島内探索
トムとマリーが話し合っている頃、屋敷にいたドレット達は、情報収集のために街に出ようとしていた。レイリーが、そんな一向に声をかける。
「街中にも魔物が出るそうなので、武装はしていった方がよろしいかと思います。それと、ルールはくれぐれも破らぬようにお願いします」
「分かりました!あの……リコの事お願いします」
「お任せください。くれぐれも気を付けて行ってらっしゃいませ」
メイリ―は深く頭を下げ、全員を送り出した。
「じゃあ、手分けして行きましょう。私とドレットとクロムちゃんは市街地に行こうと思うけど……そっちはどうする?」
エリーゼが、腰に剣をしっかりと装備しながらリク達に訊く。リクは、同じように装備を確認しながら先ほどいた港を見る。
「港の方で聞き込んでみようかな。漁師の人とかなら何か知ってるかもしれない」
「分かったわ。じゃあ、とりあえず一時間後をめどにまた集合しましょう。私たちが港の方に向かうわ」
「了解!じゃあ行くか!」
リク達が、来た道を戻り港へと向かっていく。それを見送ったエリーゼは、市街地の方へ向かい歩いて行く。
「探索者協会が無いなんてね」
「意外だよな」
「ダンジョンがあるところには、あるって授業で言ってませんでしたっけ?」
エリーゼたちは、屋敷でのことを思い返す。【スイートホーム】の情報を聞くため、探索者協会の場所をメイリ―に聞いたところこの島には無いのだと言われた。
「そうだよな。そんな事あり得るのか?」
「分からないわね。トムが、課外授業に選ぶくらいだもの。ただのダンジョンでは無いんでしょうね」
「気を引き締めないといけませんね!」
気合を入れるようにクロムが、手甲を付けた手を強く握りしめる。しばらく歩いていると、ワイワイと活気のある喧騒が聞えてきた。
「着いたわね」
「魔物が現れるとは思えないほど、賑わっている」
商店は元気に客を呼び込み、道行く人たちも楽しそうに歩いている。魔物が出るという悲壮感は、感じられない。ドレットは、そんな活気に若干の違和感を覚える。
「どこから行きましょうか」
「とりあえずお店回りながら、それとなく聞いてみましょうか」
そういって、街の探索を始める。商店には、新鮮そうな魚介類や野菜などの食材が並んでいる。道具屋を見つけ、中に入ってみた。
「いらっしゃいませー」
奥から間延びした、声が聞こえる。赤いエプロンを来た女性が出てくる。
「あら、お客さん。島外の人?珍しいわね。それに、なんか物騒だね」
女性は、エリーゼたちの恰好を見て警戒したような顔になる。
「すみません。渡したちアカデミーの生徒でして、課外授業の一環でここに来たんです」
「なんだ、アカデミーの生徒さんだったのかい。魔物でも倒しに来たの?」
アカデミーの影響力を感じながら、エリーゼは店内を見る。並んでいる商品は日用品ばかりで、武器やポーションの類は一切ない。
「ダンジョンに用事がありまして、何かご存じありませんか?」
エリーゼの質問に、店主は首をかしげる。
「ダンジョン?そんなのこの島には無いよ?」
「え?」
「いやいやいやあるだろう?【スイートホーム】っていうダンジョン」
「すいーとほーむ?聞いたことないねぇ」
ドレット達は顔を見合わせる。
「どういうこと?」
「分かんねぇ。街の人はもしかして知らないのか?」
三人でコソコソ話していると、店主が訝し気に三人を見る。それを察したクロムが店主に話かけた。
「魔物が街中にも出るって聞いたんですけど、どういう魔物が出るんですか?」
「あんたら、さっきから変なことばかり言うね。街中に魔物なんて、ここ数年は出てないよ。農場の方に、畑や果樹園を荒らす鳥型の魔物がチラホラ出るくらいさ。何か勘違いしてるんじゃないのかい?」
「そうなんですか……その魔物が出るところってどの辺ですか?」
店主が窓から見える小高い丘を指さす。
「タクト君のところが、最近魔物が出たって聞いたね。あそこは、スモモを育ててるからね。それを狙って、たびたび来るのさ。あそこのスモモは、おいしいんだよ。そこの八百屋の爺さんのところで買えるから行ってみな」
「ありがとうございます。行ってみます」
三人は、店からでて難しい顔で考え込む。
「街の人は【スイートホーム】の存在を知らねぇってことか?」
「それもそうですけど、街中に魔物が出ることを知らないっておかしくないです?」
エリーゼは顎に指をあてて考え込む。顔を上げて、活気ある街並みをみてある違和感に気づいた。
「この島ってリゾートで有名だったわよね」
「そう聞きますね」
クロムとドレットは、エリーゼにつられて建ち並ぶ商店を見る。
「じゃあなんで、食用品や日用品のお店しかないのかしら。観光地らしいお店も見当たらないし、ここに来た観光客はどこに泊まるのかしら」
商店に並ぶのは食用品がほとんど。店先に出ている看板も日用品や生活必需品のものばかりだ。観光地らしい名産品や食堂どころか、宿らしいところも見当たらない。活気はあるが、観光地としては些か寂しい。
「確かに、そうだな工芸品の一つでもありそうなものだ」
「ということは、この島はリゾート地では無い可能性があるってことですか?」
エリーゼたちは、自分たちの知っていたことが裏返る感覚に恐怖が奔る。
「事前情報がここまで違うと、もっと慎重になる必要があるわね。早めにリク達に合流しましょう。戦力
を分散するのは危険かもしれない」
エリーゼたちが港へ向かおうと歩き出す。その時、空が急に暗くなった。エリーゼたちは反射的に空を見上げる。
「ギャアアアアアアアアア!」
けたたましい鳴き声と共に太陽を隠した巨鳥が、エリーゼたちを睥睨していた。
港では、リク達が漁師に聞き込みを続けていた。ちょうど話を終えたリクが、リサたちと合流する。
「まずいな」
「先ほどの方と一緒でした?」
「あぁ」
リクが、頷く。港での聞き込みは、エリーゼたちと同じ結果となった。
「すぐにでも、エリーゼたちと合流しないとまずい」
リクは、緊張した面持ちでメンバーを見る。ミクは、青い顔で唾をのんだ。
「と言ってもどうする?市街地の方行くか?」
「入れ違いになるとまずいのではなくて?」
リク達が話し合っていう中、ミクはリクの裾を引っ張る。
「リクさんは、聞き込みの場所をなぜ港にしたんです?」
ミクの疑問に、リクは思い出したように海を見る。
「あぁそうだ、確かめたいことがあったんだ」
「なんだ?」
カイリがリクの肩に手を置いて、同じように海を見る。
「なんの変哲もない海に見えますが?」
リサの言葉に、ミクも頷いている。
「潮の流れが気になるんだ」
「潮の流れ?」
「釣りしてる時に思ったんだ。島の周りと沖の流れが、違いすぎるように感じてさ」
「さすがは船乗りの倅ですね」
リサが、感心してリクを褒める。
「合流前に、確認しておこう。全員警戒しといてくれ。俺の予想が正しかったら多分、何が起こっても不思議じゃない」
「了解」
一行は海岸の方まで、歩くことにした。少し先にあった海岸の降り、砂を踏みしめながら海岸線が見える場所まで近づいていく。
「ここなら見えるか」
「ミク、変な感じがしたらすぐに知らせてくれ」
「はい!」
ミクの耳がピクピクと動く。リクは、海面を目を凝らし観察した。何かに気づいたリクは、焦ったように振り返る。
「リサ!魔力視できるか?」
「は、はい」
リサは、両目に魔力を集中させると黒目が青く変わった。見えたのは、白い線。その白い線は籠網のように、緻密に絡まり島全体を覆っている。
「これは、結界?」
「そんな風に見えるのか、なるほど。開放型のダンジョンは、そうなってるのか」
「何がどうしたんだよ?」
カイリが、焦っているリクに状況を聞こうと近寄った時、ミクが声を上げる。
「海から何か来ます!!」
その声で、全員が武器を抜き、戦闘態勢になる。ザバァという音と共に、白波を背負っ現れたのは、カチカチと鋏を鳴らす、巨大なカニだった。
リコが目を覚ましたのは、全員が島内へ探索に行ってしばらくしたころだった。船酔いでダウンしていたため、屋敷のベッドに寝かされていた。近くを手で探り、メガネを探す。なかなか見つからないため、仕方なく目を開けた。金色の虹彩が、窓の外の景色を見る。その瞬間、目を見開いた。
「なんで……」
「やはり、リコ様には見えてしまいますか」
急に声をかけられ、すぐに振り向き戦闘態勢になる。
「大丈夫です。ここはセーフエリアですから」
そこには、眼鏡を持ったメイリ―が佇んでいた。リコは、安堵息を吐きながら、眼鏡を受け取った。
「メイリ―さん、なんで……なんでもう……」
リコが、眼鏡をかける。
「私たちは、ダンジョン内にいるんですか?」
部屋の隅に立てかけられたリコの盾が、ゴトンと倒れた。
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