第一話
幽霊ものですが、ホラーではありません。
※この物語は、下ネタの成分を多く含んでおりますので、
抵抗のある方や、下ネタに対し不満のある方は、
申し訳ありませんが、ご遠慮頂くようお願いします。
入学式を終えて、
晴れて俺も青山吹高校の生徒として受け入れられた。
教室に集まると先生の自己紹介が始まる。
「一年二組、担任の和栗 弥子と申します。
担当教科は家庭科で……」
かしこまって耳を傾けていた。
きょろきょろと目を動かしても知らない顔が並ぶばかり。
思っていた以上に不安が募る。
プラスに考えれば新しい友達ができる。
さておき、今日は授業もなく解散することになった。
それから1週間が経過。
各々グループというものが成立ってきた。
やはり中学や地元のつるみもあるだろう。
そんな俺は未だに輪の中に入れずひとりぼっち。
うーん、中学の時はこんな苦労はしなかったはずなんだが。
わからなかった。
人と人が仲良くなるきっかけが。
そう感じながらホームルームが終わり、
バッグの中に教科書を詰め込んでいると、
「おーい、えっと確か……」
俺の肩を後ろからポンと叩いた何者かが、くるりと正面に回った。
手のひらは広く、
髪型は野球少年のように坊主。
ガッチリとしたスポーツタイプと見た。
「登木だけど……」
先手を打って名乗っておく。
ひょっとしてカツアゲだろうか?
心臓が急速に高鳴ってきた。
「そう警戒すんなよ、
ずっと話しかけようかと迷ってたんだけどさぁ、
ところでどこ中?」
ここで『アル中』と答えたら笑いが取れるだろうか。
もちろん言ってもわからないので、
抽象的にぼやかすことにした。
「実は引っ越してきたから、ここら辺の中学じゃないんだ」
「青山吹に?」
「ううん、隣の田宝村」
「まじで? 俺、田宝中なんだぜ。
同じとこ住んでんだったら気軽に声かけてくれよ」
まるで希望に満ちあふれた少年のように、
目をキラキラと輝かせていた。
「自己紹介遅れちまったな。俺の名前は……」
「ヤス、話着いた?」
すると後ろからケータイ片手にオフホワイトのベストを着た女子が、
呼びながらこちらに向かってきた。
髪は茶色でウェーブがかかっており、細身。
いわゆるギャルっぽい。
だが、俺は中学の時もこういうタイプの女子は、
見慣れているので動揺はしなかった。
「今交渉中。ジャマすんなよ。
話折って悪かったな。
俺の名前は安嶋大騎。
まあよろしくな」
「こちらこそ、安嶋くん」
「くん、なんて付けるなよ。
背筋がむずむずする。
呼び捨てでいいからさあ、
安嶋でも大騎でも。
ほら、お前も自己紹介しろよ」
安嶋は右隣に来た女子にちょっかいを出してきた。
「あたしは若槻妃織。
よろしくね。
妃織ってフレンドリーに呼んで構わないから」
ここは改まって自己紹介しておくべきだな。
「俺も。登木勇太郎。
呼び名はどっちでもいいよ」
「じゃあ勇太郎って呼ばせてもらおうかな。
せっかくこうして意気投合できたし」
名前で来たか。大騎って呼ばないと釣り合わないかな?
「勇太郎に言うたろ、だって。ぷっ、おっかしい」
若槻妃織は膝を叩きながらゲラゲラとひとり笑いを出した。
おい、人の名前で笑うのは失礼だろ。
「あたしはどうしよっかなぁ。
登木ってのも固いし。
あだ名って中学ン時になかった?」
「一応あったけど……」
もちろんあったが、
あまり口にしたくなかった。
若槻は一文字に口を閉じたまま、
じっとこちらを見ている。
言わないと先に進めなさそうだ。
「中学の時は、ボリって呼ばれてたよ」
「由来は?」
「ノボリギの、ノとギを取ってボリ」
「ぷっ、おっかしいー」
今度は俺の机を必死に叩きながら下品に笑い出した。
そんなにおかしいか?
中学のあだ名のレベルってそんなもんだろう。
願わくば俺の目の届かないところで笑って欲しかった。
「ごめんごめん。
お言葉に甘えてボリって呼ばせてもらうわ、よろしく。
あたしは妃織でいいよ」
「うん、よろしく」
自己紹介ってこんなに長いのか?
さておき本題に入らないと。
俺に声をかけてくるなんて、
裏があるほかに何も浮かばない。
魂胆が丸見えなんだよ。
切り出してみるか。
「ところで話は変わるけど……」
安嶋のほうから言ってきた。
「実は俺たち部活を立ち上げようと思っていたんだ。
そうして寂しそうに青春を送っている、
ボリを誘ってみただけ」
なるほどね。ただ単に頭数にしていただけか。
「ボリは中学の時、なんか入ってた?」
妃織が俺の目と鼻の先まで詰め寄ってきた。
薄いファンデーションの匂いに耐えきれず、
顔を反らしてしまった。
「中学は読書部に入っていたよ。
友達のコネなんだけど」
「これは脈アリ、部活入る予定ある?」
「ないよ」
「じゃあ決まりね」
おい、拒否権はねえのかよ。
そんな俺は安嶋の体格を見て妃織に言った。
「運動系はちょっと」
「その辺は大丈夫。あたしも苦手だし」
なにかおかしい。部活の名前が見えてこないんだが。
「ところで部活って?」
「まだ決めてないよ」
「決めてないのに勧誘しようとしてるの?
そもそも部員って一般的に、
5人集まらないと認めてもらえないよね?」
「頭数は気にしなくていいよ。
ボリが最後の1人だから」
教室内は俺と安嶋と妃織を含めて3人。
あとふたり、どこにかくれているんだ?
もしかして俺に見えない何かなのか?
それとも雲隠れしている忍者なのか?
状況が掴めず、
頭の糸をほどいていると安嶋が妃織に、
「あいつら呼んできてもいいんじゃね?」
「わかった」と妃織はケータイを持って華麗に指を捌く。
メールかラインをしているらしい。
「一応送っといたから、すぐに来ると思うよ」
そして目の前の席の椅子を引いて座る。
安嶋はその右横の椅子を。
「ふふふ、僕を呼んだのはキミかね?」
背筋が凍るほどの不気味な声を辿ってみると、
教室の後ろのドアにもたれた男子生徒が笑っていた。
口には一輪の赤いバラを咥えている。
今にもルンバを踊りそうな勢いのヤツだった。
「早く来いよ」
安嶋が叫ぶと、大股でジャンプして着地と同時にくるくると、
アイススケート選手のようにつま先を立てて回転した。
「おーほーしーさーま、くーらーくら」
ペース配分がわからないらしく、
目をくるくると回している。
俺は肌で感じた。
こいつはヤバい。
「君か、新しい親友は。
友情の印にこの赤いバラを授けよう」
「いらねーよ」
必死の拒絶反応も空しく、
そいつはブレザーの胸元に丁寧にバラをくくりつける。
「佐俣、自己紹介して」
この寒い展開に目もくれずに、
妃織はケータイとにらめっこをしている。
「僕の名前は佐俣啓悟。
サマタケイゴとフルネームで呼んでくれ」
面倒くさい。
「えっと俺は、登木勇太郎。よろしく」
あまり関わりたくないが、乗りかかった船。
もはや後には引けない。
「登木くんと呼ばせてもらおう。
ところで君は僕のことナルシストだと思ってないかい?」
「いや、そんなことは……」
むしろ変質者だと思ってるよ。
「謙遜しなくていいよ、
僕は自分のこと醜いと思っている。
なぜなら目に映る物、全てが美しいからだ!」
「ははは……」笑うしかなかった。
「なあこいつ、面白いだろ?」
少年のようにはにかんだ笑顔で安嶋が言った。
わかってるんだったら、事前に告知してくれよ。
これで4人目か。
俺が最後のひとりだから、もうひとりいるはずだ。
「佐俣くん、あとひとりはどんな人?」
「ノーンノン。佐俣くんなんて水くさいな。
フルネームで呼んでくれって忠告したはずだよ」
佐俣は俺の後ろから首に手を回してギュッと抱きしめてきた。
うげぇ、気持ち悪りぃ。
こんなのがもう1匹いたら、マジで入部考えるぞ。
「もうひとりは4組の渚って子。
佐俣と違って普通だから心配しないで」
妃織が指を休めて言った。
「ちなみに僕、3組なんだ。
登木くんと一緒のクラスになりたかったなぁ。
運命って皮肉だよね。
でも障害があればあるほど、
燃えさかる愛もあるんだよ。
ソースは僕、佐俣」
そっと息を吹きかけるように甘く囁いた。
いや、お前と会話してないし、クラスも聞いてない。
「あの、失礼します」
ペコリと挨拶をしてきたのは、
ショートカットで小柄な女子だった。
佐俣に触れていたせいか、
逆におとなしそうな女の子で、
腰を抜かすほどびっくり。
「渚くん、君という人は僕たちを待たせて、
謝罪にひとつもないのかね。
そもそも……」
俺の首筋から手を解いた佐俣は、
クールに前髪をかき分けて、
ぶつぶつと説教らしき物を垂れ流す。
「渚、こっちおいで」
ケータイを机に捨てた妃織は、目の色を輝かせて手招きをする。
「はい、妃織ちゃん」
「んー、カワイイ」
妃織は渚って子の頭をくしゃくしゃに掻き撫でる。
なんでだろう、実に睦まじき光景だ。
「あっけらかーんと見つめて、登木くんもしてほしいのかね?」
俺の目先に顔を出してきたのは佐俣だった。
えっ? 俺、やるほうなの?
っていうか、佐俣とだったら、
やるほうもやられるほうも嫌なんだけど。
「そうそう、自己紹介して」
俺と渚って子の間を割って入ってきたのは妃織だった。
「初めまして、4組の喜多見 渚です」
「俺はこのクラスの登木勇太郎。よろしく」
礼儀正しく、おとなしそうな子だった。
佐俣と足して2で割れば、バランスが取れるはずだ。
「よろしくお願いします。登木さん」
「ボリって呼んであげて」
見かねた妃織が言った。
それはこっちのセリフだろ。
「えっと、失礼してボリさん」
勢いよく頭を下げる。今更いっか。
「改めてよろしく喜多見さん」
「私は呼び捨てで、構いません」
「……」
このやり取り、無駄に疲れるな。
「僕もそう呼ばせてもらおう、
我が心の友、ボリくん」
変なのがしゃしゃり出てきた。
「よっしゃあ、部員もそろったし、
なんの部活にするか決めねえと」
さっきまで黙りこくっていた安嶋は、
エネルギッシュに立ち上がると、
円を作れと言わんばかりに手招きをした。
本来なら部活動を立ち上げてから部員を集めるのが先決だが、
もはやこれはこれでアリになってきた。
「おーい、なんがやりたいのないか?」
安嶋の発言に左隣の喜多見を見つめると、
目が合った瞬間に妃織の背中に隠れてしまった。
「どうやら僕の出番だね」
冷気のように入ってきたのは佐俣。
出会ってから1時間も経ってないが、
嫌な感じしかしてこない。
「美形部はどうかね?
外見と内面、両方の美を追究する部活」
「却下」
妃織が言った。
魚が死んだような目で。
食い下がらない佐俣。
「選定の理由は、僕は運動も勉強もできない。
おまけにカッコよくないの三拍子。
だが、ボリくんを見てふと感じたんだ。
勉強も運動もできないくせに、
女の子にはモテモテ。
きっとこれには正しく美が隠されているんだ。
だから人類が成し遂げられなかった美を、
追究しなくてはいけないのだ」
初対面の佐俣にずけずけ言われるのは腑に落ちないが、
1つ否定する。
俺はモテないぞ。
「ボリってモテるの?」
流せばいいものの、安嶋が食いついてきた。
「バレンタインデーのチョコは、
母さんと妹にしかもらったことがない」
「すげえな、俺なんか母ちゃんにもらったことないぞ」
本題はそこじゃないだろ、こいつらすぐに話を脱線するな。
「ボ、ボリくんに妹がいたとは……」
膝をガクンと落として嘆く佐俣。
そんなことで絶望するなよ。
「とにかく、あたしはヤダからね」
妃織の目つきと声が一層冷たくなった。
その一言で機敏に立ち上がった佐俣は、
「僕の意見を否定するくらいなら、
何か良案を出してくれたまえ」
「楽な部活」
「抽象的、実に抽象的過ぎるよ」
「んなこと言ったって、わかんないもん」
また足止めを喰らってしまった。
ここまで来ると、無理して部活作る意味ってあるのか?
「あのう……」すると喜多見がもじもじと手を挙げる。
「今日一日、各々で考えて明日の放課後に意見をまとめるのはどうでしょう?」
確かに。時間をもらえば俺だって1つくらい浮かぶはず。
「そーすっか。
別に今日明日って話じゃねえから。
みんな解散、って同じ電車だもんな」
どうやら佐俣も喜多見も田宝村から通学しているらしい。
それもそうだな、安嶋たちと仲良すぎる。
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