肉屋の女将はテンプレを許さない。
口が汚いので注意です。
「ちょいと!失礼するよ!!」
!?
ここは謁見の間。
異世界より召喚されし勇者、間野脇良人と国の王、が今まさに旅の仲間を紹介し、いざ旅立たんと息づいていた瞬間。
巨大な観音扉を騎士の静止も構わず力技で開けた女性がいた。
その人はカツカツと……いや、ドシドシと?尚絡みつく騎士を腕で抱えながら引きずり、少年の前に現れた。恰幅の非常によいおっかさんといった人だ。とても謁見の間にはそぐわない。
「ああ、良かったよ間に合って!勇者様、あたしゃ肉屋の女将をやってるサリーナっちゅうもんだ。はじめまして。」
「は、はじめまして……。」
「勇者様はヨシト・マノワキだったね?今15歳って本当かい?」
「は、はい。15歳です……。」
それを聞くと、今度は王の前に立っている旅の仲間に目を向ける。
「アンタは?」
「騎士のリリーシュナーという。ここは王の御前であるぞ。引っ付いているお前、何をしている早く……。」
「見たところ10代だね?」
「……それが?」
「次!アンタは?」
「姫様にアンタとはなんという言い草だ!!」
「なるほど、アンタその年頃だと第三王女様だね?次!」
「プルケ。」
「なるほど。次!」
「ハヒィ!ミミアンナですぅサリーナ様にはご機嫌麗しく……っ」
……様?
聖女であるミミアンナが悲鳴と共に叫んだ言葉は同じ場にいる者たちが首をひねるには十分な威力を持っていたが、次の瞬間にはそれも氷結した。
「アードナーッ、アンッタ本気で馬鹿なのかい!」
アードナールドブルーグ・グルイエ・プリンプル。
玉座に座する王は、伏し目がちな瞳に諦めを乗せた無表情で肉屋の女将に立ち向かった。
「これは……国の意向なのだ。」
「なぁーにが国の意向だい!はぁー?自分の娘まで使って、はぁー!?態々王妃の第三女まで使って?国の?13歳の女の子使って?それを国の意向?
あたしが国だよ!!」
堂々たる喋りに、一瞬誰しもが言葉を失うが、その煽るような言葉の数々に誰もが激昂して顔を赤くしたところで王が「落ち着け。」と朗々たる声で全員を押さえつける。
剣に手をかけていた騎士たちはぐうぅ、と獣のような唸り声を殺した息を出して従う。
「貴女の言いたいことはわかる。わかるのでとにかく後で話し合おう。」
「後で!?話し合う!?もう目の前に、現状がわかりやすくある状態で?はぁー?15歳の男の子と10代の女の子たちで魔王を滅ぼそうっていう国の意向とか言って?はあぁーっ?
もうわかりきってるだろ?
騎士団長ォ!!」
「……はい。」
「アンタが勇者パーティーの盾だよ!」
「…………はい。」
「魔術師長ォ!!」
「えっ、あ、はい……。」
「あんたもだ。」
「はい……。」
「影長ァ!!」
「いや、私は王の警護で……。」
「第一王子が充分育ってんだから問題ないよ。とっとと準備しな。」
「…………。」
「アードナー!!」
「……わかった。」
王が頷いたことで空気がすべて女性のものになるのを誰もが感じた。
「そして聖女は元聖女のアタシが行くよ!!文句あるやつはいないね!」
そんな訳で、勇者パーティーは麗しの美少女軍団から、おじさんおばさん軍団となって旅立つ事となる。
口の悪い大阪のおばさまみたいなのを書こうとしたわけではないんですが……。
みんなのおっかさんみたいなのを目指していたんですが何故だろう。