休息日
カーテンの間から柔らかな日が差し込み、部屋が少しづつ明るくなっていく。ベットで規則的な寝息を立てるトムはまだ夢の中にいるようだ。そんなトムの部屋のドアがノックされる。
「坊ちゃま、失礼いたします」
一人のメイドがトムの部屋に入る。黄金色の髪は日の光を浴び煌めいている。眼鏡をかけたメイドはトムの布団まで来ると布団を引きはがした。トムはゆっくりと体を起こし目をこすりながら大きく伸びをする。
「メイリー、おはよう」
「おはようございます。朝食の準備ができておりますのでリビングへお越しください」
無表情のまま、そう告げるとメイリーは踵返し部屋を出て行こうとする。それをトムは引き止めた。
「おい、ちょっと待て」
「何でしょう?」
メイリーが無表情のまま振り向く。
「その手に持ってるものは置いていけ」
トムがあきれ顔でメイリーに告げる。そのメイリーの手にはマグカップが握られている。昨夜トムが部屋でお茶を飲んだ時のモノで朝洗おうと思っていたものだ。
「洗っておきますので」
「いや、おまえが洗っておきますって言ったマグカップとかが戻ってきた試しがないんだが」
「そうでしょうか?何かの間違いでは?」
なおも無表情を崩さないメイリーに、ため息をつく。メイリーはトムが幼少期にトムのお付きのメイドだった使用人だ。トムがダンジョン巡りを始めるときに解任され、この屋敷のメイドとして働いている。トムが帰ってきたため、またトムのお付きのメイドとして働いている。無表情で感情は読めないが、仕事は完璧にこなし、戦闘の腕もかなり強い。今もそのロングスカートに下には無数の暗器が仕込まれているだろう。トムはメイリーのスカートを四次元スカートと呼んでいた。しかし、こんなメイリーには一つだけ困った癖があった。トムのモノを勝手に盗んでいくのだ。トムのタオルや着れなくなった服など盗られても特に困らないのだが、盗まれていくのは少し嫌な思いをする。
「お前の部屋に俺のいろんなモノが飾ってあるの知ってるんだからな!」
「おいたわしや、女性の部屋に勝手に入るなどマナーがなってませんよトム様。また、幼少期のように私が手取り足取り教えましょう」
メイリーはそう言いながらトムの腕を取りねっとりと微笑む。その目にはトムしか映っておらず怪しい雰囲気だ。トムはボソッと呟く。
「お付きを変えてもらおうかな」
その呟きと同時にメイリーはトムにマグカップを返し頭を深く下げる。
「それだけは、ご勘弁をお願いいたします坊ちゃま」
この状況ですら、未だ無感情な声だが、それはいつもの事なのでトムはマグカップを受け取りメイリーに頭を上げさせる。そしてリビングに向かう。その後ろをメイリーもついてくる。
「メイリーはなんでオレの物がそんなに欲しいんだよ?」
「坊ちゃまを身近に感じるためです」
当然のことのように言うメイリーに思わずため息をつく。
「まだ使うものは勘弁してくれ」
「かしこまりました」
メイリーと会話しているうちにリビングに着く。扉を開けると、マリー、レイカが席についていた。
「おはよう、トムちゃん」
「おはようございます兄さん!」
「おはようございます母様、マリーもおはよう」
二人に挨拶をしてメイリーが引いてくれた椅子に座る。家族三人で朝食をとり、談笑していた。
「今日トムちゃんは休みなのでしょう?これからどうするのかしら?」
「帰ってから授業やら偉人会やらで忙しかったので、今日はエストに挨拶に行こうかと」
「あぁ、あの子、すごく退屈そうにしてたものね」
「という事は森に入るのですか?」
マリーの質問に頷きで返すと、玄関が騒がしくなる。トムが廊下に顔を向けるとリルイが勢いよくトムの顔にダイビングしてきた。
「お客さんだよー」
「客?」
不思議に思っていると、サクトゥがやってくる。
「トム様、マリー様ご学友がお見えです」
そう言われ、トムとマリーが玄関まで行くとそこには、エリーゼ、ドレット、クロム、リコといういつものメンバーが揃っていた。
「ようトム遊び行こうぜ!」
ドレットはそのさわやかな笑顔をトムに向けた。
トムはドレット達を自分の部屋にあげメイリーにお茶を頼んだ。
「急にごめんなさい」
エリーゼが謝る中、ドレット達は興味深げに部屋を見渡す。
「ここが、トムの部屋かー、なんか良く分からん植物とか色々あるな」
ドレットは、瓶に入っている草の葉を覗き込みながら言う。
「すれは、リンの葉だよ。麻痺薬の材料になるな」
「物騒だな……」
ドレットは視線を外しトムを見る。
「おまえ、ダンジョン巡りで今のこの街良く知らないだろうから誘おうと思ったんだが」
「そいつはありがたいけど、この後、森に行くからなぁ」
「も、森ですか?」
リコはおどおどと尋ねる。
「おう、帰ってきたことを伝えてないヤツがいてな、伝えとかないと拗ねそうだから」
「森に住んでる方なんですか?」
「住んでるというか、何というかな」
クロムの質問に歯切れ悪く答えるトムにマリーがフォローに入る。
「住んでいるというより、森そのものなのよ、あの方は」
「「「「森そのもの?」」」」」
全員が首を傾げるとメイリーがお茶を持って入ってきた。全員でお茶を飲みながらドレットが切り出した。
「俺達もついて行って良いか?」
「別に良いけど、お前ら武装してないじゃん」
「武装が必要なの?ここいらの森なら定期的に騎士も見廻ってるし冒険者がまびいてるから奥に進まなければ安全だと思うけど」
ドレットの提案に全員を見渡し、不安を伝える。
「行くのは西にある【シープフォレスト】だぞ?」
【シープフォレスト】はその名の通り、羊が多い森だ。一見穏やかそうな森だが、その羊を求めて凶暴な肉食獣も多い森だ。そして厄介な事にこの森の羊は身の危険を感じると睡眠ガスを発して逃げる。催眠ガスで眠ってしまうと一時間は起きれず。眠っている間に肉食獣んび襲われてしまう事も珍しくない。という、危険な森である。
「シープフォレストに行くの?!」
クロムは驚いていた。学生が休息日に散歩感覚で行くような場所ではないからだ。
「その伝えなきゃいけないヤツって人間じゃなさそうね」
エリーゼがあきれながらトムを見る。
「カンが良いな、会いに行くのは【森精霊】だよ」
「「「「森精霊!」」」」
全員が驚いている様子をマリーは苦笑交じりに見ていた。
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