悪夢
王族参観というとんでもないことをが決定してしまったトムは、テロンの授業を聴きながらも、頭の中で考える。
『この前話した疑似ダンジョンに入りたいんだろうけど、あれは生徒の課題用だし、あの人たちが楽しめるように改造しとかないと』
そんなトムの額目掛けて、ビー玉サイズの水の玉が飛んでくる。トムはそれを首を傾けて躱す。
「トム、ワシの授業は退屈か?」
テロンは、笑顔で問いかける。孫に向けるような穏やかな顔だ。しかし、その手にはしっかりと杖が握られ、トムに向けられている。
「いや、ごめんなさい。ちょっといろいろ考え事をしていて、だから、水の弾を飛ばすのは辞めて頂きたい」
トムは両手を上げて降伏の意思を示す。
「どうせ避けるじゃろ」
「だからって、殺傷能力高い魔法生徒に向けるなよ!それ、頭に当たったら貫通して即死だろうが!」
トムの訴えを無視し、テロンは授業を再開する。他の生徒はテロンのそんな態度を見たことが無いようで驚いている。トムはそんなみんなの反応を不思議に思いながらも、また思考のを巡らせる。考えるうちに、だんだんと瞼が降りてきてしまい、ついには目の前が真っ暗になってしまった。
トムは息を荒げ、木造りのベッドの上に横たわる。白衣に男が触診し、近くにいた青みがかった髪を持ちショートワンドを腰に携える、ローブを着た青年に病状を告げる。
「ダンストン病ですね」
「ダンストン病?」
「この土地特有の風土病で、肺に激しい痛みを伴う高い発熱と嘔吐が特徴です」
「治るのか?」
「薬がありますので、それを飲んで、三日ほど安静にしていれば良くなります」
「そうか、ありがとう薬を頼む」
医者が薬を取りに行くと部屋を出て行くと、青年がイスに座りトムの方を向く。
「これじゃあ、救助に行けねーな。まぁ、ギルドが用意した他の探索者たちもいるし、お前無しでも大丈夫だろ」
「すま……ない」
蚊の鳴くような声で、謝罪を口にするトム。
『だめだ!』
トムの頭に声が響いた。
「まぁ今まで頑張り過ぎたんだ。上級ダンジョンもあと半分だ。少しゆっくりしてもバチはあたらんだろうよ」
青年はそう言って、席を立つ。
「貴族のお嬢さんの救出任務は任せとけ、お前が居なくてもなんとかなる」
そう言って扉に向かって行く青年の背をみて、頭の中の声が大きくなる。
『だめだ!行くな!それに行ったらお前は!』
閉まっていく扉に向かって手を伸ばして、今度は口から声が出た。
「行くな!グルート!」
目を開けたトムの目の前には、杖を構えるテロンとその周りに浮かぶ水の玉。
「トム?わしの授業はそんなにつまらんか?」
「いや、そんなことは……」
「今のアカデミーでは、問題児が少なくてのぅ。オシオキというものも、ここしばらくしていなかったのじゃ」
「それは良い事じゃない?テロン爺」
「だから、手加減できんかもしれんぞ!」
老人の見た目からは想像できない程の気迫でトムに魔法をけしかける。トムは、それを躱しながら、教室の窓から飛び降りた。
「逃がさん!」
そう言って、テロンまでもがトムを追って窓から飛び降りた。教室中がどよめき全員が窓際による。そこには、水で作られた龍に乗るテロンと全力で逃げ回るトムがいた。
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