ダンジョン【講義室】ボス:レーラー戦①
スライムは、駆け出し冒険者が魔物討伐任務のレクチャーを受ける際によく使われる。その気になれば、その辺の子供でも討伐できる魔物である。しかし、それはあくまで劣等種と呼ばれているスライムのみである。年月が経ち、上位種のスライムになると、その強さは時にドラゴンにも勝るという。討伐にも国軍が動き、その数千が犠牲になる。一番厄介な点は、上位種は原則として、特殊な能力を一つ持っている事である。レーラーが出したレジェンダリースライムは、歴史上未だ二回しか発見されていない。そして、どの史実にもこうある。
『レジェンダリースライムの討伐は不可能』
レジェンダリースライムは、公式記録において討伐に成功していない。
レーラーの出したスライムが、レジェンダリースライムだと気づいたトムは、すぐにその場から跳んだ。跳んだ瞬間さっきまでいた地面がバシンと何かを叩きつけたような音を立てて、大きくへこんだ。トムはマリーの横に着地する。
「マリー、ここはボス部屋だ。全力で行け。詠唱の時間は気にするな」
「はい!」
ダンジョン内で唯一地上まで転移できる階層がボス部屋である。ボスを倒すと、転移の魔法陣が部屋のどこかに現れ、それを使用することで地上に戻ることが出来る。なので、ボス部屋では、帰還を気にせずに全力で戦うことが出来る。
「【枯山水】」
マリーが詠唱に入り、トムの刀が青く染まり水が滴る。ブンという音が聞こえた瞬間、トムが刀を横なぎに振る。先ほどのように地面はへこまず、代わりにトムの足元にスライムの一部がベチャっと音を立て落ちた。どうやらスライムが、自分の体の一部を伸ばし鞭のように振るっているようだ。トムはスライム本体を見据え、刀を構える。先ほどと同じブンという音が、今度は複数聞こえる。
「【砕け波】」
トムが刀を振り、滴る雫が触手に飛ぶ。水滴と触手がふれあった瞬間、数百倍にも膨れ上がり岸に打ち付ける波のように勢いよく破裂した。同時に触手もはじけ飛ぶ。
「兄さん行きます!」
詠唱が終わったマリーが、トムに声をかける。マリーの背後には巨大な氷の玉が浮いていた。
「【オールコールド】」
マリーが最後の呪文を唱えると氷の玉が、スライムに当たる。玉が割れ、中から絶対零度の冷気が広がっていく。スライムは徐々に体の動きを鈍らせ最後には完全に凍り付いてしまった。トムがスライムの下にかけていき、凍ったスライムをたたき割ろうとした瞬間、スライムの氷が割れ、中から触手が勢いよく飛び出した。トムは腹にその一撃を喰らい、マリーの横を通り抜け、後ろに吹っ飛んだ。
「兄さん!」
「スライムから目を離すな!」
トムを心配して、振り向こうとするマリーをトムが制止する。トムは、体制を立て直そうとした瞬間、体にしびれが奔り思わず膝をつく。
「マリー!スライムを牽制しててくれ!」
「ハイ!【アイスジャベリン】!」
マリーは無数の氷の槍を周囲に展開すると、それをスライムに向けて撃ち続ける。スライムはそれを全て触手ではじき落とすも、マリーの手数が多すぎて攻撃できない。
「【後光】」
トムの刀がぼんやりと光る。
「我に巣食う災いを払え【解呪歌・ナイチル】」
刀の光が強くなり、トムの体を包み込む。光が消えるとしびれがなくなり、トムは立ち上がるが腹に走る激痛に一瞬顔をしかめる。そして自分の甘さを責めた。
『正直舐めてたな。まさか、物理完全無効、全属性絶対耐性、状態異常魔法の三つも特殊能力持って
るなんて、道理で討伐不可能だなんて言われるわけだどうする?』
トムは、マリーと対峙しているスライムを見て、その後方で、ずっとその様子を見ているレーラーを見る。
『レーラーが召喚したんだ。絶対に攻略法がある、しかしどうやって?色々試すしかないか』
トムは、マリーの放つ氷の槍の隙間を
器用にすり抜け、共にスライムに向かって行く。刀の光は消えており、雪のように白い
刀身でスライムを斬りつけようとするが、スライムがそれを躱した。
『避けた?』
そのことに引っ掛かりを感じ、マリーに声をかける。
「マリー魔法を止めろ!」
トムの掛け声でマリーが魔法を打つのを止めた。その瞬間、先ほどまでマリーの魔法を叩き落としていたスライムの触手が全てトムに迫る。
「兄さん!」
マリーの心配の声を背に受けながら、トムは触手ごとスライムを真っ二つに斬った。しかし、二つに分かれたスライムは互いの方へうごめき、合体した。
『こいつもしかして、耐性を同時に発動できない?』
「マリー!魔法攻撃と合わせる!何でもいいからスライス攻撃してくれ!」
「分かりました!【アクアルバレット】」
マリーが発動した水の弾が勢いよく飛ぶ。先ほどの氷の槍よりもスピードが速く、スライムが反応できていない。トムは、自分を攻撃する触手をさばきながら、水の弾が着弾するタイミングで、スライムを斬った。スライムは二つに分かれ、動かない。合体する様子もなく、ドロドロの液体になっていき、消えてしまった。トムは、すぐにレーラーに向き直る。
「お見事です」
手を叩き微笑むレーラーの姿は、問題を解けた生徒を見る教師のようだった。
「次はお前だ」
「今のあなたなら、良いでしょう。私の本気をお見せします」
レーラーも杖を構える。相対する二人の顔には笑顔が浮かんでいた。
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