禍根
過去の惨事が脳裏をよぎり、刀を握る手にも力が入る。ノーヴァスの目に怒りに燃えていることにいら立つ。普段戦闘において、自分の腕が落とされようと冷静でいるトムでさえも過去惨事からくる怒りを抑えることができない。
「【カルム・スプライト】!」
ノーヴァスが杖をトムに向けると、魔法陣から枝分かれした雷撃が飛んでくる。トムはランダムに軌道を変える雷撃の中を、ステップを踏んで躱していく。一本の雷撃がトムを完全に捉えた。しかし、雷撃はトムにあたることなくそれていく。降りぬいた刀身にわずかに雷が奔る。どうやら雷撃を切り飛ばしたらしい。
「なんだって?!」
困惑するノーヴァスに、トムは容赦なく走り迫る。トムの上段切りを半身でかわし、目前の体に雷撃を叩き込む。しかし、トムは素早く切り返し、雷撃をまたしても切り飛ばす。天井にぶつかった雷撃は、ぱらぱらと砂埃を降らす。トムの攻撃をかわし、すきを見ては雷撃を飛ばす。しかし、トムはものともせず、そのすべてをさばいていた。
「なんでそれだけの力がありながら!」
ノーヴァスは怒りに任せて、杖を振る。雷撃の色が赤みを帯びてきた。
「救ってくれなかったんだ!」
涙を流しながら、振り下ろした杖から紅蓮の雷撃がトムを真正面から追い詰める。トムは刀を振り上げると雷は二つに割れ、トムを避けて後ろの壁に突き刺さる。
「お前ら善人ぶった連中はいつもそうだ。何の確証もなく、その場にいたやつに責任をなすりつけやがる」
トムは、静かに刀を鞘に納めて続ける。
「お前の姉は、ギルドの規則を破って未探索領域に踏み入った。捜索隊は全滅。あとから救助に入った俺が全滅させた。ブレインジャッカーが出たんだよ。虫下しもない。しかし、ダンジョンに寄生された連中を野放しにするわけにもいかない。殺すしかなかった」
「虫下しを持ってくればよかったじゃないか!そこにないなら買い集めるとか……」
「虫下しは、高価な薬だ。昆虫系のダンジョンでもない限り、ギルドにも商店にも置いてない。取り
寄せるにしても、最短で三日かかる。ブレインジャッカーの卵は3時間で孵化してしまう。間に合うわけないだろ?」
「それでも、何か方法があったんじゃ……」
「ない!!」
トムは、今までの冷静な口調から一変して声を張り上げた。
「あったらなぁ!やってるんだよ!亡くなってるのはお前の姉だけじゃねぇんだよ!護衛も捜索隊も!みんな死んだ!そのなかにはなぁ!俺の親友だっていたんだよ!」
肩をいからせ、ノーヴァスに近づく。
トムは、一瞬姿を消すと、ノーヴァスの後ろに現れる。同時にノーヴァスが膝から崩れ落ちた。
「恨むのは勝手だ。気が済むまで相手してやる。でもそれに他人を巻き込むな」
気絶しているノーヴァスに告げ、トムは下層へと走り出した。
最後まで読んでいただきありがとうございます!




