楽園の島
課外授業のダンジョンを発表する二週間前、トムは陽光が差し込む執務室で、とある書類に目を通していた。その顔は、眉間にしわが寄りどこか悲しげだ。
「メイリ―、この【スイートホーム】の報告は本当か?」
「間違いないかと思います」
メイリ―がお茶を出しながら答える。その動作に無駄が一切ない。
「そうか……もう限界だな」
「そうですね。すぐに向かいますか?」
「いや……ダンジョン学のいい授業になりそうだ。課外授業のダンジョンにしよう」
「しかし、すでにこれほどの被害が……」
「それに関しては大丈夫だと思ってる。それに、見送りは多い方が良いだろう」
トムは、報告書を置くと引き出しからハンコを取り出し、判を押す。そこには赤文字で【CLOSE】と書かれていた。
「ダンジョンの終わりをみんなに見てもらおう」
トムは、メイリ―の淹れたお茶を一気に飲み干すと、立ち上がった。イリ―からカバンを受け取る。そして、執務室をの扉を開けて外へと出ていった。メイリ―は、お辞儀をしたままそれを見送る。トムがいなくなると、メイリ―は机の上に残るカップを片付ける。その際に報告書が目に入る。
「本当に、救いようのない……」
一瞬悲し気な目をするも、すぐにカップを下げて部屋を後にした。
燦燦と日差しが降り注ぐ中、マリーとクロムが船の看板で海を眺めている。
「綺麗だね!」
「そうね」
日差しを受け、キラキラと散らばったガラスのように光る海面がマリーたちを歓迎している。
「ちょっとドレット!なんでもう水着なんて着てるのよ!」
「船の上って水着じゃないのか?」
もうすでに水着になり、鍛え上げた上半身を惜しげもなく晒すドレットを、エリーゼがしかりつけている。
「おーいドレットこっちだこっち!釣りしようぜ!」
「おう!」
今回の参加者である男子生徒達、たれ目の優し気な面持ちのリクと白髪赤目の活発そうな容姿のカイリがドレットを呼ぶ。ドレットは二人の元へと向かう。
「フフッ、エリーゼさんも大変そうですね」
「リサさん?いつの間にそこに?」
黒髪ロングの女子生徒が扇子で口を隠し不敵な笑みを浮かべ、エリーゼの背後に現れた。
「そんな事どうでもいいじゃないですか。それより、見えてきましたよ?」
そういって、扇子で船の先を示す。
「綺麗ね」
「そうですね」
目的地が見え、船上に歓声が響く。雄大な自然。コバルトブルーの海。鳥の声が、島への歓迎を示すように聞こえてくる。一部切り開かれ、そこには港町が栄えていた。
「リコさんもうすぐですよ?頑張って!」
猫耳を生やし、赤と緑の瞳を持つ少女が、船室のベッドで寝込んでいるリコの手を握っている。
「ありがとうございます。すいません……ミクさんも向こうにいたかったでしょうに」
「大丈夫ですよ。あと少し頑張りましょう?」
ミクが聖母のような笑顔でリコの頭を撫でる。すると、船室のドアが開いた。
「リコ大丈夫か?あともうちょっとで上陸だからな。これ飲んで頑張れ」
「こちらをどうぞリコ様」
トムがメイリ―を連れて、入ってきた。メイリ―に指示し、飲み物を飲ませる。
「すみませんトム。メイリ―さんもありがとう」
「いえ、お気になさらず」
メイリ―はお辞儀すると、退室していった。
「ミクもありがとうな」
「いえいえ、治癒魔法は得意ですから」
「しかし、リコ、船ダメだったんだな」
「前に乗った時は大丈夫だったんですけどね。ずいぶん昔のことでしたから過信しました。面目ない」
リコが青い顔で謝るのを、トムは手を振って気にするなと伝える。
「船は人によるからしょうがないさ。上陸したらしばらく休むといい。どうせ授業は明日からだ。ミクもう少しだけ頼む」
トムはミクにリコの世話を頼んで看板に上がる。心地よい潮風が頬を撫でた。眼前の島を見て、なんとも言えない気持ちが湧き上がる。その気持ちを吹き飛ばすかのように、船乗りの声が響いた。
「上陸するぞーー!!」
大きく旗を振って港とやり取りする船乗りが、トムに声をかける。
「上陸準備してくれー!」
トムは頷くと、まるで、何かに追い立てられるように自分の船室へと急ぎ足でかけていく。
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