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プロローグ

 幽霊ものですが、ホラーではありません。

 

 ※この物語は、下ネタの成分を多く含んでおりますので、

 抵抗のある方や、下ネタに対し不満のある方は、

 申し訳ありませんが、ご遠慮頂くようお願いします。

「ユウくん、バイバイなの?」


「……うん。遠くに引っ越すんだって」


「私のこと覚えててくれる?」


「わかんない」


「待ってるから、ずっと待てるから!」




「あにき、起きてよ。もうすぐ着くって」


「ふわぁぁぁぁぁぁ」


 夢か。

 窓の風景に飽きた俺は、深い眠りに陥ったらしい。

 右隣では妹のあかりが小刻みに肩を揺らしている。


「ん? どうせなら着いてから起こせよ」


「よだれ、よだれ。汚ったないって。どんな夢見てたのよ」


 灯はせわせわと足元を見渡したり、

 手探ったりして急かしそうにしている。


「お母さん、ティッシュある?」


「はいはい」


 助手席の母さんは身体を捻ることなく、

 ポケットティッシュを手にもったまま、

 後部座席へ伸ばした。


「うげぇ、汚い。

 こういう時はウエットティッシュのほうがいいや」


 透かさず受け取り、自分の手を拭き始める。

 あれ、俺の口拭いてくれるんじゃねえの?


「はい」と叩き渡す灯。


「痛えじゃねえか、バカ」


「痛くない、痛くない」


「普通、目上の人には両手を添えて丁寧に渡すのが筋だろう。

 そこんとこの教育どーなってるんですかね?」


 俺の怒りの矛先は、

 運転手の父さんと助手席の母さんに向けられた。


勇太郎ゆうたろう、この道をまっすぐ行ったら我が家だぞ。

 懐かしいだろう」


 人の話に耳を傾けない父さんは、嬉しそうに車のアクセルを踏んだ。

 そう、俺はこの村で幼児期を過ごしたことがあるらしい。

 そして父さん単身赴任期間を終えて、

 また田宝村たほうむらへとんぼ返りをしてきたってこと。

 その時は5歳。

 幼少期の思い出なんて憶えているはずもなかった。


「あたしなんて記憶にないよ」

 当たり前だ。

 俺の2つ下の灯なんて3歳だったはず。

 俺が憶えていないのに灯が鮮明に覚えていたら、

 シルクハットの中から鳩が飛び出してきても驚かない。


「灯も勇太郎も手が掛かったけれど、可愛いかったよねぇ」

 昔を懐かしむように母さんがそっと呟く。


「あたしは今でもお母さん似ていて可愛いよ」


「性別以外似てねえだろ」


「おほほほほほ。

 あにきったら、もう!」


 ニッコリと微笑みながら灯は、俺の耳をちぎれるくらい引っ張った。


「いててててて、痛てえよ!」


 地獄の亡者のような雄叫びをあげられずにはいられない。

 もちろんヘルプの意味をこめて。


「よし着いたぞ。

 ほら、いつまでも乳繰ちちくり合ってないで降りろ」


 流れていた風景が止まると、

 父さんはエンジンを切り、

 シートベルトを外して背伸びをする。

 余程長旅で疲れているのだろう。


「とうちゃーく。あたし一番」


 車のドアを開けた灯は飛び出して、

 父さんと張り合うように大きく背伸びをした。


 今は笑顔を見せている灯だが、

 引っ越すことが告げられたときは口が裂けるくらい大泣きをしていた。

 友達と別れるのがイヤらしくて、

 ひとり暮らしをするって反抗していたな。

 中学の灯を置いて、

 ここに戻ってくることはできなかった。

 物騒だからと判断したのだろう。


 だが、そこで食い下がる灯ではなかった。

 俺と一緒に暮らす条件を出す。

 確かに友達と別れるのは嫌だった。

 けれど、俺の場合は中学卒業から高校入学の境目。

 どうせバラバラにあるんだったらと感じて、

 故郷に戻ることを選んだってわけだ。


 灯もそれで心が折れたらしい。

 もしかすると高校受験は、

 都会に戻って受けることを視野に入れているのかもしれない。


「勇太郎」母さんが呼ぶ。

「トランクの中の荷物、運ぶの手伝って?」


 気乗りはしなかったが、

 特にやることもないので手を貸すことにした。


 車から降りて大きなダンボール箱を受け取る。


 俺たちの衣服とか大きな物は予め発送してあるので、

 もう小物しか残っていなかったはずなんだが。

 それにしても重い、明日腕が筋肉痛になるかも。


 そんなおぼつかない歩みで玄関に向かう。

 表札にはご立派に『登木のぼりぎ』という我が苗字がずしっり刻まれている。


「誰か、ドア開けてー」


 首だけを器用に振り向いて叫ぶと、

 母さんと会話をしていた灯がダッシュで来て鍵を差し込み、

 ドアをスライドさせた。


「埃っぽいね」


 別世界に足を踏み込んだように、

 灯は靴を脱いで家の中へ入っていく。


「誰も住んでいなかっただろう」


 ダンボールを置いた俺は、

 一段落して玄関の段差に腰を下ろした。


「気味悪い。あにき2階見てきてよ?」


「長旅で疲れているんだ」


「一緒だって、早く」


 グイグイとシャツのそでを引っ張る灯。

 ちょっと伸びるだろうが、

 お気に入りなんだから手加減しろよ。


「こんな所に座ってないで、早く上がりなさい」


 父さんがダンボール箱を抱えてきた。

 その後ろには手提てさげげバッグを片手に、

 母さんが待機している。


「灯が怖いんだって」


「大丈夫だって、昔住んでた所だから。

 その後は誰も住んでないからって、

 不動産情報も上がってるからいわくはないよ」


 父さんの説明にホッと胸を撫で下ろす灯は、

幽霊ゆうれいとかそういうのが怖いんじゃなくて、

 泥棒とかそっち系のやつ。

 もう、つべこべ言わずに視察してこい」


 ぶつぶつと言い訳を垂れ流しながら、俺を指差ゆびさした。


「これは行くしかないね、

 お兄ちゃんの株を上げるチャンスだよ」


 父さんの肩越しに母さんが顔を覗かせた。

 正直、兄の威厳いげんなんて、

 灯に対してあるようでないものだった。

 でもこちらとしては、

 しばらく厄介になる家であったりして、

 中の様子は早めに確かめておきたい。


「わかった、見てくるよ」


「一応、骨は拾ってあげるから」


「そんな気遣いはいらない、戦場に行くんじゃねえから」


 腰を持ち上げて靴を脱ぎ、

 灯をかわした俺は階段を上っていく。


 畳半畳分くらいの踊り場を曲がり2階へ。

 左手側にある窓ガラスから日が差しているから、

 おばけ屋敷ほど恐怖を感じることはなかった。


 2階には部屋が2つ。

 俺と灯に分配された部屋。


 どっちがどっちを使っていいのか、

 まだ決めていない。

 個人的には手前より奥の方がいいな。

 好奇心旺盛こうきしんおうせいで奥の部屋のドアを開けた。


「……」


 もちろん、中は着替え中の女の子がいるラッキースケベな展開はなく、

 殺風景な6畳間で空しく西日が差しているだけだった。


 まあ、いたらいたでそれは大問題なのだが。


 脇見も触れずに窓ガラスを開けてベランダへ身を乗り出した。


「んー、気持ちいい」


 爽やかな春風は冷たくもなく暖かい。

 ベランダからの風景は、

 青々とした山が茂っており、

 田園地帯でんえんちたいが広がっている。


 所々に散らばっている黄金の花は、季節的にの花だろう。

 桜はまだつぼみ状態らしく、入学式に間に合いそうにない。


 そもそも入学式に満開の桜を見たことはないんだが。

 この先、温暖化が進むにつれて拝めるかもしれない。


 あれから10年か……。

 また帰ってくるとは思っていなかった。

 もしこの田宝村たほうむらが実家だったら、

 大型連休の度に帰省していたのかもしれない。

 明日から高校生。

 不安だらけだがなんとかなるだろう。


 するとズボンのポケットに入れたいたケータイが音を奏でる。

 ビクンと肩を吊った俺は、

 慎重に抜き取ってディスプレイ確認すると灯の文字が浮かんでいた。


 受話器と取ると、

「おっそーい! 何してんのよ。早く降りてこい」


「ふっ、ちょっと風と戯れて童心に帰ってたところだよ。

 灯も来いよ、見晴らしがいいぞ」


 返事はなかった。

 ナルシスト気味にボケをかましたがズベってしまったか? 

 だが、電話は繋がったままだ。


「へー、なかなか広い部屋ね」


 ケータイ片手に灯が入ってきた。


「この部屋いいね、天井にも畳にも黒いシミがないし。

 よし、ここに決めた。

 あにきはあっちの部屋ね」


「却下だ、先客順だ。お前が隣の部屋に行け」


「そんなの願い下げだね」


「お願いではない、命令だ。

 兄の言うことは絶対服従」


「うわあー、きれーい」


 俺の言うことをはね除けた灯は、

 ベランダから身を乗り出してキラキラと目を輝かせている。


「んー、気持ちいい。

 景色はいいし、

 空気は澄んでるし、

 灯ちゃんカワイイし、

 田舎も悪くないね」


 3つ目のやつはありえない。自分に酔うのもいい加減にしろ。


「こっからじゃ、中学校見えないね。

 明日行こうとしてたのに」


「案ずるな、俺の高校も見えない」


「当たり前でしょ、一駅離れてるんだから」


「だから本当のことを言っただけだ」


「ほら、いつまでレディーの部屋にいるのよ。

 行った行った。

 さもないと警察に通報するからね」


「おいちょっと、そしたら灯も恥かくぞ」


 抵抗も空しく明かりに部屋から押されて、強制追放されてしまった。


「はあ、仕方ないか」


 しぶしぶと隣の部屋のドアを開けた。

 見た感じは造りはそれほど変わっていなかった。

 換気も踏まえて窓を開ける。

 もちろん外の景色も変化なし。


「はあ……」


 灯がこっちでもよかっただろうが。

 俺がしばらくボーっと黄昏れていた。

 明日は荷物が来て、明後日は入学式か。

 ここまで目を通して頂きありがとうございます。


 週一のペースで配信する予定ですので、

 よろしくお願いします。

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