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第十四話

 登場人物紹介


 登木 勇太郎  ……青山吹高1年2組。ユウくん、ボリと呼ばれている。

 土筆坂 りぼん ……幽霊。下ネタ発言が多い。

 登木  灯   ……勇太郎の妹。中学生。恐がり、金の執着心が薄い。

 宮原 玲羅   ……中学生。霊感少女。

 安嶋 大騎   ……勇太郎のクラスメイト男。園芸部。いがぐり頭。

 若槻 妃織   ……勇太郎のクラスメイト女。園芸部。ギャルっぽい。

 佐俣 啓悟   ……1年3組。男。園芸部。ちょっとおかしい。

 喜多見 渚   ……1年4組。女。園芸部。おとなしい。

「ユウくん、ほら早く!」


 それから3日ばかり過ぎたある日のこと。

 俺はりぼんに導かれるごとく学校へ走っていた。


「もう間に合わないからいいよ」


 腕時計をチラ見するものの、

 時刻は午前10時を過ぎている。

 青山吹駅を降りてから、同じ制服姿のヤツを目撃していない。


「元はといえば、ユウくんが2度寝するからいけないんだよ」


「あれを2度寝と決めつけるなよ、不可抗力だ」


 さかのぼること2時間半位前、

 アラームと共に目を覚ましていた。




「おはよう。ユウくん、死んだように眠っていたね」


「目覚めの第1歩から縁起悪いな」


「右手どうしたの? それ」


「ん? うわああああああ!」


 血だらけの手と、ご対面。

 意識を失った俺は布団の上に倒れた。


「ユウくん、ユウくん、ユウくーん」


 りぼんの叫び声がフェードアウトしていく。



 ……で、そのまま気絶すること1時間あまり。

 本来なら母さんが起こしてくれるはずだが、


「なかなか降りてこないから、

 創立記念日とかで、休みかと思っちゃった」


 ……自己責任なので反論はしなかった。

 まあこのペースで行くと3限目の頭から合流だろう。

 えっと今日の3限目は……。

 思い出した瞬間、両足はピタ止まりした。


「忘れ物?」


 りぼんが振り向いた。


「今日の3限目は体育だったから、

 4時限目から合流しよう」


「だらしないんだから。ユウくんらしくない! 

 体育だったら丁度ちょうどいいじゃない、

 ウォームアップしてきましたって、言い訳できるよ」


「イヤだ、コンビニで時間を潰す」


「ダメだって。学業が本業なんだから」


「イヤだ。球技ならともかく、

 ここでマラソンだったらどうするんだよ」


「日頃の運動不足が解消されるよ」


 いつものりぼんと少し違う気がする。

 いつもなら、

「学校なんかサボって、オトナの保健体育しようよ」

 って言うはずだ。


 白い歯を剥きだして悪魔のように笑う。

 裏がありそうだ。


「理由教えてくれないと、ここから動かん」


 幼児並みに駄々をこねてみた。


「あまのじゃくなんだから」

 一瞬ムッと眉を上げたが、

 素早くニコッと微笑み返す。


「ユウくんには、1発で終わってほしくないの」


 意味が読めなかった。

 だが、りぼんの言うことだから、

 エロエロなことだろう、きっと。


「どっちにしろコンビによる。弁当忘れた」


 道路の反対側にコンビニを見つけた俺は、

 信号機の横でじっと青になるのを待った。


「学食あるよ?」


「知らないけど、みんな弁当派なんだ。

 1年の俺がひとりだったら食べづらいだろ」


「でも最近のエロ本は、

 ビニールでカバーしてあるから立ち読みは出来ないよ」


 どっからエロ本の話が出てきたんだよ。


「こんな美人をシカトするなんてサイテー。呪ってやるぅ……」


「信号変わったから行くぞ」


「うん」


「いらっしゃいませー」


 レジから女性店員さんの優しい声がかかる。

 制服のまま入って、

 学校に通報されないかドキッと心臓が跳ねた。

 すぐさま右へ曲がり、

 雑誌コーナーの前で立ち止まる。

 そして以前まで愛読していた、

 週刊少年ポンチを手にめくり始める。


「お弁当買わないの?」


 ちょっぴり不安そうに、りぼんが右横から覗いてきた。


「立ち読みしてから」


「ふーん」


 上の空で返事をしたりぼんは、

 そのまま顔の角度を傾けて漫画に目を落とした。

 そして釘付けになって数ページ眺めていると、


「この漫画吹き出し多くて、読みづらくない?」


「わかってないな、りぼんは。

 『未来形事コウ』の素晴らしさを。

 タイムマシンが発達する中、

 時間犯罪者を取り締まるべくコウは、

 現代にタイムスリップしてきたんだよ。

 そこにいたのは、

 世紀の大泥棒ヘベレケビクトリア。

 だがヘベレケビクトリアは、

 コウの乗ってきたタイムマシンを奪って逃走。

 ヘベレケビクトリアに、

 してやられたコウは路頭に迷う。

 その時、コウが偶然にも出会ったのは、

 幼い頃のヘベレケビクトリアで……」


「あーもう! ヘベレケビクトリアばっか連呼してうるさい。

 熱く語ちゃって、バカじゃないの! 

 そもそもヘベレケビクトリアって名前を人に付けること自体おかしいし。

 役所に申請したら一発でNG喰らって即アウト。

 どうせ作画目的でおっぱいポロリでも、

 見られればいいって考えて読んでるのミエミエ」


 りぼんには俺の熱弁が届かなく、

 両耳を塞いで、ぶんぶんと頭を激しく左右に振ったいた。

 やはり性別の垣根は越えられないんだな。

 するとコンコンとそとから窓を叩く音がする。

 おもむろに向くと喜多見の姿が。


「ちょっとなんでモブ子がいるの? サボり?」


 俺も驚いて漫画を閉じたが、

 りぼんは一歩身を引くほどビックリしていた。

 ニコッと微笑んだ喜多見は、

 自動ドアから俺の元へ駆け寄ってきた。


「喜多見、遅刻だぞ」


「朝起きたら頭痛がひどくて横になっていまして。

 学校に連絡済みだから平気です」


「俺よりもしっかりしてるな」


「ボリさんは?」


「俺は……」


 慌てて口を塞いだ。

 どうするべきか。

 まあ喜多見なら言ってもいいか。


「実は自分の出血部位を見ちまうと、

 気絶しちゃう体質なんだ。

 今朝も手から覚えのない血が出ていて、

 そのまま2度寝して参ったよ」


「ふふふ」


 情けないことに喜多見に笑われてしまった。


「あ、思い出した!」


 りぼんがポンッと手を叩く。


「うわぁ」


 俺はビクンと肩を弾ませた。

 喜多見は笑いを納めて不思議そうに、こっちを見ている。


「いや、なんでもない」


 弁解をしつつ、

 りぼんに無言の圧力をかけた。

 そんなこともお構いなしにりぼんは、


「夜中にトイレに起きてさぁ、

 戻ってきたときに、

 ガツーンってドアに顔面からぶつかってきたの。

 きっとそれで鼻を手で拭いたときに、

 鼻血が出てそのまま寝込んじゃったはず」


 ガーン。頭上から金だらいが落ちてきたくらいのショック。


「顔色悪いですよ。

 学校に連絡して欠席したほうが……」


「いや大丈夫」


 そんな俺は、のり弁当とペッドボトルのお茶を購入して、

 外で待っている喜多見と合流。

 一緒に登校することになった。

 会話も飛び交わずにしばらく歩いていた。


 せっかくだから、

 りぼんのことを聞いてみようかな。

 と、口を開いたときに喜多見から、


「ボリさんって出血を見ると、

 気絶してしまう体質ですよね?」


「うっ、まあね」


 コンビニで話していたことを引っ張り出してきたか。

 この話あんまり広げたくないな。


「他の人の出血は大丈夫ですか?」


「自分のだけ。あまり気分はよくないけど。

 なんて表した方がいいかな? 

 自分の血を見ると、

 身体から力が抜けて意識が遠くなるんだよね」


「では気絶して再び起きたときに、

 また同じ箇所に血が止まっていなかったら、

 再度気絶してしまうのですか?」


 喜多見のヤツ、うまいところ突いてきたな。


「それが意外と平気なんだ。

 1回見慣れているからかもしれないけど」


 同じ出血箇所で2回昇天した記憶はなかった。

 大抵は起きたときに、

 誰かが処置をしてくれるパターンが多かっただけで。

 過去に数える程度、

 自分で極力傷口を見ずにガーゼでいたりしてたっけ。


「大変ですね」


 他人事のように心配してくれた。

 ふと前を向くと青山吹高の頭が目に入ってきた。

 ここからりぼんの話題に持ってくるのは少々キツいか。


「喜多見って頭痛持ちなの?」


「まちまちです。耐えられないときは薬を服用して寝込みます」


「妃織とかは知ってるの?」


「知らないです。ボリさんとふたりだけの秘密ですね」


 あまり意識してなかったけど、

 喜多見って話しかければ結構返してくれるんだな。


「なーに、デレデレしてんのよ」


 左肩の辺りから冷たい視線が刺さってきた。

 俺の背後霊がヤキモチを焼いている。

 そんなこともお構いなしに、もう一歩喜多見を攻めてみる。


「喜多見って妃織と仲良しなんだね」


「一緒の中学でしたから」


「他に友達はいないの?」


 視線をらして黙りこくってしまった。

 校門まで100メートルてとこか。

 この沈黙はちょっぴり痛い。

 押しまくるしか道はないようだ。


「実は俺、高校入学と一緒に田宝村に引っ越してきたんだ。

 でも幼少期の頃に住んでいたみたいで。

 その時の幼馴染みに、

 土筆坂りぼんって女の子と遊んだ記憶があって。

 喜多見知ってる?」


 貝のように口を閉ざしていた喜多見が口を開いた。


「私もりぼんさんと友達で……。

 でもりぼんさんは1年前から行方不明で……」


 のどから絞り出しているような声だった。

 やはり、りぼんの行方不明がネックになっていたのだろう。


「ごめん、そのこと知ってるから気にしないで。

 俺も土筆坂さんの両親に会ったんだけど、

 未だに手がかりがないていうから、

 個人的に探してみようかなって考えてみたとこ。

 もしかしたら土筆坂さんのことで、

 警察にも話していないことあるかなって」


 すると喜多見はピタリと足を止めた。


「ボリさんにバカにされると思いますが、

 神隠しって知ってますか?」


 以前に宮原さんから聞いた話だ。

 確か田宝村にある天狐山てんこざんには、

 天狗と狐が人をさらう噂が転がっていたらしい。

 もちろん小さな情報も当てにできないから、

 ここはキャッチしておく。


「バカにするなんてとんでもない、

 一応知ってるよ。

 若い女性や子供をさらっていく話でしょ」


「私も一緒に住んでいる祖父から聞いただけですけど、

 春先になると行方不明者が増えるって言ってました。

 腹を空かせた天狗や狐が、

 か弱き女や子供を騙して食べてしまうという、

 おぞましい話ですけど」


 喜多見の語りが短いとはいえ、

 トーンの低さと暗い表情がマッチして、

 身体中に悪寒が走ってきた。


「ちょっとそれって、

 お菓子あげるからおじさんについてこない?

 って、のこのこ私がついてきたみたいじゃない!」


 寝耳を立てていたりぼんが抗議する。

 解釈のとらえ方がおかしいが。


「すみません、驚かせてしまって」


「ううん、ビックリはしたけど」


「警察の聴衆ちょうしゅうを受けましたが、

 その日はひとりで家にこもっていまして」


「いいよ、喜多見のアリバイなんて。

 犯人扱いにしていないから」


「私も心当たりがあったら連絡します」



 それから1週間が過ぎた。

 妃織に頼んで田宝中から通っている生徒に聞き込みをするものの、

 成果は反映されることはなかった。


 週明け、月曜日の放課後になり、

 俺は園芸部室でいつものメンバーと一緒に、

 だらだらと過ごしていた。

 もちろんりぼん付きで。


 妃織と喜多見はキャハハ、ウフフと女子トークをし、

 安嶋は菓子パンを食べ終えて机に伏せて眠っている始末。


 佐俣は図書室から本を調達して熱心に読書。

 まさか園芸部とは、こんなにヒマとは思わなかった。


 水やりに雑草の手入れ、

 あとは害虫対策に薬を撒く程度。

 あの時の情熱もすっかり冷めてしまって、今はこの有様。


「まだ帰れないの?」


 りぼんが退屈を吐き出した。

 もちろん俺は口に出さずに縦に頷いて答える。


「放課後ってこんなにヒマだっけ? 

 普通、放課後って言ったらカーテンの締め切った視聴覚室で、

 裸のままユウくんと私が身体と身体を密着させて、

 互いの愛を語る時間だと思っていたのに」


 耳を塞ぎたくなるようなセリフが返ってきた。

 この下品さは一向に耳慣れはしなかった。

 りぼんと共にして1ヶ月が経つのに。


 まあ抜けた期間もあったけれども、当時とは変わり映えはしない。

 本来なら真相が見えて、

 りぼんの両親を安心させるはずなのに……。

 行き詰まりを痛感していた。


「おーい佐俣。今日は引き上げようよ」


 ケータイをチラ見して妃織が言った。

 黒板上の円盤時計は4時15分を指している。


「そうだね」


 ポンと本を閉じる佐俣は意外にも素直。


「このままダラダラ過ごしては、

 いかがなものだろうか?」


 俺たちの顔を1周見渡した。


「だって他にやることないし」


 不満げに妃織がこぼした。


「別の植物も育ててみないかね?」


「花壇のスペースあるの?」


「これだから若槻くんは無知無能で……。

 プランターを使えばいくらでもできるではないか!」


 拳を握りしめて対抗するように立ち上がった。


「金は?」


「は?」


「金だよ、金。部費も全部道具揃えるのに使っちゃよね?」


「……カンパしよう」


「やだね。部費だけじゃ足りないって、

 あたしらか1000円徴収しただろ? 憶えてないのか」


 俺の記憶では、言い出しっぺは妃織のはず。


「……」


 固まったまま佐俣は、会計の喜多見に無言の訴えを送る。


「18円しかありません」


「しかしお金がないのは、

 若槻くんがアマリリスの球根を買い過ぎたわけであって……」


「うっ、そ、それは、園芸部結成、大盤振舞ってことで……」


 自覚があったらしく、空気の抜けた風船のように縮こまってしまった。


「でも文化系の部活ってこんなもんじゃないの? 

 ダラダラダラと」


「人数が揃っている以上は廃部は免れないが、

 部費にも影響が出てくるのだよ。

 特に運動部のからのパッシングが」


 一理あった。

 中学の時も運動系と文化系で、

 部費の争いが勃発して絶えなかったような。


「ボリくん、

 さっきからボケーッとしているが、策はあるのかね?」


 佐俣が声をかけてきやがった。

 っていうか、安嶋なんかぐーすかぴーって眠ってるんだが。


「別に」


「素っ気ないよ。

 あの頃の情熱はどこへ消えてしまったのかい?」


 おでこに手を添えながら、

 呆れて首を左右に振っている。

 そもそも園芸部が立派に活動してますよーって、

 どうアピールするんだよ、ったく。


「今更じゃん、そんなの。

 文化系の部活なんてこんなもの。

 金が必要だったら親からせびれば済むわけだし」


 妃織が言った。

 付け加えると、こんなセリフ妃織以外言わなかった。


「4時30までやろう」


 悔しそうに佐俣は腰を下ろして、

 読みかけの本に目を通す。

 あと10分もあるのかよ。

 ヒマだな、佐俣から本でも借りるか。


「1冊借りるよ」


「いいとも」


 5冊くらい積み上げられた本の真ん中を抜き取った。

 タイトルは『野山に咲く花たち』。

 ヒマつぶしになるか。


「なになに、エロ本?」


 ベランダで夕日を眺めていたりぼんが、

 俺の左肩に寄り添ってきた。


「へぇー、弟切草だって。由来は

『とある鷹匠たかじょうが弟切草の秘薬を、

 他人に教えてしまった弟を刃にかけて、

 その飛び散った血が、

 この植物の黒い斑紋はんもんになったとされる……。』

 ねえ、これ探しに行こうよ?」


「なんで花を探しに、

 山に行かなくちゃいけないんだよ」


 ハッと息を呑んだ。

 またもや、りぼんの声に反応してしまった。

 安嶋は寝ているものの、

 他の3人は動作を止めて俺を見ている。


「そうだよ、ボリくん」


 佐俣は激しく肩を叩いてきた。


「山に植物散策に行くのはどうかね? 

 今の季節なら天狐山が山開きになっているはずだよ」


「まじかよ」

 妃織が買って出た。

「登山部じゃないんだから時間のムダ。

 それに天狐山って小学校の遠足で登ってるだろうが」


「それはハイキングコースであって、

 僕たちが登るのは登山コース。

 なぜ山に登るのかって? 

 それは目の前に山があるからだよ」


 どっかで聞いた名ゼリフを佐俣が強く口にした。


「ここは多数決を取ろうではないか。

 まず反対の人は?」


 俺と妃織が手を挙げた。


「ちょっと渚!」


 喜多見が挙手をしていなかったことに、

 妃織が驚愕きょうがくを浴びている。


「面白そうだから」


「賛成の人は?」


 佐俣、安嶋、喜多見、りぼんまで挙げている。

 もちろんりぼんは票に入らない。

 それよりも、


「ちょっと、なんでヤスも挙げてるの?」


 妃織は2度見した。

 しかし手がぎこちない。

 さかのってみると、

 佐俣の手が安嶋の腕を掴んで無理やりに挙げている。

 まるで2人羽織のように。

 まあどちらかになると、

 安嶋はアウトドア派なので賛成に挙げるかもしれない。


「ヤスは無効に決まってるでしょ」


「では二手に別れたので、クジ引きで決めよう」


 佐俣はバッグから割り箸を取って1つに折る。

 そして先端に赤マジックで塗りつぶして右手で隠した。


「これでどうかね。

 僕が持っているから反対派の若槻くんかボリくん、

 どちらかが印のついた割り箸を引いたほうが勝ち」


 随分と手の込んだことをするヤツだ。

 この為だけに使われた割り箸が気の毒になってしまう。

 ジャンケンのほうが早くないか?


「ボリ、任せた」


 妃織がアゴを向けて指図する。


「俺?」


「外したら、ぶん殴る」


「責任重大じゃねえか」


「当てたら僕が殴りますよ」


 ふふふと佐俣が笑う。


「ムチしかねえよ、絶対やらない。

 妃織がやれよ」


「こんなつまらないことで、運を使いたくない」


 外見に似合わず、

 猫なで声で断固拒否する。可愛くねえな。


「早く引いてくれたまえ、

 青春という時間は後戻りできないんだよ」


 そう告げると佐俣が、

「10秒前」とカウントダウンを始める。


 くっ、なんでタイムリミット設けてるんだよ。

 右か? 左か? 

 やけくそになった俺は左側の箸を掴んだ。


「おい、離せよ」


 力を入れて引こうとするが、

 佐俣は反抗してなかなか抜けない。


「本当にそれでいいのかね? 

 ワンモアチャンスを差し上げよう」


「いらねえよ、

 抵抗するんならこれが当たりなんだろ?」


 佐俣は生意気に舌打ちをした。


「この勝負、もらった!」


 俺は一気に割り箸を抜いた。


ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございます。

次話投稿の予定は、3月24日の21時の予定です。

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