偉人
スーツを着た少年が、額に青筋を浮かべて喚く。
「なんだてめーら!」
「そこあぶねぇぞ?」
少年の怒声を無視して、【槍神】オイゲンが槍の先で少年を指す。
「はぁ?なに言って―――」
バキという音が少年の言葉を遮った。【歩法老師】ゲイルの足が少年の顔面をとらえていた。
「これオイゲン、お前のせいで防がれたぞ」
少年はゲイルの足を咄嗟につかみ攻撃を防いでいた。
「このクソジジィ!まずはてめぇからだ!」
少年は、足を握る手に力を籠める。
「ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ、しつけのなってないガキじゃ……な!」
「なっ!」
ゲイルが足に力を入れ、無理やり足を振りぬいた。完全に止めたと思っていた少年は、驚愕しながら為すすべなく吹き飛ばされた。いくつかの家屋を貫いて、やっと止まったところで顔を上げると目の前に槍が飛んできていた。驚きつつも、とっさに弾き飛ばす。
「おーおー反射神経スゲーな」
声のほうを向くと屋根の上にゲイルとオイゲンが少年を見下ろしていた。少年は自分が見下されていることに憤りを覚える。歯を思い切り食いしばり、拳は握り締めすぎて血が出てきている。
「お前ら消し炭にしてやるよォ!」
空気も揺らすほどの怒声と同時に少年の体から噴き出した夕焼けのように赤い炎があたりを包んだ。
オイゲンたちが少年を追いかけた後、広場で相対する偉人と魔人。先に動いたのは魔人を乗せてきた黒竜だった。黒竜は勢いよく飛びあがり、偉人たちに向けてブレスの準備に入る。
到底人が届くはずがない高さからの攻撃。黒竜の思惑通りブレスは偉人たちに直撃轟音ともに砂塵が舞い上がる。黒竜が翼で風を起こし視界が晴れると、まず青白い球体が目に入った。その球体の中心で祈るように手を組む【守護聖女】セシリア。それがセシリアの張った結界であることに気づく前に、三つの影が黒竜の前に飛んできた。そう、飛んできたのだ。飛べるはずのない人が自分の目の前に滞空している。
「わー!空戦なんて初めてー!ありがとう!ティナちゃん!」
「これくらいなんともない」
【剣聖】レベッカが空を飛び回りながらはしゃいでいる。褒められた【大魔道】ティナは誇らしげに鼻をならす。
「その年で大したものだ。さすがは【大魔道】だな。では私も若いものにまだまだ負けていないところを見せないとな」
そういって、ダルケンが抜き身の刀を構える。
「【枯山水】」
ダルケンが唱えるのと同時に、黒竜の咆哮が開戦の合図のようにとどろいた。
広場に取り残されたゴスロリの少女は、アタフタと少年の飛んで行った方角や黒竜が飛び立った空を交互に見る。
「みんなぁ」
情けない声を出す少女を見かねて、セシリアが声をかける。
「あの……大丈夫ですか?」
「あ、いえ、大丈夫ですぅ。お気遣いいただいて……」
ここだけ戦場とは違う和やかな空気が流れる。
「私もがんばらなきゃ」
少女のかわいらしい声とは裏腹に威圧感が増していく。
「ではよろしくお願いします」
そういうと少女の地面が砂に変わっていく。
「ポチ!」
セシリアの呼び声に応じて、どこからか飛んできた白い巨人。セシリアを腕に抱えると少女から距離をとる。そこに飛んできたのは水滴だった。かわし切れずポチが身を挺して守ろうとすると、その水滴が突如壁のように現れた黒い影に吸われ消えた。
「タケル様!」
影から出てきたのは、真っ黒な装束に身を包んだタケルだった。
「行こう。アイツは厄介だ頑張ろう」
「はい!」
「ガウ」
ポチは地面を強くたたき、少女との間に遮蔽を作る。
「それにどうせ、そのうちトムも来る」
タケルはそう呟くとポチと一緒に少女に向けて飛び出した。
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