戦慄のテディベア
トムは半円形の構造をした歴史や数学、宗教などの基本授業を受ける。『テロン爺は相変わらず教えるのうまいな』そう思いながら、板書を取っていく。終業の鐘が鳴り、基本授業が終わった。これから昼食が入り、演習を取っている生徒は、演習へその他の生徒は部活などに移動する。トムはエリーゼ、ドレット、リコと食事をとっていた。
「トムはこの後どうする?」
「この後は、明後日のダンジョン学の授業の準備。お前らは?」
「俺は、魔道具演習」
「私は騎士演習」
「わ、私は手芸部に」
エリーゼたちが答えると、トムはあることに気づいた。
「リコって、手芸部なんだ」
「はい、その、編み物とか好きで、そこに魔法を縫い付けたりするのっておもしろくて」
「あぁ、あの、巨大テディベアが飾ってある部屋の」
エリーゼが手芸部の部室を思い出しながら呟く。
「あのテディベア動くってほんとか?」
「う、動きませんよぉ」
「あれ?なんか夜な夜な動くって聞いたんだけど」
「ドレット、あんたそれ学園の有名な怪談話でしょ」
トムが、怪談話に反応した。
「怪談話?」
興味を示したトムを怖がらせてやろうとドレットがを声音を変えて語りだした。
「手芸部のテディベアは夜な夜な校内徘徊して、残ってる生徒を襲って食うんだと。その証拠に、手芸部の生徒が行方不明になってるとか」
「へー、行方不明ねぇ。なぁ、そのテディベアって、ロシュ―って名前じゃないか?」
ドレットの迫真の語りに割って入る。
「そうです!良く分かりましたね」
「あれかぁ、まだあったのか」
「何か知ってるの?」
「あれはドレットの言う通り動くぞ?」
「え?!本当ですか?!」
「あれは、五年前ここの生徒だった、エリトリッヒってやつが作ったヤツで、自立式ぬいぐるみの【ロシュー】。てっきり持って帰るもんだと思ってたんだけどな。この後、手芸部に行っても良いか?」
「え?それ構いませんけど。なんでですか?」
「いや、まだ動いてるなら廃棄しないと、あれ結構危険だし」
「え……」
スプーンですくった、ゼリーを口に運びながら、さらっと重大な事を言うトムに全員が目を向ける。
トムはリコに案内されながら、手芸部の部室へと向かっていた。ドレット達もついてきたそうにしていたが、さすがに授業を休むわけにもいかず、あとから合流したマリーとその辺を散歩して戻ってきたリルイを肩に乗せて、生徒が行きかう部室棟を進んでいく。部室棟は色々な部活の部室が立ち並び、多くの委員会が使用する会議室等がある。立ち並ぶ、部屋の中から、手芸部と書かれた、ドアの前で止まる。
「ここです」
「入っても良いか?」
「はい!この時間先輩たちはまだ授業なので」
リコがドアを開けて入っていくのに続き、マリーとトムリルイが入る。中には、多種多様な毛糸などのぞ材やアップリケ等が、棚に並べられている。その奥に、おそらく先輩たちの作った作品であろう物が色々展示してあった。マフラー、巾着、靴下、そして、バカでかいテディベア。テディベアは、床に座り、背中を壁に預けるようにしてどこか気だるげである。トムは、それをまじまじと見つめる。リルイはそこらじゅうを飛び回り、毛糸を手にとっては、リコに質問をしたりしていた。そんなリルイをトムが呼び、テディベアに視線を向けたまま尋ねる。
「リルイ、ここ元通りに出来るよな?」
「出来るよー、ちょっと待っててねー」
そう言いながらリルイは飛び回り、部屋の隅々を見て回る。しばらくして、トムを向き直り、ぐっと親指を立てる。それを見たトムは、マリーに向き直る。
「マリー職員室行って、ナタリア姉さん呼んで来い」
「え?は、ハイ」
子どものような笑顔をたたえるトムの顔を見て、何をするつもりなのか薄々感じ取ったマリーは職員室に急ぐ。
「さてと」
そういうと、おもむろに、手芸部部室の窓を開ける。二階にある手芸部からは運動部が準備運動していたり、魔法の打ち合いをしているのが良く見える。
「あの、トム?何を?」
不安そうに聞くリコにトムは楽しそうに答える。
「大丈夫、ここではやらないから」
そう言いながらテディベアへと近づき、その腹を掴む。そして、そのままテディベアと一緒に窓へと勢いよくかけていき、飛び降りた。
「トム!?」
リコは慌てて窓に駆け寄り外を見る。そこには、落下したトムがテディベアを下敷きにして校庭に着地するところだった。
突然校庭に人とテディベアが落下してくるいう異常事態に、校庭で活動していた生徒達はそちらを見る。すると、トムに下敷きにされていたテディベアがトムの足を掴み、投げ飛ばす光景が目に映る。トムは、空中で体勢を変え、着地する。そのタイミングを狙いすましたかのように、テディベアが突進してくる。トムは避けず、腰を落とし、両手を前に出してそれを受け止めた。
「さーて、さっさと片付けるぞロシュー」
トムはテディベアと互いの腕を掴み、ギリギリと押し合う。若干押され気味なトムが、力を抜いて、腕を外し、テディベアの懐に潜り込む。
「八ッ!」
気合の声と伴に腹に肘鉄を食らわせる。すると、テディベアからくぐもったうめき声が聞こえた。
「やっぱりか」
トムは何かを確信したように、一度テディベアから距離を取り、大声で呼びかける。
「さっさとそこから出てこい!エリトリッヒ!」
トムの声は校庭に大きくこだました。
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