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第二話

 幽霊ものですが、ホラーではありません。


 ※この物語は、下ネタの成分を多く含んでおりますので、

 抵抗のある方や、下ネタに対し不満のある方は、

 申し訳ありませんが、ご遠慮頂くようお願いします。


 駅でみんなと別れた俺は、ひたすら家路を歩いていた。


 紫色むらさきいろに染まった夕空ゆうぞら

 夕暮れ時もあって、学生やスーツ姿の大人たちとすれ違う。

 だが、以前住んでいた街と比べるとそうでもない。

 爽やかさを感じる。

 やはり人口密度のせいだろうか。

 そんな毒にも薬にもならないこと考えているうちに我が家へ到着。


「ただいまー」

 と同時に飛び込んできたのは、血相けっそうを変えた灯の姿。


「あにき、あたしのケータイ知らない?」


「知らない」


 靴を脱いで行儀ぎょうぎよくそろえ、素通すどおりすると、


「無いんだよ、無くしたんだよ、どうしよう?」


「探せ」


「探しても無いから困ってるの! 

 かばんの中も、部屋中も。

 もうケータイないと生きていけない」


 大げさなヤツだな。


「学校に忘れてきたんじゃねえの? 諦めろ」


「そうだ! 1回鳴らしてみてよ」


 俺は内ポケットからケータイを抜いて、

 ブオーンブオーンと上下に振った。


「あほ! あたしの電話番号をコールしろって言ってんの! 原始人か」


 冗談のつもりでやったのだが、

 真面目にキレられると言い返せなかった。

 しぶしぶ俺は電話帳を開き、灯にコール。


 耳を澄ますと、

「お客さまのおかけになった電話番号は電源が切られているか、

 電波が届かない場所に……」


 どうやら不可抗力ふかこうりょくだった。


つなががらないぞ」


「マジで! ったく使えないあにきだこと。

 学校に取りに行くしかないか」


 今、一瞬ムカッときたんだが。


「そっか、早く帰ってこいよ」


 再びケータイを内ポケットに収めた俺は、灯の前を通過する。


「ひょっとして、あたしに行けって言ってんの?」


「自分で行くって宣言しただろ」


「付き添ってくれないの?」


「当たり前だ。今年から中2だろ。

 自分の発言に責任を持て」


「その言葉、そっくり政治家に言ってよ」


「だって俺、田宝中たほうちゅうの場所知らないし」


「お願い! 一生のお願い! 

 あにきの嫌いなハンバーグ、代わりに食べてあげるから」


「むしろ好物だ。

 こっちは長旅で疲れているんだよ。

 別に明日でもいいだろ。

 一晩ひとばんケータイないだけで死ぬわけじゃないんだから」


「あにきのバカぁー」


 急にしゃがみ込んだ灯は、

 幼稚園児に負けないくらいの大きな声で泣きじゃくった。

 マジかよ、勘弁してくれよ。


「わかった、付き添ってやるから道案内みちあんないしてくれ」


「ホント? ラッキー! 

 ウソついたら針千本飲ますからね」


 ケロッと立ち上がった灯は、

 ニッコリ笑って嬉しそうにジャンプをした。


 お前が針千本飲めよ。


 結局俺は、灯のナビで中学校に行くことに。


 灯情報によると、家には母さんも父さんも買い物で留守らしい。

 6時を回っていたので母さんにメールを入れておいた。



「あと、どのくらいかかるんだよ?」


「んっと、20分くらい」


 耳にしただけで足が棒になりそうだった。

 俺とは裏腹うらはらに、灯は元気に三歩先を歩いている。


 正直、学校に忘れてきた保証はあるのか? 

 もしそれで当てが外れたら、

 下校ルートの捜索そうさくになりかねない。


「なあ灯」

 俺は引き留めた。

「その先にあるの交番だよな。

 もしかして落とし物で届いている可能性あり得ねえか?」


「ないない、あたし几帳面きちょうめんだし」


 現状げんじょうと灯の発言に大きなズレが生じていた。


「一応聞いてみろよ、もしあったらここで引き返せるんだぞ」


「あにきは母校に行きたくないの?」


「俺は田宝中卒じゃあねんだぞ。早く行ってこいよ」


 ぐずっている灯に大声を飛ばす。

 警官に抵抗があるのは仕方がない。

 俺も同じ。

 でもこちらは別に悪いことをしていない。

 落とし物くらい尋ねるのは容易たやすいはずだ。

 灯がこの先、生きていく上できっと糧になる。


「一緒のお願い、パンツ見せてあげるから」


 灯は俺の前で手と手を合わせて必死におがみ倒そうとしている。


「仕方ねえな、待ってろ」


 ここで油を売っているわけにはいかない俺は、

 灯を置き去りに交番の入り口に顔を出した。


 間違ってもパンツに釣られたわけではない。


「すみません、落とし物見せてくれませんか?」


 椅子いすに座って書類らしきものに目を通している、

 若い警官がこちらを向いた。


具体的ぐたいてきには?」


「ケータイ電話です」


「ちょっと待っててね」


 すると警官は立ち上がり、

 奥の部屋へ歩いて行ってしまった。

 待っている時間つぶしにと、

 交番前の掲示物けいじぶつに目を通すことに。


 人相が悪い男の写真がずらりと並んでいる。

 指名手配犯のものだ。

 もちろん心当たりはない。


 するとその横で尋ね人の写真が。

 中学3年生で身長は150くらい。

 髪は茶色のセミロング。

 白のヘアバンドをしている。


 名前は土筆坂つくしざかりぼん。

 もちろん見覚えがない。


 りぼんって珍しい名前だな。

 見方みかたによっては外国人と思われても仕方ないだろう。


「あー、そこの君。

 届いているの全部持って来たから、確認してくれないか?」


 交番の中から呼び声が。

 軽く礼をして入ると、

 机の上にダンボール箱にぎっしりケータイ電話が詰まっていた。


 無造作むぞうさにふたつ手に取ってみる。

 右手にはシルバーの折りたたみ式のケータイ。

 左には手のひらくらいの黒のスマホ。


「この手の落とし物、意外に多いんだよ。

 持ち主を確認しようと電源を入れてもロックがかかっているから。

 まあ個人情報こじんじょうほうだから見るに見えないんだけどね」


 警官は俺のかたわららでふうーっと息を吐く。

 幸せが1つ逃げたな。


 それはさておき、

 この中から灯のケータイを探さなければ。

 しかし結構な台数。

 今日1日でこんなに届け出があったのか? 


 ふと考えた俺は、大きな過ちに遭遇そうぐうした。

 灯は昨日、ケータイを所持していたはず。

 ってことは……。


「この量って今日1日のじゃないですよね?」


大分前だいぶまえのもあるよ。

 今日はケータイの落とし物は来てないね」


「すみませんでした。

 実は今日無くしたのを探していたのです」


「まあそれなら君のほうでも、もう1度探してみてよ。

 もし見つからなかったら、

 明日交番に来て届出とどけでがあるか確認しても構わないし」


「はい、お手数かけてすみません」


 ペコペコと頭を下げて交番を出る。


「あった?」せかせかと灯が寄ってきた。


「今日の届出とどけではないって」


「だから無駄足むだあしって言ったじゃない、早く学校行くよ」


 なんかに落ちないんだが。



 そんなこんなで俺たちは、田宝中たほうちゅうの校門まで辿り着いた。


「ラッキー、開いてるじゃん」


 確かに校門は開いていた。

 明かりも所々付いているので、

 校内に生徒が残っていそうな気がする。


 だが時刻は7時近く迫っているので、あたりは暗い。

 まるで街外れの古い洋館のようだ。


 俺と灯が昇降口へ着くと、

 ガラス戸は半開きで、ホタルのような淡い色の蛍光灯が点灯している。


「あたし、ここで待っているから」


 灯が天地てんちをひっくり返すような、

 トンデモ発言をぶちかましてきた。


「じゃあ誰が取りに行くんだよ?」


「あにき」


「アホか。俺はここの生徒じゃねえんだって。

 部外者なんだぞ。

 それに灯のクラスの場所もわからないし。

 少し考えればわかることだろうが」


「大丈夫だって、校舎の中は真っ暗だから、

 しばらくしてれば視界しかいも慣れてくるって。

 もし誰かに見つかったら、

 あたしが全力でフォローするから。ね?」


 こいつ……。全部俺にやらせるつもりでいるな。


「わかったよ、行ってくるからクラスの場所教えろよ」


「プレートに2年3組って書いてあるのが、

 あたしのクラスだから」


「帰る」


「冗談だってば。北校舎の3階。

 ここは南校舎の昇降口だから、あっちね。

 ほら早く、ダッシュ!」


 無駄にかす灯を尻目しりめに、

 靴を脱いでしぶしぶ校舎に足を入れた。


 1階の廊下と上り階段に差しかかる。

 夜のとばりが降りているせいで真っ暗だった。


 さてと、どのルートを進もうか?


 田宝中は北と南に別れている。

 上空から見た感じたと、

 恐らくアルファベットのHみたいな形をしているのだろう。


 つまり1階は職員室がある。

 ここから3階に上がり、

 中央廊下ちゅうおうろうかを経由して2年3組の教室へ。


 一番その考えがしっくりくる。


 策がまとまった俺は迷わず三階へ。

 そして北校舎へ続く中央廊下を見つめる。


 暗いというか不気味だった。

 壁際にスイッチがあるものの、

 点けるわけにはいかない。

 震える足に力を加えて進むことに。


 中央廊下を難なく渡り北校舎へ。

 途中とちゅう3つか4つくらい教室があったが、

 何の教室だが憶えていない。


 左右の分かれ道。

 3組はどっちだ? きょろきょろ見渡す。

 ん? 後ろから冷たい視線が。

 パッと振り向く。

 気のせいか。

 改めて見渡すと2年3組のプレートを発見。

 左手を曲がり教室へ入る。


「さて、灯の席は……」


 ここに来て本日2回目の重大なミスを犯してしまった。

 灯の席を聞くのを忘れていた。

 なんてこった。

 ケータイがあるが灯に連絡は取れない。

 本当に21世紀なのか?


 ここは頭を巧みに使うしかない。


 始業式から一週間あまり経過。

 席順は、アイウエオ順となる。

 俺の今の席から推理すると、真ん中の後ろから2番目。


 だが、灯は生物学的上せいぶつがくてきじょうに女と認識しているから、

 その左隣の列が濃厚のうこうにらんだ。


 ここからはしらみつぶし作戦。


 俺は後ろの席から順番に机の中を拝借させてもらうことに。

 もちろんアポなし。


 「失礼します」


 一応声に出して覗く。

 机の中は教科書で埋め尽くされていた。

 こいつはきっと勉強しないタイプだ。

 そんなことはどうでもいい。

 ケータイらしきものはない。

 ハズレだった。


 次に前の席。

 こいつの少なからず教科書が積んであった。


 待てよ? 

 俺はふと立ち止まった。


 教科書ならともかくノートだったら、

 名前くらい書いてあるんじゃないか?

 今頃になって頭が冴えるなんて。


 俺は机の中にあった教科書類をドサッと上に載せた。

 そして一冊のノートを発見。

 表紙には名前がない。

 中身は興味ないが、ペラペラとめくる。


 進級と同時に買い換えたらしく、

 1ページ目くらいにしか書いていなかった。

 続いて裏。

 あった、あったよ。

 持ち主は日森雫ひもりしずく

 名前から連想すると清楚せいそなイメージの女の子だ。

 ワガママ灯も見習ってもらいたい。


 それはさておき、俺の推理はニアピンものだった。

 ありがとう日森ひもりさん。


 ってことは、この前の席か前の席が灯となる。

 まさかこの先は行が続いて、

 灯が廊下側の一番前ってことはないだろう?


 疑念を振り払って、前の席の机の中を覗いた。

 右半分に教科書がぎっしり詰まっており、左半分は空白。

 いたかたく手を突っ込んで調べる。


 すると掴んだものはピンクパールのケータイ。

 灯が使っていたヤツだ。


「あったよ」


 歓喜かんきのあまり、

 ホッと一息つくと不思議と口角をあげて声を出さずに笑った。

 帰ろう、こんな不気味な場所とはおさらばだぜ。


 教室を出ようとし、

 ドアへ向かうと一陣の冷たい風が吹いた。

 窓って開いてなかったよな? 

 ふと振り向くと月明かりをバックに、

 セーラー服の女の子が立っていた。


ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございます。


次話投稿日は、12月23日21時の予定です。

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