使徒
部屋には肌を刺すような寒さが満ち、氷漬けにされた多種多様な魔物のが並ぶ。マリーが杖を振ると、部屋を覆いつくしていた氷が砕け散り破片が花びらのように舞う。さらにマリーが杖を副理事へと向けると氷の破片が押し寄せていく。
「この程度!」
副理事長も杖を振り、魔力の壁を作り出した。押し寄せてきた破片の波を受け止める。目の前が見えなくなるほどの氷の波が晴れると、マリーの姿が消えていた。 慌てて周囲を探るも見つからない。
「ここですよ」
声の方向へ振り向くと、氷のつぶてが飛んできていた。とっさに首を振り、避ける。
マリーは杖を構える。魔法陣が広がり、そこから水の龍が副理事長を飲み込もうと出てきた。副理事長も杖を振った。魔法陣から無骨な腕が現れ、理事長を守る。
「キリナス・アンスピブル・タウレリカ(守護するものに祝福を)」
巨大な腕の中で、副理事長が唱える。すると、魔法陣から全身が現れる。光を飲み込みそうな程の黒
い巨躯、黒くよどんだ一つ目。身にまとう瘴気がその存在が、邪悪なものだと物語っている。しかし、その手には神々しく光る巨大なハルバートが握られている。
「イビルサイクロプスですか……しかし、あの武器はまさか……きゃあ!」
マリーが考えていると、サイクロプスハルバートをゆっくり振り下ろした。地面と触れ合った瞬間、衝撃波が広がり、マリーは吹き飛ばされる。
「【エアクッション】!」
壁と衝突する寸前で魔法を使い、空気の層を作る。壁との激突を避け、着地したマリーをいつの間にか接近していたサイクロプスのハルバートが襲い来る。
「私の契約している中で最強の魔物だ」
得意げにする副理事長を無視し、目の前の敵に集中する。
「イビルであれば光魔法が効くはず。【チェイン】」
光の鎖がサイクロプスの体に巻き付く。しかし、ハルバートが光ったかと思うと鎖を粉々に粉砕してしまった。
「なっ!」
予想外のことに同様しながら横なぎを宙に飛んで回避する。
『このハルバート聖気を帯びてる。まさか神器に類するもの!?だとしたら……』
思考の海を泳ぎながらも、サイクロプスの攻撃を避ける。時おり反撃の魔法を飛ばしながら攻略法を考える。
「あまり得意ではありませんが、これしかありませんね」
杖をサイクロプスに向ける。杖から出た水球をサイクロプスが切ると、爆発したかのように霧が広がっていく。マリーを見失ったサイクロプスは、やみくもにハルバートを振り回す。しかし、一切晴れない霧にいら立ったのか、最初と同じようにハルバートで地面を叩く。発生した衝撃波が霧を押しやっていく。マリーは衝撃波によって、壁へと飛んでいく。先ほどとは違い、なすすべもなく飛ばされているわけではなく、まるで波乗りのように衝撃波を利用し壁に見事に着地する。右手を壁につき何かをつぶやいた後、壁をけって走り出す。
「な!?」
急に壁走りを始めたマリーに驚嘆の声を上げる副理事長。サイクロプスはハルバート無造作に振るう。すると、斬撃が光となって飛んだ。マリーはそれでも走る速度を緩めない。飛んでくる斬撃をかわしながら時々、手で壁に触れる。ちょうど一周した時、ようやく壁から離れ、今度はサイクロプスのもとへ、杖も構えず走っていく。
「血迷ったなぁ!小娘!」
無謀な特攻をするマリーをあざ笑う副理事長には見向きもしない。サイクロプスは大きく振りかぶったハルバートを、マリーめがけて振り下ろした。マリーは前転しながら股の下に潜り込み、地面に触れる。そして、すぐに振り返り杖をサイクロプスへ向ける。
「ヘルト・バルトリシ・キリ・サステナス・オルガリーテ(流転する星・はずれしものを滅する棺をここに)」
詠唱が終わると、四方の壁から魔法陣が広がり棺桶が現れる。
「【四重棺】」
魔法名を言うと棺が開き、黒い手が伸びる。黒い手はサイクロプスをつかむと、それぞれの棺に引きずり込もうとする。腕がちぎれそうになった瞬間、ハルバートが光りを放った。マリーは即座に別の魔法を唱える。
「【チェイン】」
光の鎖がサイクロプス巻き付く。ハルバートが光が収まると、鎖だけが消え、黒い手はいまだに引きずりこもうと健在だ。
『やはり消せる魔法は、一回に一つ。一気にすべては消せない』
黒い手がサイクロプスの四肢をもいで、ハルバートごと棺桶の中に引きずり込んだ。
「ば、ばかな。なぜだ……イビルには闇魔法も、効かないはず。それに、聖武器だって持たせていたのに……」
副理事長が呆然としていると、足元が凍り付いていることに気づいた。
「ぐっ」
見ればマリーが副理事長に杖を向けていた。
「終わりです。諦めてください」
最終通告を突きつけるマリーを見て、副理事長は不気味な笑身を浮かべる。
「やはり君は甘いな。トム・ヘイカーだったら問答無用で首を落としていただろうに」
「あなたには聞かなければならないことがあります。兄さんだってこうするはずです」
トムの名を出され、少し感情的になる。その様子に副理事長はさらに笑みを深める。
「いや、仮にトム・ヘイカーが私を捕縛するとしたら。両手両足を切り落とすくらいのことをしたさ。君は甘いよ」
「お望みならそうしてあげますよ」
マリーは苛立って杖を副理事長に向ける。
「もう遅い!陣はできた!」
副理事長の宣言とともに足元に巨大な魔法陣が出現する。陣の中にいたマリーは、外に土師器とばされる。よく見ると副理事長の足元から液体が零れ落ち、地面を溶かして溝を作っていた。その溝は副理事長を中心に魔法陣を描いている。
「この陣は……まさか!」
「そうだ!【聖獣位階の義】で使う陣だよ!」
光に副理事長が飲まれていく。
「主教様!万歳!」
叫び声をあげると、光は一層明るくなった。あまりのまぶしさに、マリーは思わず目をつぶる。光が晴れると、そこには、神々しく光る全身真白な人だった。右手には純白の槍、左手には赤い宝石の埋め込まれた丸盾を付けている。マリーはすかさず攻撃しようとするが、いつの間にか目の前にきていた白い人に腹を貫かれた。
「ゴフッ」
血を吐いて、その場に倒れ伏す。白い人はその頭めがけて槍を突き出した。
カンッ
という乾いた音が響く。槍はマリーの頭ではなく、床に突き刺さっていた。
白い人が気配を感じそちらに目を向けると、マリーを抱きかかえるトムの姿があった。
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