罪は犯してねえだろ。

 あのなぁ、聖徳太子じゃねえんだから、

 いっぺんに話しかけられても返せるわけねえんだよ」


「わかんなーい。もっと簡潔かんけつに説明して」


「電話しているときに横から話しかけられたことねえのかよ。

 それと一緒なんだって」


「あっ、納得」

 ポンと素直に手を叩くりぼん。


「やっとわかってくれたか。

 だから俺が誰かと話しているときは、

 横から割り込まないでくれ」


「優先順位は私じゃないの?」


「傍から見たら、

 俺が独り言を呟いてると思って不気味じゃねえか? 

 こっちの信頼関係にも関わってくるんだよ。

 わかったか?」


「もう熱弁を振るわないでよ、

 唾が飛んできて汚ーい」


 こいつといると疲れる。

 もしかして一種の呪いなのか? 

 まあいい、りぼんの家に行けば俺から離れるに違いない。

 ん? 待てよ。


「なあ、りぼん」

 俺は一呼吸置いて冷静を取り戻した。

「家教えてやるから、後はひとりで行ってこい」


「なんで? 一緒に行こうぜ、

 シェケナベイビーって言ってくれたよね?」


「そんなロック調で言ったつもりはない、

 おまけにシェケナベイビーも言ってない。

 確かに言ったが、

 りぼんが両親にやっと対面できるって時に、

 俺の姿はいらないだろう。

 邪魔者はここで消えるしかないんだ」


「ユウくん……」


 りぼんは今にも泣きそうなに、

 顔をくしゃくしゃに歪ませている。


「私の両親に反対されるのが不安なんだね」


「はあ? 何ほざいてんだお前!」


「その気持ちすっごくわかるよ。

 私たちまだ未成年だし、

 結婚できる年齢でもないわけだし。

 でも反対されても私はユウくんの味方だよ。

 その時は駆け落ちしようよ。

 人里離れた小さな一軒家で貧しくても、

 手と手を取り合って愛を貫いていくの」


「俺たち濃密な関係じゃねえだろ! 

 ったく、

 そもそもりぼんの記憶があれば、

 今までのこと全て解決してんだぞ」


「ユウくんと一緒じゃダメだってば。

 私ひとりで家の中に入ったら、

 不法侵入で訴えられるんだから」


「俺の部屋は無許可で入ってるんじゃねえか、このヤロー」


「だ、だって、私たち他人のような気がしないし。

 きゃっ、恥ずかしい」


「……」


 話が進まねえ。

 ここはもう同行するしかないのか。


「ほら行くぞ」


「はーい」


「ここか……」


 そして俺たちは土筆坂家に着いた。

 門はないものの、

 庭は日本庭園のような造りで、

 松の木や灯籠とうろうがずっしりと構えている。

 家はかわらの2階立てて、

 豪華というよりも遺産的な建物だった。


「間違いないよ、ここに土筆坂って書いてあるし」


 りぼんが指したところは木の表札。

 その下にはインターホンがある。


 俺の指先が一寸先で止まった。

 押していいんだよな? 

 自問自答する。


「早く押してよ」


 俺の心とは裏腹に外野がうるさい。

 玄関のライトも付いているし、

 家の中も電気が付いている。

 誰かしらいるはずだ。


「ポチッとな」


 りぼんが合図を送った拍子に、

 誤って指先が動いてしまった。


「うわああ、心の準備が!」


 ピンポーンと数秒遅れにバタバタと足音が迫ってくる。


「はーい、どなたですか?」


 戸をガラガラと開けてくれたのは、

 小じわが目立つ女性。

 髪は後ろに1本束ねており、

 灰色のセーター、ロングのスカートで腰に白いエプロンを巻いている。

 りぼんの顔にどことなく似ている。

 母親だろう。


「別に怪しいものではないですよ、

 ただ道に迷って今晩だけ泊めてちょうだいな」


 さっきあれほど注意を促したのに、

 ずけずけとりぼんが口を挟んできた。


 そんな俺はりぼんを無視して、

「こんな時間にすみません。

 実は僕、りぼんさんの幼なじみで……」


 準備をしていなかったので、

 口がかみ合わなかった。

 予め警官の人にアポを取ってもらえばよかったよ。


「りぼん、りぼんを知っているのですか!」


 母親っぽい人は俺の肩をガッチリ掴んで必死に揺らした。


「すみません、知りません」


 あまりの威圧感で一歩引いてしまった。


「こちらこそすみません。

 早とちりをしてしまって。

 りぼんの母です。

 あの子が消息を絶ってから、

 もう1年になるもので……」


 気まずそうに俺の目線を避けて話す。


「急に押しかけてすみません。

 僕は登木と申します。

 小さい頃だけこの村に住んでいたんですけど、

 父の都合で引っ越していて、

 高校入学と同時にこの村に戻ってきたのです。

 先ほど交番の掲示板に、

 りぼんさんのことが載っていたので、

 警官の人に教えてもらって、つい、その」


「そうですか、

 りぼんの幼少期のお友達で……。

 もしかして勇太郎くん?」


 俺は射抜かれたようにビクンと肩を弾ませた。

 なんで下の名を?


「ビンゴー。ほら私の感、外れてなかってでしょ。

 ユウくんはユウくんなんだから」


 やかましくりぼんが叫ぶ。無視継続。

 

「立ち話もなんで上がってください」


 りぼんの母さんはニッコリ微笑んで俺を誘導しようとした。


「お言葉に甘えてお邪魔します」



 客間に案内された俺とりぼんはじっと座っていた。

 りぼんの母さんは、

 お茶を準備しているらしく席を外している。


「ところで感動のご対面だが、思い節はあったか?」


「ユウくんが許嫁だったてこと」


「幼なじみだろ。

 俺のことはいいんだよ、

 名前と苗字が被ってるだけで判明はしていないから」


「ぜーんぜん思い出せない。本当にここ私の家?」


 そんなことを言いながら、

 うつ伏せに寝そべって、

 ふわふわとだらしなく空中遊泳をしている。


 「とにかくこの家散策してこいよ。

 記憶の糸が繋がるかも知れないぞ」


「ヤダ、そう言って私のこと置いてとんずらするんでしょ?」


「しないって」


 その時ゆっくりと足音が近づいてきた。


「なるべく喋るなよ」


 りぼんに念を押して姿勢を整える。

 すると障子戸が静かに開いた。


「お持たせしまして、どうぞ」


 りぼんお母さんは茶色のお盆にオレンジジュースと湯飲み茶碗、

 そして色とりどりのクッキーの小皿を載せてきて配る。


「いいえ、長居しませんのでお構いなく」


 机を挟んでりぼんのお母さんは正座をする。


「美味しそう、まるで宝石の宝石箱や」


 浮遊していたりぼんもおとなしく俺の右横にちょこんと座る。

 ちょっとウザいが。

 さてとここからが問題だ。

 どうやって話を切り出そうか? 

 今日はあなたの娘さんが幽霊になって隣にいるんです、

 引き取ってください。


 ……って、バカ正直に伝えても相手にされないだろう。

 おろか、りぼんが生きていないことを示してしまう。

 かといって俺の幼少期の記憶は残ってないし、

 どうするべきか? 

 無意識にオレンジジュースに口を添えていた。


「そのオレンジ100パーセント? 

 私100パーのオレンジ苦手。

 やっぱオレンジはつぶつぶがないと」


 ウザい。

 俺はじっと横目で訴えた。

 黙々としたいた様子にりぼんの母さんは口を開いた。


「勇太朗くんは高校1年生?」


「はい、隣の青山吹高に電車で」


「そう。りぼんも今年そうなのね」


 泣き出しそうにどんよりと空気が重くなった。

 ヤバいな、かける言葉も見つからないぞ。

 ここは一旦、幕を引いて出直すしかないか。


「ごめんなさいね、おばさん空気悪くして」


「大丈夫です。

 その、あの、自分とりぼんさんは幼なじみの実感なくて……」


「そうそう、アルバムがあったわ。確かリビングに……」


 呟いて出ていてしまった。


「クッキー食べないの?」


「一応高校生だから、わきまえてるよ」


「残したら残したで失礼よ」


「うつ、確かに。

 それよりアルバム見たら引き上げるから、

 りぼんはこの家に残れよ」


「私とユウくんは赤い糸で繋がっているんだから、

 こんな辛気くさいところに残れるかぁ」


「自分の家じゃねえか。

 実の母とのご対面に何か思い出さねえのかよ」


「なにも」


 こ、こいつ。

 そんなこんなしているうちに、

 りぼんの母さんは白い表紙のアルバムを持って来て、

 俺の隣に座って広げた。


「ほら、これがりぼんの生まれたときの写真よ」


 その写真は赤ちゃんが、

 たらいのような湯船に浸って身体を洗ってる様子。


「きゃっ、これ私のヌードじゃない。

 ユウくんに見られたらお嫁に行けなーい」


 のんきだな、りぼんは。

 嫁に行かなくていいから天に帰ってくれ。


「そしてこの男の子かな、勇太朗くんは。

 毎日のように遊びに来ていたの」


 次の写真はランニング半ズボンのガキと、

 白いワンピース姿のりぼんが、

 肩を組んでピース写真をしている1枚。

 時期的には夏だろう。


「やっぱりピンときませんね」


「私もー」


 お前は少し努力してくれ。

 ぺらりぺらりとめくっていくと、

 入学式、運動会、学芸会、

 そして小学校卒業式など、

 俺の知らないりぼんが写っていた。

 

 次のページは白紙。

 まあ写真に撮って残すのも小学生の時くらいだろう。


「あれれ? 

 私のサービス水着写真がないよ。

 せっかく人気アップのチャンスなのに」


 色気のない小学生女子の水着写真なんて、

 サービスにもならんだろうが。

 俺目線だけど。


「りぼんはね、

 一人娘のりぼんはね、

 本当はりおんって付けるはずだったの」


 こっちが聞いてもいなにのに、

 りぼんの母さんはうつむいて喋り始めた。

 その声はどことなく所々鼻をすすっている。

 こういうの聞いちまうと同情するな。


「あの日、

 ちょっと出かけてくるって行ったきり戻らずじまいで……。

 引き留めていればこんなことに。

 村の人に協力して一斉捜索しても手がかりが見当たらなくて。

 母さんが原因だったら謝るから、

 お願い、戻ってきて」


 泣き叫んでいた。

 俺は何1つかける言葉見なくしばらく黙っていた。

 そしてりぼんも……。



 夕食と入浴を済ませ、

 布団の上でごろんと寝そべっていた。

 俺はどうしたらいいんだろう? 

 ぐるぐると頭の中で回っている。


「ねえ、ユウくん」


 窓辺に立っていたりぼんが疲れ気味に語りかける。


 「私……このままでいいのかぁ」


 母の涙が薬になったらしく覇気はきがない。


「そうだな」


 答えが見つからなかった。


「ユウくんと出会って私は学校から出ることができた。

 そしてお母さんが今も私の帰りを待っていることを知った。

 ……その問いに答えなくちゃいけないと思うんだ」


「でもそれは……」


 この前も考えたが、りぼんは死んでいる可能性が高い。


「現実を突き止めることが正解とは限らない」


「ううん、それは違うよ。

 ユウくんだって私が死んでいるってわかっているはずだよ。

 もし死んでいるってわかっているなら、

 お母さんも吹っ切れて前に進めるんじゃないの?」


「つまり何が言いたいんだ?」


「お願い、私の身体を探してほしいの。

 そうすれば母さんも安心するし、

 私も現実を受け入れられる」


 振り向いたりぼんは泣いてないものの、

 どことなく力強かった。

 その仕草に俺は上半身を起こす。


「探すていっても当時、

 村の大人たちで捜索したんだろ? 

 それを俺とりぼんで見つけられるのか?」


「やる前から諦めているの?」


 熱血教師みたいなセリフ吐いて。

 ここまで事情を知ってしまったら後には引けないだろ。


「わかった、やれることはやるよ」


「ユウくんだーいすき」


 ニッコリ微笑んで俺を抱きしようとするが、

 お約束通りすり抜けて布団の上に倒れた。


「ひどーい、私の愛を拒絶した」


「あのなぁ」


 いつものりぼんに戻ったけど、幸先思い知らされそう。



ここまでお付き合い頂き、ありがとうございます。


次話投稿の予定は、1月20日の予定です。

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