第四話
幽霊ものですが、ホラーではありません。
※この物語は、下ネタの成分を多く含んでおりますので、
抵抗のある方や、下ネタに対し不満のある方は、
申し訳ありませんが、ご遠慮頂くようお願いします。
ケータイのアラーム音が頭を駆け回る。
俺は手探りでケータイを見つけ、ボタンを押して解除した。
もう朝か。
目をこすりながら、ゆっくりと上半身を起こした。
「ユウくん、おはよう」
「おはよう、土筆坂」
「まだ寝ぼけているの? りぼんって呼んでよ」
「おはよう、りぼん。
……って、なんで俺の部屋に上がり込んでいるんだよ!」
天井に頭をぶつけるくらいに飛び起きた。
「あれから深く考えたんだけど、
ユウくんの制服って学ランじゃないよね?
昨日も不法侵入って口にしてたし。
ってことは、
私のことうまくはぐらかして、
会わないつもりでいたんでしょ?」
「ううう」
見透かされていたか。
いや、今考えるべきことはそこではない。
「お前こそ、俺の部屋に入ってきて不法侵入じゃねえか。
いつからいたんだよ?」
「この部屋の明かりが消えるのを待って入ってきたの。
夜這いってやつ?」
「夜這いじゃなくて呪いだよ!」
「男らしくないなぁ、細かいことは水に流して。
今日からここに住むことになりました、土筆坂りぼんです。
ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします」
「土筆坂りぼんです、じゃねえよ!」
「それって、改めまして登木りぼんです。
よろしくね、あなた」
「あほか! なんで昨日ばったり会った幽霊と、
俺が婚姻関係を結ばなくちゃいけないんだよ!」
「もうテレ屋さん、かわいい」
まずい、このままズルズル行ってしまう。
「勇太郎、ごはん食べなさい」
一階から母さんの声が。
やべえ、電車に乗り遅れる。
まずは着替えないと。
「きゃっ、ユウくんたら、純粋な乙女の前でパジャマを脱いで」
りぼんは恥ずかしそうに両手で顔を隠した。
だが、指のすき間からは、
きょろきょろと2つの目がこちらを睨んでいる。
「うるせえんだよ、
これから学校に行くから着替えるのに決まってんだろ」
普通ならひとりの部屋で着替えているのに、ヘンタイ扱いしやがって。
「電車乗り遅れる。飯食ってるヒマねえな」
「早く行こうよ、ユウくんの学校」
無邪気なりぼんのひと言で、俺の全身が凍り付いた。
こいつと一緒に学校行ったら、間違いなくストレスが加算する。
断固阻止せねば。
「それはできない」
「なんで? ユウくんと一緒にいられないの?」
「りぼんはここにいて、俺の部屋を守って欲しい。
実は俺が帰ってくると、この部屋が荒らされているんだ。
犯人の目星もつかない。
こんなことが出来るのはりぼん、お前にしか頼めないんだ」
「ユウくん……」
りぼんの目尻から柔らかな涙が一滴こぼれた。
もちろんウソ。
だがこうしないと俺の学校生活にひびが入ってしまう。
「わかった、私に任せて」
頼もしくも、ふくよかな胸を叩いた。
「よし、これより土筆坂りぼんを自宅警備員に任命する。
名に恥じないような行動を取ってくれ」
「うん、いってらっしゃーい」
放課後になり、教室内は俺と安嶋と妃織の3人だけになった。
「ボリ、部活考えてきた?」
安嶋がいそいそと俺の席にきた。
「まあね」
昨日は忙しかったものの、学校に着いてから思考を巡らせていた。
色々と候補を挙げている。
除霊部とか霊感部とか退魔部とか。
「一応行っておくけど、既にある部はダメだからね」
妃織もふらっと寄ってきた。
どうやらこだわりがあるようだ。
「でも1から部を立ち上げるのは大変だよね?
一掃のこと存在している部に入ればいいんじゃないの?」
「ヤダ。上下関係とかメンド臭いし。
アゴでこき使われるのも釈に会わない」
なるほどね。
妃織は和気あいあいとやりたいらしい。
「失礼します」
行儀よく入ってきたのは喜多見。
手にはランダムにハサミらしきもので切った紙の束を持っている。
「妃織ちゃん、作ってきたよ」
「サンキュー、渚だーいすき」
喜多見は俺の机の上にその紙をばらまいた。
つまりこの紙に部名を書いて抽選するってことか。
「後は佐俣だけね。ヤス、連絡取ってよ?」
「あいつには抽選箱の手配をしてもらってる。そろそろ来る頃だ」
佐俣にそんなことを頼んでいるなんて。
明らかに人選ミスだ。
「エブリバーディー。待ったかな?」
俺の耳を直撃したのは、噂をしていた佐俣の声だった。
こいつの声を聞くだけで頭痛がするような気がする。
すると安嶋が、
「例のブツは?」
「見てわからないのかい?」
そう言うと佐俣は、俺の机に抽選箱らしきものを置いた。
何かがおかしい。
ガラス張りで正面が丸見えだし、左右にぽっかり穴が開いている。
「おい、これってあれじゃねえか?
よくテレビでやってる手探りで中身を当てるやつ?」
「ノンノーン。細かいこと気にしちゃダメだよ。ハゲの元」
「これは坊主だって! 生徒会行って抽選箱借りてこいよ」
「だってさ、ボリくん」
ここで俺に振るか?
「この箱でも使えると思うよ。
ほら、縦にすれば片方の穴が塞がるし」
「ナイスアイディア!」と佐俣。
誰でも浮かび上がるようなアイディアなんだが。
「まいっか。時間の無駄だからみんなで紙に書いて投稿しようぜ」
安嶋は箱を退かして紙を配る。
「ボリ、書くもの貸して。5人分」
妃織が手を伸ばすと、
俺はペンケースを出してシャーペンとボールペンを2つ、
もうひとつマジックを出した。
「ありがと。これって何個でもいいよね?」
「ああいいよ、出来るだけ書いてくれ」
安嶋はボールペンを受けてると、隠すように窓際の席へ行った。
それに釣られて妃織も喜多見も散らばった。
よりによって、佐俣は俺の隣の席で書き始める。
気が障るが、ペン先に集中して書くことに。
「みんな終わったか?」
10分くらい経過しただろうか、
安嶋が立ち上がり、俺の前の席に置いてある箱の前に来た。
そして俺たちから2つ折りの紙を回収すると、
箱の中に入れて上下左右に振ってシャッフルする。
「で、誰が引くの?」と妃織。
「ジャンケンで勝ったやつにするか」
個人的には、佐俣以外誰でもいいんだが。
ジャンケンが行われた結果、
「やはり僕か……」
残念なことに佐俣だった。
「佐俣かよ」
落ち込む妃織。俺と同意見らしい。
「勝利の女神に見放された、若槻くんが悪いのだよ」
いちいち鼻に触るやつだな、早くしてくれ。
佐俣はゆっくりと右手を箱の中に入れてかき回した。
「しえやぁ!」
奇声を発して1枚の紙をもぎ取る。
「何って書いてある?」
ゴクンと息を呑む安嶋。
「ミステリー研究部」
個人的に喜んでいいのか、判断に困る。
「うん、いんじゃね。ミステリー研究部」
安嶋は納得した。
「あたしもいいよ」と妃織。
その横で喜多見も頷く。
3人が賛成か。
「ボリさんは?」
喜多見が俺の顔を覗いた。
「うんいいよ、みんなと一緒だったら楽しそうだし」
「フッ、僕は反対だね」
抽選した佐俣が言った。
「なんでそこまでして、
貴重な放課後を費やさなければいけないのかね」
凄いな、俺たち4人が賛成してるのに、ねじ曲げる気か。
「自分が引いたくせに、反対すんじゃねえよ!」
さすがの妃織もキレた。
「だから僕は美形部を……」
落ち込んでしまった。
そこまで美を追究したかったのか?
無駄な争いは避けたい。
ここはフォローするしかなさそうだ。
「なあ佐俣、美というのも大きく括れば、
ミステリーじゃないのかな。
だって個人的な感性も加わっているわけだから。
だから落ち込まないでよ」
「ボリくん、モブ的存在にもかかわらず、
ナイスな発言をするではないか。
そこまでゴリ押しするなら、
ミステリー研究部を立てよう。
そして部長も引き受けよう」
やってしまった。
佐俣のポジティブ思考がオーバーランしちまったよ。
「佐俣が部長やってくれるの? ラッキー」
安嶋は歓喜の声を上げる。
一方で妃織は、
「こいつが仕切るの? 渚でいいじゃん」
喜多見押しだった。
「私は……佐俣くんで……」
喜多見はまとめるのに自信がなく謙虚だった。
「反対は若槻くんだけか。多数決で部長の座は決まりだね」
俺も賛成はしていないのだが。
「わかった、もう佐俣でいいよ。ねえ、今日はもう帰ろうよ」
「ではまた明日ということで」
「明日は土曜日だってば。また来週にしようよ。
請とか、顧問とか、部室とか」
「そろそろ、電車来るから片付けてズラかろうぜ」
結局この日は、解散することになった。
ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございます。
次回の掲載は、1月13日21時の予定です。