休養日の楽しみ方
昼食を食べ終え、ドレット達と出かけるため準備をしているところに、すでに、用意を終えたマリーが顔を出す。
「兄さん、ドレットさんたちがいらっしゃいましたよ」
「おう、今行く」
短く返事をすると、後ろ手に髪を結び、愛刀の【白無垢】を腰に差す。
「白無垢を持っていくんですか?」
「念のためな。ここの所物騒だし」
そう言って、マリーと一緒に部屋を出る。階段を下りて玄関に行くといつものメンバーが勢ぞろいしていた。
「待たせたな」
「おう、行こうぜ!」
そう言って、トム達一行は貴族街から、店の立ち並ぶ外周部へと移動していく。屋台やお店が立ち並び、人々が行きかう賑やかな喧噪の中を歩いていく。
「貴族街から出るんだな」
トムが意外そうにエリーゼを見る。なぜなら、貴族の中には、外周部のお店は品がないだの貧乏くさいだの言う輩も多く。ほとんどは、お抱えの商会や貴族街の店から買うからだ。
「学院街はこの前の騒動で、立ち入り禁止の所も多いし、せっかくだから外周部のお店に行こうって話になったの。品数とか種類とか段違いだし、私たちはここに来ることに、特に抵抗はないもの。もしかしてトムは嫌だった?」
エリーゼはトムの顔色を窺うように覗き込む。
「俺の家は基本、この辺で食材やら買ってるからな」
「そうなの?」
「家にはお抱え商会がまだいないからな」
「先日、兄さんが気に入っている商会の方がいらしたので、お母さまとの交渉次第で決まると思いますけどね」
それぞれに、雑談していると、一件のお店にたどり着いた。看板には【デュアル魔導書商店】と書かれていた。
「ここのお店は、魔道書もそうだが、魔法関連の物品も売ってるんだぜ。それだけじゃなくてよう、魔物大全なんて言う図鑑もある」
「魔物大全か懐かしいな」
早速、店の中に入ってみる。ドアベルがチリンチリンと澄んだ音を奏でる。中は商品が丁寧に並べられており、スッキリとしたディスプレイになっていた。商品の手入れも行き届いていた。マリー達はさっそく魔導書や魔道具を見に行く中、ドレットとトムは一般書のコーナーへ向かう。魔物の図鑑などの図鑑が多かったが、中には物語などもあるようだった。奥から男性店員がやってきてトムと目が合う。
「トム!帰ってきてたんだね!」
「ハーディ!ここお前の店か」
知り合いの再会に、思わずハグをする。
「知り合いか?」
「あぁ。俺がアカデミーに通い詰めてる時に仲良くなったアカデミー生だよ。お前らのいや、俺達の先輩」
「こんにちは、デュアル魔導書商店へようこそ」
「こんにちは!ドレット・キャンベルです」
にこやかな笑みで挨拶するハーディに先輩だと気づいたドレットは深く頭を下げる。その様子にハーディは慌てる。
「ドレット様、頭を上げてください、確かに先輩ですが私は貴族ではないので」
「しかし……わかりました」
渋々頭を上げるドレット。そして、騒ぎを聞きつけたのかエリーゼたちが、こちらにやってきた。
「ドレットあなた、また何かしでかしたの」
「兄さんどうしました?」
ドレットに疑いの目を向けるエリーゼとマリー、リコ、クロムがやってきた。
「いや、知り合いに会ったからな。こっちはハーディ俺の友人でアカデミーも卒業生だ」
「そうだったんですか」
全員がそれぞれ挨拶をしたあと、マリー達はまた店内の商品見に行き、トムはハーディと楽しそうに会話をしていた。
「しかし、なつかしいなぁ。帰ってきてるなら言ってくれれば良かったのに」
「入学手続きとかで、いろいろと忙しくてな」
「へぇ!トムの通うアカデミーか、行きたかったなぁ、きっと楽しいだろうな。今のアカデミーはほら、前みたく校庭が爆発したり、実験室から、キメラが逃げ出したりとかないでしょ?」
「おとなしい奴らが多いな」
ハーディと話をしていると、マリー達の買う物が決まったのか、魔道具を数個抱えて、こちらに来た。会計を済ませ、店を出ようとしたとき、ハーディがトムに呼びかける。
「トム、今日はスラムにセシリア様が来てるからな」
トムは一瞬立ち止まり、手を上げ店を立ち去った。
「セシリア様って偉人の一人よね?」
「あぁ、まぁセシリアは定期的にスラムの住人に炊き出しとかしてるらしいしいてもおかしくないけどな」
不思議ではない事なので、トムは特に気にしないことにした。
ハーディの店を出た後、食事処で軽食を食べたり、女子陣の服の買い物に男性陣が」振り回されたりと楽しい時間を過ごし、日が傾いてきた。
「そろそろ帰りましょうか」
「そうだな」
エリーゼの提案に全員が賛成し、貴族街へと戻っていると、横道から犬の鳴き声が聞こえてきた。野良犬化なんかだろうと特に気にしていなかったエリーゼ達だったが、トムは違った。トムは、自分の愛刀を鞘に納めたまま抜き、柄と鞘をひもで結ぶ。
「みんな、兄さんより後ろへ」
マリーが、クロムを引き寄せながら冷静に言う。
「トム?マリー?何が……」
エリーゼのトム達への問いかけは最後まで紡げなかった。なぜなら、横道からトム達の行く手を阻むように勢いよく出てきたのだ。真っ白な異形の巨人が。
「へ?なに?」
巨人には、鼻と目は無く、犬歯が並ぶ口だけがある。丸太のように太い腕と、太い脚。腰からは大きな尻尾が生え、全身は白磁器のように真っ白で、うっすら発光し異形にも関わらず、神々しく見える。巨人は顔をトムを見つけると腕を振り上げ、ハンマーのようにトムにたたきつけた。トムは、【白無垢】で受け止める。
「久しぶりだな。ポチ」
ポチと呼ばれた巨人の口が、三日月に裂け、まるで笑っているようだ。
「ワン!」
異形の怪物には似つかわしくない、可愛らしい犬の声にエリーゼたちは固まっていた。そこに、場には似合わない優しい声が遠くから聞こえてくる。
「ポチ―?ぽちー?急に走り出してどこに?」
巨人が出てきた横道から一人のシスターが出てくる。それを見て、マリーがお辞儀する。他のメンバーも頭を下げる。そのシスターは【守護聖女】セシリアだった。
「こんばんは。あら?マリー!こんなところでなにを?あれ?トムいたのですね。こんばんは」
セシリアはトムがギリギリと巨人の拳を止めているのを見ながら、呑気に挨拶を返す。
「こんばんは、セシリア。それより、ポチをなんとかしてくれ」
「あぁ!すみません!ポチ嬉しいのは分かりますが、やめなさい」
「クゥーン」
セシリアに怒られ、シュンとするポチの胸を、トムは手の甲でたたく。
「偉人会の時は会えなかったもんな」
ポチは尻尾を振りながら、頭をトムの腕の位置まで下げたので、撫でまわす。トムが撫でるたびにポチは甘えた声で鳴いた。
「そうですね、ポチはあなたにすごく懐いていますから、見つけたのが嬉しくて飛んでいったんですね。皆さんにも迷惑をお掛けしました」
セシリアが深々と頭を下げる。リコは、ポチを見て呟いた。
「【聖獣】ですか?」
「ハイ、ポチは私を守る【聖獣】です」
ポチは、エリーゼたちの方を向くと、ワンと一吠えした。そのあと、自分の経営する孤児院に帰るというセシリアとポチに別れを告げ、一行は貴族街まで戻った。
「【聖獣】って初めて見ました。あんな感じなんですね」
未だポチショックを抱えるクロムは、感想をオブラートに包む。
「ハハハ、びっくりしたろ。まぁ聖獣を周り気にせず連れて歩いてるのなんてセシリア位だからな。
聖獣は基本的にああいう感じに異形になる。それでも異形を恐れず、愛し、感謝する。そういう人間にのみ聖獣は従うし、扱えるんだ。聖獣は【聖獣位階の義】って言う、自分が子供から育てた獣の子供を媒介に、聖なる力をおろすっていう儀式で作られるんだが、これの難易度が高いんだよなぁ。媒介の獣が主人を守りたいと思ってないと聖獣にはならないし、聖獣になった獣を見て、少しでも嫌悪感を抱いたら、聖獣は暴走する」
「じゃあ、ポチさんって」
リコはポチの媒介がある程度推測がついているようだった。
「そう、犬。しかも小型犬だったって聞いた。言っとくが、純粋な戦闘力で言ったら俺よりポチの方が強いからな」
トムの言葉に、マリー以外の全員が絶句。
「まじかよ」
ドレットの呟きがこの場の全員の心境を代弁していた。そんなみんなの反応を見ながらトムは笑った。そうこうしている間に、貴族街につきそれぞれ家路につく。去り際、トムはみんなにお礼を言った。
「楽しかった。ありがとう」
ドレット達も笑顔で答える。マリーと一緒に暗くなった道を歩いて帰る。頬を撫でる風は、冷たいが心地よいものだった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
どうしてもポチを書きたくなってしまい、途中のポチにシーンは急遽付け足しました
何卒宜しくお願い致します。




