追憶
曇天の下、探索者ギルドに来た。中が騒がしいのはいつものことだが、今回の騒がしさはトムとグルートはギルド職員につれられ、応接間に来ていた。
「よく来てくれた。ヘイカ―殿、グルート殿」
ガタイの良いスキンヘッドの男が野球グローブほどの手でグルートたちの手を握る。
「カムイさん、この騒ぎは?」
グルートが聞くと、カムイが何枚か書類を二人に見せる。
「クマヤ洞窟ダンジョンのシリビ鉱石の採取?」
「そうです。三階層でとれるシリビ鉱石の採取に赴いたあるパーティーが消息不明になりました」
「低層での失踪か……ゴホッゴホッ」
トムは咳しながら考え込む。その様子にカムイは心配そうに声をかける。
「ヘイカ―殿?大丈夫ですか?」
「少し風邪気味で」
そういいながら、鼻をすする。
「それで俺たちは何をすれば?」
「このパーティーの捜索隊に参加していただきたい」
「捜索隊に?」
「はい、実は、そのパーティーに貴族の令嬢がおりまして、その家から強制依頼が出ています」
そういって一枚の依頼書見せる。『高位探索者には、ネリス・リーディの捜索を依頼する。連れ帰った者には追加報酬金貨千枚を支払う。遺体、遺品は一つにつき銀貨100枚を支払う』
書かれた依頼書を読んだ二人は、下の騒ぎように納得が言った。
「破格の報酬ですね」
グルートは依頼書をカムイに返す。
「引き受けます」
「いいんですか?」
カムイがトムの肩をつかむ。
「低層での失踪も気になります。事態によっては、実家に連絡しないといけないかもしれまっせん」
「ありがとうございます」
トムたちはカムイに創作日程など打ち合わせをした後、町で不足品を買い集める。
宿の中で、明日に控えた捜索の準備をしていた。トムの体が大きく揺れて倒れる。
「トム!!」
グルートがトムを支える。その体が熱いことに気づくと、回復魔法をかける。
「この熱はまずいな。医者を呼んでくる!」
グルートがベッドへ運び、宿から足早に出て行った。
医者はトムの診察をすます。
「ダンストン病ですね」
「ダンストン病?」
「この土地特有の風土病で、肺に激しい痛みを伴う高い発熱と嘔吐が特徴です」
「治るのか?」
「薬がありますので、それを飲んで、三日ほど安静にしていれば良くなります」
「そうか、ありがとう。薬を頼む」
医者が薬を取りに行くと部屋を出て行くと、青年がイスに座りトムの方を向く。
「これじゃあ、救助に行けねーな。まぁ、ギルドが用意した他の探索者たちもいるし、お前無しでも大丈夫だろ」
「すま……ない」
蚊の鳴くような声で、謝罪を口にするトム。
「まぁ今まで頑張り過ぎたんだ。上級ダンジョンもあと半分。少しゆっくりしてもバチはあたらんだろうよ」
青年はそう言って、席を立つ。
「貴族のお嬢さんの救出任務は任せとけ、お前が居なくてもなんとかなる」
そう言って扉に向かって行く青年の背を見送った。
捜索隊が出発し二日後にトムは復帰し、ギルドへ向かう。捜索が順調に進んでいるならば、本日帰還するはずだ。ギルドの扉を開けると、慌てた様子の事務員がトムに駆け寄ってくる。
「ヘイカ―さん大変です!こちらへ」
通された部屋に入るとカムイが水晶とにらめっこしている。
「大丈夫なのか!!」
「今のところは大丈夫です。しかし、そちらへ戻ることができません」
水晶からグルートの声が聞こえた。トムに気づいたカムイが水晶に呼びかけるように言う。
「グルート何があった?」
「トムか!!体は大丈夫か?」
「もうすっかり回復した。そっちの状況は?」
「未探索領域だ」
「未探索領域だって!?」
「三階層の未探索領域を発見し、捜索パーティーの痕跡を発見したため、痕跡を追ってる」
「未探索拓領域の状況は?」
「ジャングルみたいだな。植物系の魔物が多いな。今のところは何とかなるが、水も食料も心もとない」
「わかった。これから俺が潜る。必要なものをカムイさんに伝えといてくれ」
「大丈夫か?」
「任せろ。むやみに進むなよ」
「待ってるぜ」
そういってトムは離れる。宿に戻り、装備を整える。ローブをはおり、腰に刀を差す。ギルドに戻るとカムイが物資の準備を終えていた。荷物を背負うと、カムイとともに馬車に乗り込む。
ダンジョンの入口へと向かう。
クマヤ洞窟ダンジョンは鉱石の採掘ができるダンジョンで、鉱石系のゴーレムやタートルなどが主のダンジョンだ。トムは、中に入ると、視界の悪いダンジョンを三階層まで一気に駆け降りる。途中の魔物はすべて無視して、通り抜ける。階段を下りた先にかすかに発光する小石を見つけた。小石は等間隔で並んでおり、辿っていくと壁の前で途切れた。壁をよく調べると、わずかに空気が漏れている。トムはさらに詳しく調べると、わずかな窪みを見つけた。中をのぞくと、突起のようなものがあり、それを指で倒すと、壁が持ちあがった。発光する小石はさらに奥へと続いていた。
「この奥か」
辿っていく先で、巨大なツルが襲ってきた。
「イビルプラントか!」
ツルをよけて、上を見上げえると、ウツボカズラのようになった草がある。中には無数のとげがありいくつかの魔物が刺さって白骨化している。その中に人骨を見つけた。
「捜索隊か……パーティーの一員か……はたまた、過去に行方不明になった探索者か……」
よけたツルに乗り、まがまがしい花弁へと走る。ほかのツルがトムを仕留めようとするが、すべて愛刀で切り伏せる。花弁の下に体を滑り込ませ、茎を切り裂いた。まるで血のような赤い液体をまき散らし、花弁が地面に落ちる。
「どこまで進んだんだ」
やけに胸騒ぎがする。どこか焦りをにじませる。目の前には、いくつも生えるイビルプラント。
「時間がない。一気に行こう【かがり火】」
トムの刀が赤く染まる。切先にわずかに火が灯る。思いっきり上段から振り下ろす。
「【斬破・桜 花散り舞い】」
美しい火の花びらがイビルプラントを飲み込み、焼き尽くしていく。トムは、火がまだ残る開けた道をまっすぐ進む。そして、湖に出て、その周りに多くの人影があった。。
「おーい!救援にきた!トム・ヘイカ―だ!」
近寄るが、すぐに足を止める。振り返った人影は確かに人間だった。しかし、その目から職種が伸びている。
「!!」
トムはすぐに距離を取る。まるでゾンビのように、体を引きずるようにこちらに近づいてきた。
「これは……」
後ろに気配を感じて、振り向きざまに刀を振りぬく。途中で壁のようなものに遮られた感触がした。
「落ち着け俺だ」
聞きなれた声を聴いて刀をしまう。
「グルート!よかった」
「トム、お前もよかった」
そういって、こぶしを合わせる。そして、目の前の地獄絵図を見る。
「これはどうしたんだ?」
「ブレインジャッカーに寄生された」
「なんだって!!」
ブレインジャッカーは生物の口腔から侵入し喉に寄生する寄生虫型の魔物だ。寄生されるとこの虫は尻にある卵管をのどの壁に突き刺し、生物の脳まで伸ばしそこで卵を産み付ける。ふかした幼虫が脳を食い荒らし、その生物の脳の代わりに働く。幼虫に脳を替わられた生物はほかの生物を成虫のいる場所へ誘導するように行動する。
「救出パーティーは見つけたんだが、すでに寄生されていてな、それに気づかず、声をかけた探索者がやられた。そっからはゾンビパニックよろしく、捕まったやつからあの湖の水無理やり飲まされて、ほとんどあぁなっちまった」
グルートは指をさす。その先には甲冑を身にまとった女騎士がいた。ほかの人に比べてキレイな外見だが、目が正気でないのは明らかだ。
「お前は?飲んでないんだろうな」
「俺はまだ大丈夫だ。それよりどうする?」
「ブレインジャッカーは虫下しを卵が孵化する前に飲まなきゃ助からない。もう孵化しちまってるやつらはもう無理だろう。全員楽にして遺品回収だ」
トムは歯を食いしばり、こぶしを握り締める。上位と言われた探索者でも、未探索領域ではあっけなく命を落とす。それは、今までも何度も突きつけられてきた現実だ。それでもなれるものではない。
「わかった。やろう。」
短く返事をした、グルートとトムは集団の前に姿を見せる。全員が勢いよく襲い掛かってきた。ガタイの良い探索者だったものが、大斧を振り下ろす。地面が割れるが、トムは半身で躱し腕を切り落とした。
「すまん」
そう呟いて、赤く染まった刀身で刺した。
「【刺突・彼岸花】」
赤い炎が冒険者の体を包み込む。ガラガラと装備だけを残して消えていった。最後の火花が天へと昇る。
「今楽にしてやるからな」
「【フレイムキャスト・フレイムジャベリン】」
グルートの周りに赤い魔方陣がいくつも展開され、火の槍が冒険者に刺さり燃やし尽くしていく。女騎士がトムの方へやってくる。ヘロヘロの県筋はトムにかすりもしない。
「なんでお前は、未探索領域になんて踏み込んだんだ」
恨みがましく呟いて、女騎士の首を落とす。体と頭が発火し、消えていく。消えた首からネックレスが落ちた。トムはそれを拾い、グルートを振り向くと巨大な火球が飛んできた。かわしきれず、右足が燃える。熱さと痛みに耐えかねて、膝を折る。
「グルート!何して……!」
グルートを見ると、左目から触手が伸びていた。
「お前も……」
雨のように降り注ぐ火球をよけながら、グルートの首を落とそうとするが魔法障壁に阻まれる。即座に、突風が起き、トムを吹き飛ばず。風が炎を巻き上げ、大きな竜巻に変わる。
「【枯山水】」
刀身が青に変わる。トムは唇を血が出るほどかみしめながら、炎の竜巻に突っ込んでいく。
「【油凪】」
水の膜を張って内部に入る。
「【斬破・鉄砲水】」
雫がグルートめがけて飛んでいく。グルートは風の障壁でそれを防ぐ。前面に魔法陣を展開し、そこから、雷が龍をかたどり襲い来る。
「【かがり火】!」
トムが刀を振り、炎の壁を作って龍を防ぐ。もう一度、グルートの魔法をかいくぐり切ろうとするが、トムの足元に魔法陣が広がる。魔方陣から鎖が飛び出し、トムを縛り上げる。グルートがゆっくりと近づいてくる。その手には、水筒が握られていた。トムの頭が警鐘を鳴らす。
『あの水はやばい』
動こうにもがんじがらめにされ、もがくこともかなわない。グルートが水筒の水を飲ませようとした瞬間、動きがピタリ止まり唇がわずかに動く。
「トム、妹を……メリナを頼むな」
そういって、トムに笑いかけた。突如グルートの足元に魔法陣が広がった。そこから青い炎が噴き出し、グルートの体を包み込んでいく。
「グルート!」
トムが叫ぶ。炎が収まると黒くなったグルートが地面に倒れる。いまだ動きトムの方に動くグルートを見たトムが、刀を振りかざした。
「すまないグルート俺が一緒に来ていれば……」
涙の雫がグルートに落ちる。震える手に力を込めて振り下ろした。
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