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第十八話

 登場人物紹介


 登木 勇太郎  ……青山吹高1年2組。ユウくん、ボリと呼ばれている。

 土筆坂 りぼん ……幽霊。下ネタ発言が多い。

 登木  灯   ……勇太郎の妹。中学生。恐がり、金の執着心が薄い。

 宮原 玲羅   ……中学生。霊感少女。

 安嶋 大騎   ……勇太郎のクラスメイト男。園芸部。いがぐり頭。

 若槻 妃織   ……勇太郎のクラスメイト女。園芸部。ギャルっぽい。

 佐俣 啓悟   ……1年3組。男。園芸部。ちょっとおかしい。

 喜多見 渚   ……1年4組。女。園芸部。おとなしい。

「あにき起きたよ」


 ここはどこだろう? 

 きゃんきゃんと聞き覚えのある声に反応してそっと目を開けた。

 白い天井、硬いベッド、柔らかい布団。

そして鼻を刺すような消毒液の臭い。

 ……病院?


「勇太郎、よかった」


 涙ぐむ母さんが俺の上半身を抱きしめた。


「痛い」


「ごめんなさい」


 身体に電気が走る。


「心配かけやがって」


 父さんが背中を向けている。状況が全く掴めなかった。


「意識が戻ったようなので、今は安静にしておきましょう」


 白髪交じりの白衣の医者はそう告げた。要するに俺は生きているんだ。


「勇太郎、大丈夫?」


 母さんが再び覗き込んだ。


「うん、ちょっと上半身起こして」


 母さんは優しく身体を持ち上げた。

 病室には父さん、母さん、灯に医者と看護婦、

 そして隅に、りぼんが下を向いていた。


「ここは?」


「青山吹の病院よ。勇太郎が崖から落ちたって、

通報があって救急車で運ばれてきたの」



「……うん」


 あまり実感なかった。

 それにしても身動きしづらい。

 両腕と上半身にぐるぐると包帯が巻かれている。

 まるで矯正きょうせいギブスをしているようだ。


「他のみんなは?」


 安嶋たちの姿が見当たらない。


「外にいるよ。目が覚めたから呼んでくる?」


 灯が言った。その声に覇気はない。

 会うべきか? 会わぬべきか? 

 正直戸惑っていた。


「うん、呼んできて」


 すると灯は素直に廊下に出て手招きをする。


「ボリ、無事でよかったよ」


 雪崩の如く入ってきたのは安嶋だった。

 そして佐俣、妃織、喜多見に担任の和栗先生と俺を囲むように寄ってきた。

 みんなどことなく表情が歪んでいて芳しくなかった。


「あの時のこと思い出せなくて……」


 安嶋たちが顔を見合わせる。すると妃織が口を開いた。


「私と渚がごはんを食べていたときに、

 急にボリの悲鳴が聞こえてぱっと見たら姿がなくて。

 そしてヤスがダッシュで下山して助けを呼びに行ったんだよ。

 ケータイつながらかったから」


「そっか。双眼鏡から見える景色に夢中になっていて……」


「きっと足を滑らせて落下したんだね。

 僕と安嶋くんが近寄ったとき、

 いきなり消えてしまったからビックリしたよ」


「足を滑らしたか……」


 その時の記憶が曖昧あいまいだった。

 佐俣が目撃したんだから、そうかもしれない。


「これは僕の責任だよ。

 ボリくんに双眼鏡を貸したばっかりに……」


「いや……」


 その後の言葉を言わなかった。


「余計なことは考えないで今はゆっくり休みなさい」


 和栗先生は優しく語りかけると安嶋たちに、

「みんな疲れているようだから、私が家まで送ってあげるから」


 安嶋たちの背中を押した。

 その後、小1時間程で父さんたちは帰ることになった。

 味気ない夕食を済ませて、

 俺はベッドの上でボーッと天井を見上げていた。

 相部屋ではなく個室。

 自分にとっては贅沢だった。

 検査の結果、骨や内臓に異常はなく、奇跡的に外傷だけ。

 恐らく手からの出血を目にして気絶したのだろう。


 さてと、誰もいなくなったことだし、

 真相を追究しようではないか。

 病室の片隅で立ちすくんでいる、りぼんを呼び寄せた。

 静かに顔をあげた彼女は、床をなぞるように俺のところへ来た。


「実は、俺が崖から落ちるときのことを知りたいんだ」


「……ユウくん、もう止めよ?」


 りぼんの声はひんやりと冷たかった。


「止めない」


 首を左右に振った。


「私の身体のことはもういいよ。

 このままじゃユウくんが死んじゃう」


「やっと尻尾を掴んだんだ。

 ここで引くわけには行かない。

 それより俺が落ちるときのことを言えよ」


 真相はもう浮かんでいた。

 俺は足を滑らせて落下したのではない。

 誰かに背中を押されたんだ。


「ユウくんの背中を押したのはジャガイモ。

 あのキモメガネとグルだったの」


「そっか……。安嶋と佐俣か」


 本当は信じたくなかった。

 独りぼっちの俺をグループに誘ってくれた安嶋。

 そして、和気あいあいと絡んでくる佐俣。

 向けられた笑顔は悪魔の微笑だったとは。


「動機はユウくんが私のことを探ってきたから、

 気づかれまいと犯行に及んだのよ。

 だからこのまま大人しくしていれば……」


「……だろうな」


 俺を崖から突き飛ばしたのは、

 警告かもしれないし、殺人ミスかもしれない。

 こればかりは直接本人に会って聞いてみるしかない。

 恐らく腹を割って話してくれるとは限らないが。


「これからどうすべきか?」


 わざとらしくりぼんに聞こえるように言った。

 りぼんは、

「これ以上首を突っ込むなって警告したばかりだよ」

 と唇を歪めている。


「なあ安嶋と佐俣、どっちでもいいから尾行してくれないか?」


 返事はしてくれなかった。

 頑なに口を閉ざしている。だが俺は続けた。


「正直に言うと、俺にとっては賭けみたいなもんなんだ。

 りぼんの聞き込み調査をして1ヶ月くらい経つだろ? 

 手ががり1つないんだ。

 逆にいうと、何1つ手がかりがないのは可笑しいすぎる。

 田宝村で行方不明になった事件はりぼんのみ。

 このことを推理して、神隠しとか誘拐とかありえるか? 

 絶対に身近な犯行だと確信している。

 そしてようやく尻尾を現した。

 これは俺にとってチャンスなんだ。

 安嶋と佐俣を疑うのは悲しい。

 けれど、上辺だけの友情なんて1つもいらない。

 むしろぶち壊したって構わない。

 ヤツらが犯人なんだ、

 りぼんを殺めた犯人なんだ! 

 このまま野放しにするわけにはいかないだろ?」


 縮こまるりぼんを見てハッと我に返る。

 いつの間にか熱弁を振るっていた。


「1つだけ聞いていい?」


 りぼんが息を呑んだ。


「ユウくんを突き飛ばした件と私のことが関係なかったら?」


 その可能性もあり得る。

 ただ単に安嶋と佐俣が俺のことを気にくわないと感じて、

 事故と見せかけて殺害しようと企て実行した。

 もっとたちが悪ければ、

 誰でもいい、人を殺してみたかった、などが挙げられる。


「勘違いしないで、私はただ……」


「ありがとうりぼん。

 その指摘がなかったら、危うく暴走していたところだったよ」


 もに今回の事件がりぼんと無関係なら振り出しに戻ってしまう。

 かといって指をくわえているわけにもいかない。


「やっぱり、あのふたりのどっちか尾行しなくちゃだめ?」


 嫌がっているみたいらしく、声に元気がなかった。


「りぼんの存在は、バレていないから大丈夫だ」


 と、言い切ったものの、ふと考えた。

 もしかしたら見えてるけれども、

 気づかないフリをしているかもしれないと。

 だがりぼんは、何度も安嶋たちの前に出て暴言を吐いている。

 それに気づかないふりを通すのもおかしい。


「ううん、違うの。あのふたりにが本当に犯人なのかなってこと」


「もしかして黒幕がいるてことか?」


 りぼんは頷いた。俺は続ける。


「確かにいるとしたら妃織や喜多見もグルかもしれない。

 もっと広げてみると、りぼんの両親もってこともある。

 買い被りすぎかもしれない。

 けれど1つ1つ潰していけば、

 きっと辿り着ける答えになっているはず。

 でもここで安嶋と佐俣に正面から押しかけても意味はない。

 証拠がほしいんだ、これ以上にない動かぬ証拠が」


「わかったよ」


 りぼんがすんなり受け取った。


「ただし条件があるの。

 ユウくんが退院してからあいつらを尾行する。どう?」


 理由はわからなかった。

 俺からしてみれば今すぐにでも付けてほしいのに。


「何か意図でもあるのか?」


 気になってしまいポロリと口からこぼれた。


「もしかしたら、もう1つの真実が生まれるかもしれないから」


「もう1つ?」


「うん。実はあのふたりは、

 ただ単にユウくんをビックリさせようとして、

 背中を押したかもしれないってこと」


「随分と安嶋たちの肩をもつんだな。

 構わないよ。向こうからボロが出る可能性もあるし。

 ほとぼりが冷めてからでも悪くはないな」


「肩をもつ気はないよ。

 あいつらが頭を下げてくるかもって」


 安嶋と佐俣が罪を認めてくれるなら越したことはなかった。


「期待は薄いな」


 真実はどう転がるかわからないが、念頭に置いておこう。



 それから1週間が経過した。

 俺は今日退院することに。

 傷跡は残るものの、

 改めてみると、これはこれで奇跡に近かった。

 落下したときに、

 青葉がクッション代わりになっていたのかもしれないと医者は述べる。

 山が助けてくれたのだろうか? 

 自然の恵みに感謝しなくてはならない。

 そんな俺は向かいに来てくれた、両親と灯と一緒に車に乗って帰宅途中。

 一応車内にも、りぼんは座っていた。


「よおし、着いたぞ」


 父さんがサイドブレーキをかけてエンジンを切る。

 久しぶりの田宝村、久しぶりの我が家。

 俺は車のドアを開けて大きく深呼吸した。


「荷物は母さんが持っていくから」


 そう告げると母さんは、

 灯に家の鍵を渡して開けるように指示をした。


「ユウくん」


 りぼんがニッコリと笑う。

 俺は頷くと家に入り、自分の部屋に向かった。

 中身は天孤山に出かけたままの姿。

 変わっているとしたら、机の上に粉雪のような埃が積もっているだけだった。

 埃をかき分けて、窓を開けて換気をする。

 窓から見える景色は田植えシーズン真っ盛りで、

 水の張った田んぼに赤いトラクターが一直線に走っていた。


「これからどうするの?」


 俺が椅子に座ったとき、

 りぼんが窓の外を見つめながら言った。


「作戦通りだ。今のところ変更はない。

 俺はりぼんの捜索を忘れたように学園生活に復帰する。

 りぼんは安嶋か佐俣、どちらかをマークしてくれ」


 りぼんはしぶしぶ頷いた。

 俺の身の危険を感じているらしく乗り気ではなかった。


「やっぱり玲羅ちゃんにも相談してみようよ?」


「ダメだ。宮原さんを巻き込むわけにはいかない。これ以上は」


 宮原さんとは電話でやり取りをしている。

 俺が崖から落ちて入院したってことは話しているが、

 突き飛ばされたってことは言ってない。

 根源がはっきりしていない以上、

 命を狙われる危険性があるかもしれないからだ。

 でもりぼんは俺ひとりでは不安らしく、

 宮原さんに相談を持ちかけようと案を出す。

 気持ちは嬉しいが、これはりぼんと俺の問題である。


「別に宮原さんに隠すわけじゃないんだ。

 無事解決したら全て打ち明けるよ」


 それともう1つ、俺の身に何かあった場合の保険としている。

 りぼんを通じて宮原さんに連絡すれば外部に気づかれないからだ。


「取りあえず明日から学校だからどっちに付くかは、りぼんに任せる」


「んー、ジャガイモのほうは頭悪そうだから、

 キモメガネにしておこうかな。でも1番怪しいのはヤンキーだけど」


「今は妃織を抜いてくれ。的を絞っていかないと」


ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございます。

次話投稿の予定は4月21日の21時の予定です。

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