アーツフェスティバル開幕
曇天に、炸裂音と共に花が開く。アカデミー内にある、コロッセオのような建物。観客席には生徒やヘリルの住人、生徒の関係者等が席を埋めていた。ガラス張りの貴賓席には、国王の姿もある。建物の周りには、出店も出ており、一種のイベントごとのような賑わいを見せる。コロッセオの中心にアカデミーの理事長であるライラだ立ち、長杖で床を叩く。騒がしかった人々が理事長に視線を注ぐ。先ほどまでの喧騒がウソのように静まり返り、ライラの口元には魔方陣が浮かんでいる。
「原石たち、今日は堂々と、全力をもってぶつかり合いなさい!互いを研磨し玉となる様を、私たちに示すのです!このアーツフェスティバルのルールはたった一つ!相手を殺さない事!これを破らないのであれば、好きになさい!会場は私が結界で保護しています!救護にもムートさんがいるので大抵の事では死にません!存分に研鑽なさい!」
ライラの声が空気を震わせる。
「アーツフェスティバルの開幕を宣言します!」
ライラが長杖を上に向げる。杖の先に魔方陣が浮かび、そこからおびただしい数の鳩をかたどった、白い炎が上空へと舞い上がる。鳩たちは空で一か所に集まると円環となって曇天に穴をあけた。曇り空が一気に晴天へと変わる。その演出に、大きな歓声を上がった。
試合が始まり、闘技場では、中等部の生徒達が戦い始めようとしていた。
「さぁ、始まりました!アーツフェスティバル!司会は私、アイク・シューバレンがお送りいたします!解説にはこの国の【八偉人】の一人【槍神】オイゲン・ヘルテクス様をお招きしております!宜しくお願いしますオイゲン様!」
拡声の魔道具を片手にアイクと名乗る司会の男は、制服を着ており、アカデミーの生徒であることが分かる。話を振られたオイゲンはアイクの勢いに少し気圧されながら、マイクを取る。
「おまえ……元気良いな……。まぁいいや、今年は楽しませてくれよ!がハハハハハ」
豪快に笑うオイゲンの目の前では、中等部の学生たちが闘技場に上がっている。
「さて、まずは、毎度おなじみ中等部による【サバイバル】です!ルールは簡単!場外になったら失格、各グループ十名になるまでのバトルロイヤルです!まずはAグループ!オイゲンさんは注目してる方はいますか?」
「このグループは、グルーブ伯の娘もいるし、リットー男爵の所の息子もいるのか、二人ともなかなかにやる聞いてる。でもやっぱり、勝ち残るのはマリー・ヘイカーだろうな」
「ヘイカー家の御息女ですね【氷傑のマリー】の名前は高等部にも届くほどです。」
オイゲンとアイクのやり取りを右から左に聞き流しながら、マリーは杖の確認と準備運動していた。
『兄さんに良い所見せないと』
兄の姿を探していると、声を掛けられる。
「マリーさん今日はいつものように行くとは思わない事ですわ」
好戦的な態度で話しかけてきたのは、縦ロールの女生徒だった。その後ろには、数人の取り巻きが見える。
「誰でしたっけ?」
マリーは見覚えのない生徒に、首を傾げる。相手は顔を真っ赤にして、怒鳴り返す。
「エリザベス・ティールです!」
「誰です?」
名前を聴いても思い出せなかった。
「――――――っ!その余裕もここまでです!」
エリザベスはそう吐き捨てて、マリーから離れていった。マリーは何だったのか首を傾げていたが、そろそろ始まるようなので頭を戦闘に切り替える。
大きな炸裂音と共に、アイクの声が響く。
「スタートです!」
生徒達が次々と戦闘を開始、さっそく乱戦状態へと突入した。次々失格になる生徒たちをよそに、マリーは自分に近ずく気配に気づく。先ほどのエリザベスだ。
「アーツフェスティバルは殺さなければなんでもあり、いくらあなたでも5対1は厳しいのではなくて?」
エリザベスの声とともに、マリーは自分が囲まれていることに気づいた。ダンジョン内ではないため、探知魔法を使っていなかったとはいえ、自分が気付かないなんて、そう思い急に現れた他の女生徒に目を向ける。すると、見慣れないローブに目が行く。
「気づきまして?隠形の魔道具ですよ。さぁ、失格になってもらいますよ!」
5人が詠唱を始める。5人で詠唱して発動させる大規模魔法を展開しようとしているらしい。5人の詠唱が終わり、魔方陣が重なり合い光った。瞬間爆発が起こる。数人の生徒が巻き込まれ、場外に吹っ飛ばされた。
「オオッと、これは合同魔法の【メテロ・エクスプロージョン】ですねぇ!早速チーミングが起きてるようです」
「5人の魔術師の合同魔法、あなたでも無傷とはいかないでしょう」
エリザベスは吹き飛ばされたであろう、マリーを探す。しかし、見当たらない。まさか、威力が高すぎて消し飛ばしてしまったかと、表情を青くする。その時声がきこえた。
「二重にする必要ありませんでしたね。反省です」
煙が晴れるとそこには、結界で守られた無傷のマリーがいた。
「バカな!手加減したとは言え、攻城戦で使われる魔法ですよ!」
「手加減?」
エリザベスの言葉を聞いたマリーから、黒いオーラが漏れ出始める。
「へ?」
「今手加減と言いましたか?」
マリーの声は氷のように冷たい。それに呼応するように周囲の気温も下がってきた。エリザベスと取り巻き達は、ガタガタと震え出した。それが寒さなのかマリーの気迫に圧されているのか分からない。分かることは一つ、ここから逃げねばならないという事。
「そうですか、私はまだ、あなた方程度から手加減されるほどという事ですか」
ブツブツ呟くマリーからエリザベスたちが逃げ出そうと走り出した。
「どこ行くんです?」
マリーが横なぎに杖を振るう。出現したのは水の玉。その玉は、急にはじけたかと思う鉄砲水のような勢いで闘技場すべてを呑みこんだ。水が引き上げると、エリザベスたちをはじめとする大半の生徒達が場外へ押し流されていた。数名の生徒がそれぞれの方法で難を逃れたようで、場内に残っているのはマリーを含め10名となった。
「おおっと、一瞬で決着です!Aグループ終了!」
アイクの終了宣言がマリーの魔法による傷跡が残る闘技場に響く。
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